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 閑話 奴隷争奪戦 〜後編〜

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 ☆注意!! この先、カニバリズム的な話や人体解体的な話題でます。お気をつけを。


「最初のころに話した達磨女とかも造れます。それだけの設備があります」

 基幹病院にも劣らぬ医療技術を備え、臓器移植や人体の提供なども破格で請け負うらしい。
 無料の奴隷が唸るほどいるのだから、いくらでも用意出来る。有効な活用方法だ。
 それぞれの部署で優秀な者を専任奴隷として育て、代々継がれてきた知識と技術。それ一筋に教育を施される奴隷達だ。外界の下手な専門家を凌駕するスペシャリスト。
 外との交渉に必要な人材には戸籍を持たせるが、それ以外の奴隷は使い捨て。労働、食材、肉便器など、用途ごとに振り分けられる。

 そこまでは毅にも理解出来た。人として納得は出来ないが、ビジネスとしては成り立つのだろうと。

 理解の範疇を越えたのは、ここからだった。

 掻爬なども日常茶飯事。通称ドブ浚いと呼ばれ、ある程度育てた胎児を食材として提供していたりもするのだとか。
 奴隷と猛獣を闘わせて補食されるショーや、死ぬまで拷問し尽くすショーなどもあり、お金さえ払えば、気に入った奴隷を自身で嬲り殺す事も可能なのだという。

「客の前で食べたい部位を切断し、調理して出したりなどのライブクッキングも人気なんですよね。.....もちろん、麻酔なんかしていない生きた人間をです」

 如何に食材を死なせず、最後まで綺麗に分解出来るか。こういった技術も継承され磨かれているとの説明に、強張り、固まる少年。

 毅の全身から、ざーっと血の気が下がっていく。おぞましい内容の話に、彼の内臓が逆流した。

 ..........魔窟だ。

 思わず軽く嘔吐く毅に、ブギーマンは気の毒そうな眼を向けた。

「まあ、そういった特殊性癖な人間らは、ほんの一部です。大抵の方々は淫蕩に耽るためお越しになられます」

 人間牧場などと言う物が存在するのだ。ほぼ無限に奴隷を産み出せる。
 人間を使い捨てるのが当たり前な遊戯場だ。そんな場所に生まれた人々は、自我など持たない。持たせない。そのように育てられる。

「……ここを失くさないために命を張るのが奴隷の仕事です。そういうものだと思っておりますし、特に憐憫もございません。わたくしどもはね。で、君等の話です。ここまで話せば分かりますでしょう? ここを訪れる御客様が、どのような生き物なのかも」 

 言いなりで従順な奴隷達に飽きたお客様らを、新たに楽しませるため始めたのが、素人らを拉致した奴隷調教だった。

 ちゃんとした人生を営み、正しく人格を形成してきた者らを拉致監禁し、悲惨な状況で壊れていくのを鑑賞するゲーム。
 真っ当な若者が悪徳に染まり、嘆き、少しずつ歪んで壊れていく。
 そういった見せ物が、酷くお客様を興奮させるのだとか。
 さしずめ毅らは囚われた籠で観察される、実験動物のような物だったのだ。
 リクエストに応えて背徳に染まり、ユートピア側の人間になるか、良心の呵責に耐えきれず、精神を病んで壊れていくか。

 大抵は、そのどちらかなのだと言う。

「でもねぇ。君は違ったんですよ」

 ブギーマンがくしゃりと顔を崩した。

 毅は見事にお題をこなし続け、それでいて自己主張も忘れず、さらには手に届く限り救う事を諦めないしぶとさを見せた。

 何より容赦のない調教。

 素人では有り得ない思いきりの良さと、相手の限界をさぐる洞察力。
 道具を使うことにも躊躇はなく、まるで当たり前な自然体でショーに挑んでいた。
 自身が嬲られても屈せず、むしろ観客を挑発するような頑強な精神力。
 ブギーマンすら魅了されたという、それらを説明され、毅は戸惑った。

 ………誉められてねえっ! コイツらは誉めてるつもりなんだろうが、全く誉めてねえっ!!
 それって、こちら側の人間なら称賛に値するって事だろ?? 真っ当な人間としてはガチアウトじゃねぇかっ!!

 思わず歯茎を浮かせる毅に気付き、ブギーマンは軽く噴き出した。

「本当に面白い人間ですよ、君は。こちら側でもおかしくないほど残酷なのに、妙に情にも篤い。自分自身すら駒にする度胸と計算高さ。何で、君、一般に紛れてるんですかね? 不思議ですね♪」

 ……だから、それ、誉めてねーからっ!!

 じっとりと眼を据わらせた毅に、ふと顔を引き締め、ブギーマンはしばし考え込んでから本題を切り出した。

「ぶっちゃけますとね。君を欲しがっている好事家が山程いるんですよね。このまま解放されると、毅君は、かなり危険な状態になります」

「へあっ?」

「今回のフィストファックは仕込みでした。たぶんですが、君を解放させようと、好事家らが動き出したのだと思います」

 わけの分からなそうな毅に、ブギーマンは懇切丁寧に説明をする。

 いわく、唸るほどの金と権力をもった好事家と呼ばれる者達が世の中には沢山いて、毅を拉致監禁し、己のモノにしようと動き出したらしい。
 示し合わせてルーレットへのお題を揃え、成功率の低いモノが選ばれるようにしたのだろうと。
 毅が奴隷落ちすれば競売で。解放されたなら力ずくで。
 どちらにしてもゲームの決着をつけねばならない。だから、参加者が一斉に転落するよう、達成出来にくいお題が振られたのだろうと。

「なんだ、それ。まるで談合じゃないか」

「お金を持つってのはそういう事です。出来ない事は、ほぼ無いと言っても過言じゃありませんよ? こうして君らが、ここにいるのも、そのせいですしね」

 ぐうの音も出ない。

「そこで提案です。貴方、わたくしに買われませんか?」

「は?」

 ブギーマンは、にぃ~っと口角を獰猛に歪めた。





「何の話だったのぉ?」

 戻ってきた毅に円香が抱きつく。柔らかで良い匂いのする円香を抱きしめて、毅は人心地ついたような気がした。

「あ~~。うん。俺らの今後の事。ほら、もうトップ独走じゃん? 解放目前だしさ。所持金の受け渡しとか、色々ね」

「そっかぁ~~。早く帰れると良いねぇ?」

「うん」

 ブギーマンの言葉が脳裏から離れない毅。

『わたくしに買われませんか?』

 いよいよとなったら、それしかない。円香だけでも守らないと。

 好事家の中には円香や千鶴らなどを狙う者も多いらしい。毅に可愛がられる奴隷が欲しいとか、立派な雌犬に純粋な好意を抱いたとかもあるが、けっこうなファンが毅の奴隷達についている。
 つまり解放されても安心は出来ない。むしろ危険が増すばかり。
 こうして監禁されている檻が、今の毅達を守っていた。ここに居る限りは誰も手を出せない。
 可愛い嫁に口づけながら、毅は陰惨に眼をすがめ、宙を睨む。

 絶対に負けてなんかやらねぇ。

 雌犬も五匹増え、毅の新たな奴隷ライフが始まった。
 
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