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転生王子は迷走する
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俺からしてみれば可愛い婚約者に出会えて『最高』の日だと思ったティアラ嬢との顔合わせだったが。周囲の人々はそういう風には、捉えなかったらしい。
とある噂が王宮のみならず、社交界をも駆け巡るようになったのだ。
――セイヤーズ公爵家のティアラ嬢は、真摯に尽くしたシオン王子の頬を打つ無礼者だ。
――名誉ある王族専用の庭園へのお誘いも断ったらしい。
――王子に無礼な口もきいていたとか。
『ティアラ嬢は王子の婚約者にはふさわしくない』
あることないことの噂の締めは、いつもそれで終わるのだ。
王宮に仕える者たちは貴族家の者ばかりである。噂好きでいつも誰かを蹴落としたがっている彼らの口に蓋をするのは難しいことではあるが、こんな噂が流れる前に対処できなかったものかと俺は後悔した。
そしてこんな噂が流れたものだから婚約をしたのにも関わらず、俺の周囲から女性たちが消えなかった。
……むしろ増えている。
なんだテメーらは、雨後の筍かなんかか。どっから生えてきてんだよ!
偶然を装っているつもりらしいが、遭遇率が高すぎるんだよ!
婚約者に『ふさわしくない』ティアラ嬢相手ならば寝取れると踏んでいるようだが。
なに言ってんだ、俺のティアたんくそ可愛いわ、ボケ!
前世の知識フル稼働で頑張ってしまったせいか俺には『デキる』という無駄な評価がくっついている。王太子教育の上に本格的な公務も重ねられ、俺は多忙を極めていた。
その上移動中やら休憩中やらに『偶然』令嬢たちと顔を合わせることになるので、ストレスが本当に溜まる。
しかも俺の天使、ティアたんとはあの顔合わせ以来会っていない。
薔薇やプレゼントは定期的に送っているのだが彼女からはそっけない文面のお礼状が一枚届くだけ。綺麗な彼女の文字を見ているだけでも幸せなのだが、やはり実物に会いたい。
そして今日はようやくティアラ嬢に会える日だ。あの顔合わせから数えて実に二ヶ月ぶりである。
彼女にもあの噂が聞こえているだろうから、少しでもフォローができればいいのだが……
「ごきげんよう、シオン王子。先日は本当に失礼いたしました」
先日の愛らしい涙目はどこへやら。ティアラ嬢は凛とした態度で俺に挨拶をした。
今日は王宮の客間で彼女と二人きりだ。と言っても部屋の中にはメイドと従者が二人、外には騎士が二人いるのだが……ヤツらのことは空気だと思うことにする。
なんでデートも二人きりでできないんだ! とは思うのだが、やんごとなき身分というのはそういうものらしい。
「いや、涙目のティアラ嬢は可愛かったから。なにも失礼ではなかったかな」
「は……か、かわ?! なっ! なにが涙目ですか!」
ティアラ嬢は険のある口調で言うと、上目遣いで俺を睨みつけた。
うん、真正面から睨むのには身長が足りないんだよね。可愛いなぁ、さすが俺のティアたん。
「そもそもは王子の距離が近すぎるのがいけないのです! 婚約者とはいえ適切な距離感は大事です」
「うん、そうだね」
だから今回は反省して、ティアラ嬢とテーブルで向かい合わせである。
これはこれで可愛いお顔がよく見えていいのだけど。ああ、可愛い。怒ってても可愛いとか天使かな。
「それにプレゼントを毎週のように送られましても……。あれは国庫からの支出ですよね。国民の血税をなんだと思っているのです」
「……ティアが喜ぶと思ったから。それにあれは俺の私財だよ。魔法関係の研究で生じたものから出しているんだ」
プレゼントをすればティアラ嬢が喜ぶと思ったのだけど……違うのだな。
読み違えてしまった自分自身になんだか落ち込む。
お付き合いの経験がない俺に女の子の喜ぶことを考えるのは難しすぎる。
「そうなんですか……って。ティ、ティア!?」
心の中でたまに呼んでいた愛称がぽろりと出てしまったらしい。
ティアラ嬢は顔を真っ赤にした後に、わなわなと震えながら口を開いた。
「そういうのがダメだと言っているのです! プレゼントは必要ありませんし、許可なく愛称で呼ばないでくださいませ!」
そう叫んでティアラ嬢はうつむいてしまった。
……俺はまた、やらかしてしまったらしい。
とある噂が王宮のみならず、社交界をも駆け巡るようになったのだ。
――セイヤーズ公爵家のティアラ嬢は、真摯に尽くしたシオン王子の頬を打つ無礼者だ。
――名誉ある王族専用の庭園へのお誘いも断ったらしい。
――王子に無礼な口もきいていたとか。
『ティアラ嬢は王子の婚約者にはふさわしくない』
あることないことの噂の締めは、いつもそれで終わるのだ。
王宮に仕える者たちは貴族家の者ばかりである。噂好きでいつも誰かを蹴落としたがっている彼らの口に蓋をするのは難しいことではあるが、こんな噂が流れる前に対処できなかったものかと俺は後悔した。
そしてこんな噂が流れたものだから婚約をしたのにも関わらず、俺の周囲から女性たちが消えなかった。
……むしろ増えている。
なんだテメーらは、雨後の筍かなんかか。どっから生えてきてんだよ!
偶然を装っているつもりらしいが、遭遇率が高すぎるんだよ!
婚約者に『ふさわしくない』ティアラ嬢相手ならば寝取れると踏んでいるようだが。
なに言ってんだ、俺のティアたんくそ可愛いわ、ボケ!
前世の知識フル稼働で頑張ってしまったせいか俺には『デキる』という無駄な評価がくっついている。王太子教育の上に本格的な公務も重ねられ、俺は多忙を極めていた。
その上移動中やら休憩中やらに『偶然』令嬢たちと顔を合わせることになるので、ストレスが本当に溜まる。
しかも俺の天使、ティアたんとはあの顔合わせ以来会っていない。
薔薇やプレゼントは定期的に送っているのだが彼女からはそっけない文面のお礼状が一枚届くだけ。綺麗な彼女の文字を見ているだけでも幸せなのだが、やはり実物に会いたい。
そして今日はようやくティアラ嬢に会える日だ。あの顔合わせから数えて実に二ヶ月ぶりである。
彼女にもあの噂が聞こえているだろうから、少しでもフォローができればいいのだが……
「ごきげんよう、シオン王子。先日は本当に失礼いたしました」
先日の愛らしい涙目はどこへやら。ティアラ嬢は凛とした態度で俺に挨拶をした。
今日は王宮の客間で彼女と二人きりだ。と言っても部屋の中にはメイドと従者が二人、外には騎士が二人いるのだが……ヤツらのことは空気だと思うことにする。
なんでデートも二人きりでできないんだ! とは思うのだが、やんごとなき身分というのはそういうものらしい。
「いや、涙目のティアラ嬢は可愛かったから。なにも失礼ではなかったかな」
「は……か、かわ?! なっ! なにが涙目ですか!」
ティアラ嬢は険のある口調で言うと、上目遣いで俺を睨みつけた。
うん、真正面から睨むのには身長が足りないんだよね。可愛いなぁ、さすが俺のティアたん。
「そもそもは王子の距離が近すぎるのがいけないのです! 婚約者とはいえ適切な距離感は大事です」
「うん、そうだね」
だから今回は反省して、ティアラ嬢とテーブルで向かい合わせである。
これはこれで可愛いお顔がよく見えていいのだけど。ああ、可愛い。怒ってても可愛いとか天使かな。
「それにプレゼントを毎週のように送られましても……。あれは国庫からの支出ですよね。国民の血税をなんだと思っているのです」
「……ティアが喜ぶと思ったから。それにあれは俺の私財だよ。魔法関係の研究で生じたものから出しているんだ」
プレゼントをすればティアラ嬢が喜ぶと思ったのだけど……違うのだな。
読み違えてしまった自分自身になんだか落ち込む。
お付き合いの経験がない俺に女の子の喜ぶことを考えるのは難しすぎる。
「そうなんですか……って。ティ、ティア!?」
心の中でたまに呼んでいた愛称がぽろりと出てしまったらしい。
ティアラ嬢は顔を真っ赤にした後に、わなわなと震えながら口を開いた。
「そういうのがダメだと言っているのです! プレゼントは必要ありませんし、許可なく愛称で呼ばないでくださいませ!」
そう叫んでティアラ嬢はうつむいてしまった。
……俺はまた、やらかしてしまったらしい。
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