8 / 24
王子とヒロイン(ピナ視点)
しおりを挟む
私はピナ。この世界のヒロインです。
頭がおかしいと思われそうですが、大学一年生の夏。事故に巻き込まれて死んでしまったんですよね。そして気がついたら、この世界に転生してました。
――夢中でプレイしていた、乙女ゲームの世界に。
ヒロインは王宮にメイドとして勤める伯爵家の三女で(行儀見習いってヤツですね)、王宮にいる方々と恋をしていくわけですけど……
職場恋愛なんてめんどくさいこと、私やりたくないんですよ。
前世のバイト先でも浮気しただの、あの子を見ないでだなんだって、みんな揉めてたし。身分の高い方々と、となるとそれのさらにめんどくさいバージョンじゃないですか。
陰謀とか策略とかに巻き込まれて攫われて、貞操の危機があって……のゲーム中イベントを思い返すと、ほんとにろくなことがないです。
このゲーム、誰ともくっつかずにクリアすると、毎日挨拶をしてくれる衛兵のボブ(つまりはモブです)と結婚できるんですよね。
ゲームで見た時には特になんとも思わなかったんですけど、実際に見たボブは気さくで素敵な男性で。……好きになっちゃったんですよねぇ。
私、ボブと結婚するために攻略対象とは関わらないって心に決めているのです!
現在私は十六歳。ゲームの期間は十八歳からなのでゲーム開始までにはまだ二年あります。
(なぜ十八歳かというとこのゲームが十八禁ゲームだからです)
だからって油断せずに、忍びのように生きるのですよ。
「わ!」
そんなことを考えていたら、ぼふん! と誰かにぶつかって私は尻もちをつきました。恐る恐る相手を見ると……
「シ、シオン王子!」
攻略対象人気ナンバーワン。『氷の王子』という異名を持つシオン王子がそこにいました。こ、これは……。いわゆる出会いイベントじゃないですか。
どうしてですか? まだ出会いまで二年ありますよねぇ!?
シオン王子は苦手なキャラなんですよ。デレれば素敵なんですけど、それまでの過程が怖すぎます。氷のように冷たく気難しい彼の心が溶けるまで、どんなに冷たい態度を取られても近づいていくなんて……ヒロインはドMなんじゃないでしょうか。
それにRシーンのプレイも濃いんですよね、この人。私全部知ってるんですからね!
シオン王子の氷のような青の瞳が私を見つめます。
「ひっ」
私は思わず、ひきつった声を上げてしまいました。
「大丈夫か?」
そう言ってシオン王子は私に手を差し出してくれました。あ、あれ……?
ここは『貴様、なにをしている』とかそんなセリフじゃなかったでしょうか。
「大丈夫です! 申し訳ありません!」
ぺこぺこと頭を下げながら私は王子の手を取って立ち上がります。
そんな私の様子をシオン王子は上から下までジロジロと見て。
「君は、他の女性のようにギラギラとしていないな」
と、ぼそりとつぶやきました。
ギラギラ……たしかに王子に群がる女性たちはギラギラしていますよねぇ。主に、欲望で。
シオン王子は少し思案する顔をした後に……
「その、悩みを聞いてくれないか? ……パーティー用のドレスを婚約者に贈るつもりなのだが、俺はいつも彼女を怒らせてばかりでね。女性の意見を聞きたいんだ」
そうはにかんだ顔で言われて、私はまた混乱しました。
……? 婚約者って『悪役令嬢』のティアラ様ですよね。
二人の仲ってゲーム内では、かなり険悪だったような。婚約者のティアラ嬢は王子のことが大好きだけれど素直になれなくて、心にもないことばかりを言っちゃうんですよね。そんなティアラ嬢の言葉を額面通りに取って王子は彼女を嫌っているんですけど。
そっか……ゲームの期間まではまだ間があるから。
ゲームの開始前なので、二人の仲はまだそれほど険悪ではないのかもしれません。
「ティアラ様は赤がお好きです。薄桃色がもっと好きだったと思いますけど、ご本人は自分に似合わない色だと悩んでいらしたはずです」
キャラクタープロフィールには、そう書いてあったと思います。
私の言葉を聞いてシオン王子は少し驚いた顔をした後に……
「そうなのか。助かった」
と、言って優しい笑顔で去って行きました。
わーメインヒーローの笑顔は素敵ですねぇ!
ふふふ、いいことをしました。二人が上手くいくといいですねぇ。
私はそんなことを思いながらスキップでボブのところへ向かいました。
頭がおかしいと思われそうですが、大学一年生の夏。事故に巻き込まれて死んでしまったんですよね。そして気がついたら、この世界に転生してました。
――夢中でプレイしていた、乙女ゲームの世界に。
ヒロインは王宮にメイドとして勤める伯爵家の三女で(行儀見習いってヤツですね)、王宮にいる方々と恋をしていくわけですけど……
職場恋愛なんてめんどくさいこと、私やりたくないんですよ。
前世のバイト先でも浮気しただの、あの子を見ないでだなんだって、みんな揉めてたし。身分の高い方々と、となるとそれのさらにめんどくさいバージョンじゃないですか。
陰謀とか策略とかに巻き込まれて攫われて、貞操の危機があって……のゲーム中イベントを思い返すと、ほんとにろくなことがないです。
このゲーム、誰ともくっつかずにクリアすると、毎日挨拶をしてくれる衛兵のボブ(つまりはモブです)と結婚できるんですよね。
ゲームで見た時には特になんとも思わなかったんですけど、実際に見たボブは気さくで素敵な男性で。……好きになっちゃったんですよねぇ。
私、ボブと結婚するために攻略対象とは関わらないって心に決めているのです!
現在私は十六歳。ゲームの期間は十八歳からなのでゲーム開始までにはまだ二年あります。
(なぜ十八歳かというとこのゲームが十八禁ゲームだからです)
だからって油断せずに、忍びのように生きるのですよ。
「わ!」
そんなことを考えていたら、ぼふん! と誰かにぶつかって私は尻もちをつきました。恐る恐る相手を見ると……
「シ、シオン王子!」
攻略対象人気ナンバーワン。『氷の王子』という異名を持つシオン王子がそこにいました。こ、これは……。いわゆる出会いイベントじゃないですか。
どうしてですか? まだ出会いまで二年ありますよねぇ!?
シオン王子は苦手なキャラなんですよ。デレれば素敵なんですけど、それまでの過程が怖すぎます。氷のように冷たく気難しい彼の心が溶けるまで、どんなに冷たい態度を取られても近づいていくなんて……ヒロインはドMなんじゃないでしょうか。
それにRシーンのプレイも濃いんですよね、この人。私全部知ってるんですからね!
シオン王子の氷のような青の瞳が私を見つめます。
「ひっ」
私は思わず、ひきつった声を上げてしまいました。
「大丈夫か?」
そう言ってシオン王子は私に手を差し出してくれました。あ、あれ……?
ここは『貴様、なにをしている』とかそんなセリフじゃなかったでしょうか。
「大丈夫です! 申し訳ありません!」
ぺこぺこと頭を下げながら私は王子の手を取って立ち上がります。
そんな私の様子をシオン王子は上から下までジロジロと見て。
「君は、他の女性のようにギラギラとしていないな」
と、ぼそりとつぶやきました。
ギラギラ……たしかに王子に群がる女性たちはギラギラしていますよねぇ。主に、欲望で。
シオン王子は少し思案する顔をした後に……
「その、悩みを聞いてくれないか? ……パーティー用のドレスを婚約者に贈るつもりなのだが、俺はいつも彼女を怒らせてばかりでね。女性の意見を聞きたいんだ」
そうはにかんだ顔で言われて、私はまた混乱しました。
……? 婚約者って『悪役令嬢』のティアラ様ですよね。
二人の仲ってゲーム内では、かなり険悪だったような。婚約者のティアラ嬢は王子のことが大好きだけれど素直になれなくて、心にもないことばかりを言っちゃうんですよね。そんなティアラ嬢の言葉を額面通りに取って王子は彼女を嫌っているんですけど。
そっか……ゲームの期間まではまだ間があるから。
ゲームの開始前なので、二人の仲はまだそれほど険悪ではないのかもしれません。
「ティアラ様は赤がお好きです。薄桃色がもっと好きだったと思いますけど、ご本人は自分に似合わない色だと悩んでいらしたはずです」
キャラクタープロフィールには、そう書いてあったと思います。
私の言葉を聞いてシオン王子は少し驚いた顔をした後に……
「そうなのか。助かった」
と、言って優しい笑顔で去って行きました。
わーメインヒーローの笑顔は素敵ですねぇ!
ふふふ、いいことをしました。二人が上手くいくといいですねぇ。
私はそんなことを思いながらスキップでボブのところへ向かいました。
11
あなたにおすすめの小説
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜
あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる