上 下
21 / 191

第21話 スキル【道化師】の本領

しおりを挟む
「リリは【潜伏】のスキルを使っておいてくれ。キングディアは一人で倒してみたい」

「分かりました。少し離れたところにいるようにしますね」

「ああ、それで頼む」

 キングディアとのステータスがどのくらい離れているのか分からないが、迂闊に二人で正面から挑む意味はないだろう。

 それに一対一で上位種の魔物とどれだけやれるのかを確かめておきたい。

「リリ、こっちだ」

 俺は【気配感知】を使用して、キングディアの気配のする方にリリを連れて近づいていった。

 近くに気配を感じていたこともあって、キングディアの姿をすぐに捉えることができた。体は普通のワイドディアの三倍くらいの大きさをしていた。

 俺は遠目からキングディアに【鑑定】をかけて、そのステータスを読み取ることにした。

【鑑定結果】
【種族 キングディア】
【レベル 23】
【ステータス 体力 1700 魔力 2200 攻撃力 2200 防御力 1100 素早さ 2200器用さ 1300 魅力 1200】
【スキル:硬化D 突進D】

「俺とリリよりも低いな」

 鑑定結果は、全体に俺たちよりもステータスが低かった。しかし、ギース達のパーティを抜けてから相手にする魔物の中では、たぶん一番強い。

「それじゃあ、行ってくるかな」

「え? アイクさん、【潜伏】は使わないんですか?」

 俺が潜伏のスキルを使わずに向かおうとしているのを見て、リリが驚いたように俺の手を掴んできた。

 俺が【潜伏】を使い忘れていると思っているのかもしれない。

「色々試してみたいからさ。使わずに行ってみるよ」

「あ、そういうことだったんですね。分かりました。健闘を祈ります!」

 リリはそう言うと、【潜伏】のスキルを使用してキングディアから身を隠した。

 俺の邪魔をしないようにと思って、早々にスキルを使用してくれたのだろう。

「……いくか」

 俺は短剣を鞘から抜いて、キングディアのいる方に近づいていった。

 数歩歩いたあたりでキングディアはこちらに気づいたようで、ゆっくりと余裕のある動きでこちらに振り向いた。

 余裕のある佇まいに臆してしまいそうになるが、ステータスを見た限り俺の方が上だ。負けることはない。

 俺は仕掛けてくるのを待っているようなキングディアの誘いに乗って、地面を強く踏み込んだ。

 使用したのは【道化師】と【剣技】のスキル。【道化師】のスキルを発動させておけば、何か起きても対処できるだろうといった軽い気持ちで使用したつもりだった。

「え?」

 俺が地面を蹴った次の瞬間には、俺はキングディアの足元にいた。

 ただ強く地面を蹴ったから、キングディアの元に早く駆けつけることができたとかではない。

 瞬間移動でもしたかのように、俺はキングディアの足元にいたのだ。

 キングディアを嘲笑うように、ふとキングディアの目の前に降り立ったようにして俺はそこにいた。

 急に目の前に立たれたキングディアは、驚いたようで体を大きく跳ねさせていた。俺も同じように驚きそうになったが、せっかくできた隙を見逃すわけにはいかなかったので、そのまま【剣技】のスキルでワイドディアを切りつけた。

「ギィアア!」

 俺が跳びながら肩から斜めに一振り短剣で切りつけると、綺麗な一太刀で入れたような傷ができた。しかし、一撃という訳にはいかず、反撃をされそうになったので、俺は後ろに跳んでその攻撃を回避した。

「……体がすごい軽い」

 跳躍力が上がっていることもあるが、それよりも体が異常なくらいに軽い。軽やかな体の動きになり、自然と相手を馬鹿にしているような体の動きになっている気がした。

「もしかして、これが【道化師】の本当の力か?」

 急に相手の目の前に現れたり、相手の攻撃をひらりとかわしたり。確かに、道化師を相手にしたらされそうな戦い方だな。

「確かに、この戦い方は【道化師】そのものだよな」

 思わず戦いの最中に笑ってしまうような戦い方だった。そんな俺の余裕の態度が気に入らなかったのか、キングディアは怒ったようにこちらに突進をしてきた。

 俺がひらりとその攻撃をかわすと、キングディアの角が俺の後ろにあった木に刺さり、その木を破壊した。

 木を破壊するほどの突進。確かに、あれをもろに食らいたくはないな。

 俺は振り向いてこちらに突進してきそうなキングディアに一瞥をくれて、投げナイフを数本取り出した。

 もしかしてと思って投げナイフを数本手に持ってみたが、キングディアにはそのナイフが見えていないようだった。

 俺は【道化師】のスキルを使いながら、手元のナイフを隠すイメージをしたのだ。それだけで、俺のナイフはキングディアに見えなくなっていた。

 俺がその【投てき】のスキルを使って、ナイフをキングディアの方に全力で投げつけると、キングディアの首元と頭にそのナイフが刺さった。

「ギィァァ……」

 そして、キングディアは何が起きたのか分からないままその場に倒れた。

 ナイフは貫通するほどではなかったが、結構深くまで刺さっていた。上手い具合に急所に当たったのだろう。

 やがて、俺の投げたナイフに掛かっていたスキルが消えたのか、俺が投げたナイフは形を現した。

 俺には見えていたが相手には姿が見えなくなるナイフ。このスキルは【偽装】の一つなのだろうか?

「さすがアイクさん! キングディアをあんなにすぐにやっつけるなんて、すごいです!」

 俺がキングディアを倒したのを見ていたリリが【潜伏】のスキルを解いて、俺の元に駆け寄ってきた。

 その目はきらきらとしており、向けられ慣れていない羨望の眼差しを前に、俺は少しだけ戸惑ってしまった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

転生人生ごっちゃまぜ~数多の世界に転生を繰り返す、とある旅人のお話~

キョウキョウ
ファンタジー
主人公リヒトは、理由も目的もわからないまま、何度も転生を繰り返して色々な世界を生き続ける。 転生すると次の新たな人生が始まって、その世界で多種多様な人生を送り、死んでいく。 満足せずに途中で死んでしまっても、満足するまで人生を最期まで生き抜いても。 再び彼は、新たな人生へと旅立っていく。繰り返し、ずっと。何度も何度も。 異世界ファンタジー、SF、現代、中世といった様々な歴史の世界へ。 終わりの見えない、転生が無限に続く物語です。 ※最強系主人公&ハーレム展開のある物語です。 ※様々な世界観のストーリーを書いていきます。世界観同士に僅かな繋がりもあります。 ※章に★マークの付いた周は、主人公が女性化して物語に登場します。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...