上 下
7 / 24

ティアラの事情3(ティアラ視点)

しおりを挟む
「うわぁぁあああん! じいや、じいや!」
「落ち着いてくださいませ、ティアラお嬢様」

 王子との二度目の対面の後。
 帰宅した私は――じいや……執事のセバスチャンに取りすがって全力で泣いた。
 嫌われた、絶対に嫌われた。
 私が失礼な態度を取ってしまった後。王子は、氷のような無表情になってしまわれたのだもの。対面が終わるまで、ずっとだった。
 セバスチャンの大きな手が優しく何度も背中を撫でてくれる。私は執事服に涙や鼻水を付けてしまったことを申し訳なく思いながらも、泣かずにはいられなかった。

「……じいや、私、先日ひっぱたいてしまったのに。王子は今日も優しくしてくださったの」

 そう。初対面の時も、今日の対面の時も。
 王子はとても優しかった。『氷の王子』なんて噂は、まるで嘘だったかのように。
 最初は私を試しているのだと思ったけれど、ひっぱたくなんてことをしても優しい王子を見て違うのだと気づいた。

「そうなのですね、お嬢様」
「こんな可愛げのないティアのことを、可愛いって言ってくださったの」
「それは素敵ですね、お嬢様」
「ご公務でお忙しいのにご負担をかけたくなかったから。だから嬉しかったけど、プレゼントもお断りしようって思ったの。あんな言い方、するつもりじゃ……」

 毎週王子から届くプレゼントは、嬉しかった。
 時々男の人の趣味だなぁというものも混じっていたけれど、それも王子が手ずから選んでくれた証拠だと思うとたまらなくときめいた。
 お礼状にはもっと言葉を尽くした方がいいのだろうと思ったけれど、胸がいっぱいになりすぎていつも『ありがとうございます』の一行しか書けなかった。
 ご公務がとても忙しいと噂で聞いて、寂しいけれどプレゼントは控えて欲しいと思った。
 血税からのものだと思うと、畏れ多くもなっていたし。

「おうじが、てぃあって呼んでくれたのもっ。うれしかったのに……」

 ……どうしてあんなきつい言い方を、してしまったの。

 ぜんぶ嬉しかったのに、恥ずかしくなって全力で拒絶してしまった。
 昔から私は恥ずかしいと天の邪鬼な言葉を吐いてしまう悪い癖がある。
 きっと王子は二度と『ティア』と呼んでくれないだろう。
 それが悲しくてどうしようもなかった。

 実は初対面の後、王子に会いに王宮に行ったことがある。
 あの日の私の非礼を改めて謝りたかったからだ。
 侍従に連れられこっそりと部屋を覗くと……王子は綺麗な女の人たちに囲まれていた。
 だけどその表情は冷たい氷のようなもので『ああ、私へ向ける顔は違うものなんだ』と。それがわかって嬉しくなった。
 その日はお忙しそうだったので、結局会うのは止めたのだけれど。

 ……二度目の対面を本当に楽しみにしていたのに。自分ですべてぶち壊してしまった。

 王宮や社交界では私は王子にふさわしくないという噂が立っている。
 本当に噂の通りだ。私はダメで意地っ張りで。王子の優しさに素直に『嬉しいです』と言うこともできない。

「お嬢様、一ヶ月後には婚約披露のパーティーがございますよね。そこできちんと挽回しましょう」

 じいやの言葉に私は涙で濡れた睫毛をパチパチとさせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。

三月叶姫
恋愛
私はこの世界から嫌われている。 みんな、私が死ぬ事を望んでいる――。 とある悪役令嬢は、婚約者の王太子から婚約破棄を宣言された後、聖女暗殺未遂の罪で処刑された。だが、彼女は一年前に時を遡り、目を覚ました。 同じ時を繰り返し始めた彼女の結末はいつも同じ。 それでも、彼女は最期の瞬間は必ず笑顔を貫き通した。 十回目となった処刑台の上で、ついに貼り付けていた笑顔の仮面が剥がれ落ちる。 涙を流し、助けを求める彼女に向けて、誰かが彼女の名前を呼んだ。 今、私の名前を呼んだのは、誰だったの? ※こちらの作品は他サイトにも掲載しております

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい

みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。 切ない話が書きたくて書きました。 転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...