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三章・いきなりですが冒険編

シリアスな展開

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 大魔宮殿にて、魔王は再び大魔王に呼ばれた。
 魔王は恐怖心で一杯だったが、しかし 大魔王の言葉は絶対。
 逆らうことなど出来なかった。
「だ、大魔王、さま……ここに、参上いたしました」
 片膝を突く魔王は声が震え、体中から汗が噴き出していた。
 次の謁見までに聖女一行を始末せよとの命令を遂行できなかった。
 その責任を取らされる。
 そう考えただけで、魔王ともあろう者が恐怖に支配されそうになっていた。
 大魔王はそんな魔王に、奇妙に優しく声をかけたのだった。
「魔王よ。私はおまえに謝罪しなくてはならない。本当にすまなかった」
「な、なにを?」
 魔王には理解不能だった。
 いったい大魔王になんの責があるというのか。
 困惑する魔王に、大魔王は続ける。
「私が悪かった。これは私のミスだ。明らかに私の失敗だった。そう、おまえはなにも悪くない。全ては私の責任」
 大魔王は魔王の隣まで来ると、魔王の右肩に左手を添え、耳元で囁いた。


「おまえを元帥にしたのは、私の間違いだった」


 魔王は悲鳴を上げそうになった。
 無様に情けなく、子供のように悲鳴を上げるところだった。
 それを堪えたのは、魔王としてのかすかな矜持ゆえんだったのか。
 そんな魔王を無視して大魔王は優しい声で続ける。
「おまえに聖女一行の始末を命じたのも、私の失敗。今までの数々の作戦の失敗も、全て私の責任。
 そう、最初のミス。おまえを軍の指揮官にしたこと。それが そもそもの失敗の始まりだったのだ。
 すまなかった。おまえのような無能を元帥などにしてしまって。そんな能力もないのに、元帥という大役を押しつけられてしまい、さぞや苦労しただろう。
 しかし、安心して良い。もう そんな苦労をすることはなくなるのだ。
 おまえを元帥の役職から解放することにした。
 嬉しいだろう。もう つらい思いをしなくて良いのだ。
 おまえは元帥という大役から解き放たれた。
 代わりに、おまえは私の愛を失うことになったがな」
 魔王は言葉を返すことが出来なかった。
 そんなことも思いつかなかった。
 ただ 心を一つのことが占めていた。
 もう 終わりだ。
 俺は もうお終いだ。
 大魔王様に見捨てられた自分は、愛を失った俺は生きる術などない。
 もう なにもかもお終いなのだ。
 大魔王はそんな魔王に優しく囁く。
「しかし だ……」
 ……しかし?
「しかし、そもそもの失敗は、私がおまえの力不足を見抜けなかったことが原因。
 それなのに、おまえの力のなさばかりを責めるのは酷というもの。
 だから私は考えた。おまえにさらなる力を与えよう、と」
 大魔王は魔王から離れると、中指と親指でパチンッと音を鳴らす。
 すると、外に控えていた妖術将軍が入ってきた。
「だだだ、大魔王様! お呼びいただき 感激ですじゃ!」
 大魔王は緊張しまくっている妖術将軍に質問する。
「準備は整っているな」
「はいですじゃ!」
「よろしい」
 大魔王は妖術将軍になにかを確認すると、魔王に命じた。
「魔王よ。妖術将軍に改造手術を受けるのだ」
「か、改造、手術?」
「そうだ。妖術将軍は私の命令で、強力な魔物の製造、造魔の研究をしていた。
 造魔のことはおまえも知っているだろう。その研究が完成したのだ」
「ま、まさか、つまり……」
「その通りだ。おまえは造魔となり、新たなる強靱な肉体を手に入れるのだ。
 おまえが完成した造魔 第一号となるのだ」
 だが、それは化け物 同然となることと同義。
「安心しろ。姿は今のおまえとさしたる違いはない。細胞レベルでの処置が可能なのだ」
 しかし それでも、魔王には躊躇していた。
 もし、失敗したら。
 もし、なにかあったら。
 もし、もしも……
 迷う魔王に、大魔王は静かな声で囁く。
「魔王よ。なぜ おまえは失敗が続いていると思う?」
 魔王は体がビクッと硬直した。
「かつてのおまえは こんなことで臆したりはしなかった。力を手に入れることにためらいなどなかった。
 私という後ろ盾がなかった頃、おまえは もっと貪欲だった。野心的だった。傲慢なまでにだ。
 それこそが おまえを強くした。魔王にしたのだ。
 しかし、私が愛を与えてから、おまえは保守的になってしまった。そう、守りに入ってしまったのだ。
 そんな心構えでは子供にも負ける。
 おまえに必要なのは、挑戦だ。力への飽くなき渇望なのだ」
 大魔王の言葉は魔王を諭していた。


 そうだ。
 俺は大魔王様の愛を受け、いつの頃からか守りに入っていた。
 大魔王様の愛を失いたくないとの思いから、保守的になってしまった。
 かつての俺は、力を手に入れるためならなんでもした。
 傲慢なまでに貪欲で 野心的だったはずだ。
 いつの間に挑戦心を失っていたのだ。
 力を求める渇望もなくしていた。
 俺は、大魔王様の愛を失いたくない一心で、自分をなくしていたのだ。


 魔王の眼に力がみなぎった。
「ハハァー! 大魔王様! 貴方のおっしゃることは至極もっとも!
 この俺としたことが 自らを見失っていたようです!」
 大魔王は感嘆の声。
「おおぉ……その瞳。どうやら自分を取り戻せたようだな」
「ハッ! 造魔改造手術! なにとぞ 俺に行ってくださいませ! 新たなる力を手に入れ 聖女一行を打倒して見せましょう!」
「うむ! 頼んだぞ!」


 わたしは悪友に、
「大魔宮殿じゃ こんな シリアスな展開になってたのよ ガッデム。
 そういう真面目な方向になると命の危険があるから嫌なのに」
「別に良いじゃん。最終的に大魔王 倒せて、あんたもみんなも生きてるんだから」
「それとこれとは話が別」


 さて、大魔宮殿でそんなシリアスな展開が行われていた頃、わたしたち聖女一行は、冒険者組合からの連絡で、北の国へ来た。
 なんでも各国の王が集まって緊急会議を開くとか。
 で、なんかわたしも出席して欲しいそうだ。
 北の国に到着すると同時に、騎士小隊がお迎えに来て、そのまま全員 王さまが集う会議に出席する流れに。
 出席者はわたしたちの他にも色々いた。
 ちょっと おぼえるのが大変かも知れないけど、先に一通り説明しておこう。


 まず北の王さま。
「お初にお目にかかる。聖女殿」
 銀の髪が神秘的な美老人。
 いやん、素敵。 


 次に武闘大会の時の、南の王さま。
「はっはっは。また お会いしましたな」


 わたしたちの故郷の王国の王さま。
「久し振りだな、聖女。精鋭中隊長。それに勇者殿。そして、銀の月光の魔術師」


 姫騎士さんのお父さんである、西の王さま。
 姫騎士さんを見ると、娘への溺愛を感じさせるデレッとした顔になり、
「おお、我が娘よ。久し振りだな。もっと顔を近くで見せておくれ」
「父上、お久しぶりです」


 初対面の 東の女王さま。
 色んな装飾品を付け、複雑な刺繍が施された服を着て、中華的な装いをしている。
「聖女よ、お会いできて光栄じゃ」
 東の女王さまは、顔を布で隠しているから年齢は分からないけど、若い声をしていた。


 もう一人 初対面の、軍事大国の王さま。
「ふん」
 背は低いけど筋肉質な、無愛想で威圧的な中年。


 聖王国からは聖姫さま。
 わたしは聖姫さまにこっそりと小声で、
「あの、あの後どうなりました?」
「とりあえず三十八人まで、筆下ろししてあげました」
 そう、大臣たちが筆下ろしして欲しいとか言ってたけど、なんと聖姫さまは承諾したのだ。
「本気で全員 筆下ろししてあげるつもりなんですか?」
「私の使命は、童貞をこじらせて処女厨なった人たちを全て筆下ろししてあげることです」
「ああ、そうですか」
 これ以上 聞くのはよそう。


 そして賢者の国から賢姫さま。
「お久しぶりですわ、勇者さま」
「わしもおるぞい」
 ついでに大魔道士さまもいた。


 わたしは意味が分からず手を怖ず怖ずと上げて質問した。
「あのー、これはいったいなんでしょう?」
 賢姫さまが答えた。
「大魔王の居城、大魔宮殿へ攻めるための軍事会議ですわ」


 続く……
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