37 / 47
閑話 奴隷争奪戦 〜前編〜
しおりを挟む「壊れてます♪」
♪をつけるな、♪を。
ニタリと笑うブギーマンらと無言な医師達。
毎度顔馴染みブギーマンのお医者様宅配の診察で、千鶴の骨が大幅にずれ、僅かながらもヒビが入っている事が判明した。
全治二週間、絶対安静。
「日常生活も不可です。トイレも尿瓶などで御願いします。絶対に動かさないように♪」
だから、♪をつけるんじゃねぇっ!!
八つ当たりを自覚しつつも憤る毅に、ブギーマンは新たな女性らを連れてきた。
「では、この五人を御願いしますね。左の隣も部屋を連結しておきましたから」
どうやらここの作りは五部屋ずつ並ぶ真四角らしい。中央が吹き抜けになっていて、計二十部屋。この階と下の階の合計四十部屋が調教部屋なのだそうだ。
毅の部屋の左が千鶴達の部屋。右が七海の小屋。その千鶴達の部屋の左をさらに連結で繋げたとか。
思ったよりも大がかりな施設の説明に、毅は軽く眼を見開いた。
「まあ、毅君は規格外なんでね。少しお話しませんか?」
ブギーマンに誘われ、毅はプレイ部屋から初めて足を踏み出す。その出入り口は、なんとプレイルームの向こう。
コンソールのついた壁がスライドし、出入り口となっていたのだ。どうして、ブギーマンらがいつもプレイルームからやってくるわけである。
気づけよ、俺ぇぇっ!!
興味深げにキョロキョロする毅を案内して、ブギーマンは長い通路を歩いていく。幅ニメートルくらいな細い通路。等間隔で、毅が潜ってきたのと同じような扉があり、それぞれ別なプレイルームに繋がっているのだろう。
途中、何人かとすれ違ったが、軽くブギーマンにお辞儀するだけで、特に会話もない。
「今のは?」
「清掃や設備の管理をしている奴隷です」
「そういう話、しちゃって良いわけ?」
……奴隷。そんなとこにも使われるのか。
やや警戒気味なまま、毅はブギーマンの後をついていった。
そしてしばらくすると、プレイルームと反対の壁に小さな扉がある。その横にはキャットとカメラがあり、ブギーマンはキャットにカードを通してカメラを覗き込んだ。
途端にカチャっと音がして、ブギーマンの持ったドアノブが回る。開いた扉の先にあったのは大きなフロア。
「……すげぇな」
そこはさっきの説明にあった吹き抜けなどではない大きな部屋。いや、劇場みたいな観劇席がずらりと並んでいる。
ビロードの幕がいくえにも渡り、いかに重厚でクラシカルな雰囲気だ。
各席の手摺にはマイクとコンソール。その座席後ろには、それぞれ専用モニターが備え付けられてある。
自分の背後を振り返れば、壁一面の巨大なスクリーン。
なるほど。ここから鑑賞して、騒いでいるわけだな、観客は。俺等が映ってるヴィジョンと同じ光景が、この巨大スクリーンにも映し出されるわけだ。
そして各座席の小さなスクリーン。こちらはドローン専用。各ドローンが撮影しているモノをチャンネルを切り替えながら愉しめるらしい。
大雑把な説明を交え、ブギーマンは近くの椅子に座った。
納得顔の毅を手招きし、観客席に腰掛けたブギーマンの横に毅も腰掛ける。一席空けて。
「そういうところですよ。君の用心深さ。慎重で洞察力の高いところを、わたくしは買ってましてね」
いつも朗らかで飄々としたブギーマンが、珍しく困ったかのように眉を寄せて、思案げに毅を見た。
「君には天性の華がある。凄絶な色香も。しかも、残忍で割りきりが早いのに、手の届く所は見捨てられない情の深さ。ぶっちゃけ曖昧で脆い両刃の剣です」
誉められてるのか、貶されてるのか。こうして話をしているだけでは理解出来ないが、不穏な単語が端々にまろびていて、ブギーマンの話は毅の心臓を炙っていく。
..........嫌な予感がビシバシするな。
「正直ね、ここまでやれる奴隷が紛れ込むとは思ってなかったんですよね? 毅君は御気づきでしょうが、選ばれた女性は雌犬候補達。男性らはその雌犬に近しい者らが選別されただけ」
……何となくそんな気はしていた。
毅は小さく頷く。
「で、まあ、ここからは内密な話になります。雌犬らには絶対に話さないように」
念を押してから、ブギーマンは、ここが丸々一本のビルだという説明を始めた。毅の部屋で、この空間を吹き抜けだと説明したのは雌犬らがいたため。彼女達に妙な関心を持たれぬよう適当に話した。
「うちの黒服らは加減が出来ませんから。下手にここを探ろうなどとしたら、無言で叩きのめしてしまいます」
……そんなん、雇うなよ。一応、商品だろうが、雌犬は。
毅の眼が口ほどに物を言っていたのか、ブギーマンは軽く噴き出しつつ、この建物のことを説明する。
「なんと言いましょうか。彼らは職務に忠実なのですよ。……融通も利かないくらいにね。ここは、そういう場所なので。知る人ぞ知る、通称ユートピアと呼ばれる島です」
「ユートピア……?」
ヘドナかプリズンのが似合うだろうが。……いや、ここを利用し愉しむ者達には楽園なんだな。
人知れぬ無人島に建てられた背徳な目的だけのための遊戯場ユートピア。
あらゆる願望や妄想を実現出来る伏魔殿。
人身売買は言うに及ばず、金さえ出すのならば、殺人も人肉食も自由自在な禁断の闇施設。
地下には人間牧場なる物もあり、奴隷落ちした人々で売れ残った者は、そこに送られるという。
「……聞いたら戻れませんよ? この先は、真面目に人外魔境の昏い話です。良いですか?」
念をおすブギーマン。
「往くも地獄、還るも地獄だ。知らないでドツボにはまるくらいなら、知って、死物狂いで回避したる」
ふんっと鼻を鳴らす生意気なお子様に、ブギーマンは破顔した。
花もかくやな微笑みだが、半瞬おいて、それは怜悧な微笑に変わる。
「よい度胸です。……ふはっ、こんなに胸が踊るのは初めてですよ♪」
こうして始まったブギーマンの罠。八方睨みで張られた蜘蛛の巣に、まんまと引っかかる毅だった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説


イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる