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「当家は深い森に面しておりますので涼しい風が吹くのです。都会にお住いのお方には不便なことも多いようですが、慣れれば快適です。まあ、夜には真っ暗になりますし、夜襲をかけられたらひとたまりもありませんけれど」
振り返ったグリンバルドの目が、不自然に身体をびくつかせる公爵を捕えた。グリンバルドは内心でほくそ笑む。
噂通り気の小さい男のようだ。これなら、御しやすい。
公爵に視線を定めながら、ゆっくりとした口調で話を続けた。
「しかし、お若いお嬢様方にはさぞ物足りないことでしょう。ここはもの寂しく、華やかな娯楽もない。退屈は時に人を狂わせ、突拍子のない行動をとらせるものです」
グリンバルドは出窓に寄りかかり長い足を組む。日光を背に受け陰になった顔に笑顔を貼り付けたまま、怯える男を追い詰めていく。
「人の目がなければ善悪の区別もつかなくなる。そうなれば、もう獣と変わらない。そう思われませんか?」
「さあ、どうだろう。生憎と私は田舎には詳しくないのでわからないな」
公爵は懸命に笑おうとするが、こけた頬がひくひくと痙攣するばかりである。
グリンバルドはつかつかと公爵に歩み寄り、その背後に立つ。肩に手を乗せれば、やせ細った身体が跳ねた。
「獣と言えば妙な噂を耳にしました。閣下の本宅の周辺では、頻繁に凶暴な獣が出没して人を食うのだとか」
「ば、馬鹿な、王都に獣など出るものか」
「おや、そうなのですか? それは少し残念ですね。面白い話がうかがえると思ったのに」
グリンバルドは上体を傾け、公爵の真横から囁く。
「田舎の娯楽といえば噂話しかないのですよ。私共はそれを糧に毎日を生きているようなものです。下世話でお恥ずかしい」
更に声を落とし、身を硬くする男の耳へと注ぎ込んだ。
「だからこそ鼻が利く。聞き出す術にも長けている。少しつつけば皆口を割るのです。大きな秘密を知る人間のほとんどが、すべてを吐き出してしまいたい欲求を抱えている。きっと、ひとりでは重すぎて背負いきれないのでしょうね」
公爵は血走った琥珀の瞳で前を見据え、小刻みに震えた。
「先ほどからなんなのだ。たかが貧乏貴族風情が無礼な!」
「確かに、当家を破滅に追い込むなど閣下にはたやすいことでしょう。けれど、私は王太子殿下と懇意にさせていただいておりまして、厚い信頼も得ております。殿下は真に合理的なお方で、気が合うのですよ。使えない者は容赦なく切り捨てるというお考えだ。たとえ血縁であろうとも」
公爵は声を絞り出し、精一杯の虚勢を張る。
「……貴様、何が言いたいのだ」
グリンバルドは身を起こし公爵の前へと回り込んだ。冷え冷えとした目で見下ろすと、右手を掲げて指を鳴らす。
そして、怪訝そうな表情で見上げる公爵に、底冷えがするような冷たい声で告げた。
「お嬢様方の犯した罪を暴くなど造作もないことです。隠ぺいに手を貸した閣下をここで射殺しても、王族の血を穢した罪人を良くぞ裁いたと、殿下はお喜びになるでしょう」
身体をすっと横に移動し、グリンバルドは窓に視線を移す。
公爵はグリンバルドの視線を追った。
そして、驚愕に目を見開く。
窓の外に、銃口をこちらに向けて銃を構える男がいた。
粗野な身なりをした若い猟師である。彼は、鋭い目で照準を絞っていた。
その的がどこにあるかを悟り、公爵はひっと短い悲鳴を上げる。身体を反らし椅子の背もたれに張り付いた。その衝撃で椅子がガタガタと鳴る。
グリンバルドは椅子を押さえ、硬直し小さく震える男に決断を迫った。
「さあ、どうされます? 飼い慣らせない獣などもはや害獣。彼らの腹は生肉でしか満たせない。柔い檻で囲っても無駄なこと。この先も獲物を追い求め、牙を剥くでしょう。閣下の平穏を取り戻すために害獣は駆除するべき、そう思われませんか?」
公爵は顔を歪め、はあはあと喘いだ。
振り返ったグリンバルドの目が、不自然に身体をびくつかせる公爵を捕えた。グリンバルドは内心でほくそ笑む。
噂通り気の小さい男のようだ。これなら、御しやすい。
公爵に視線を定めながら、ゆっくりとした口調で話を続けた。
「しかし、お若いお嬢様方にはさぞ物足りないことでしょう。ここはもの寂しく、華やかな娯楽もない。退屈は時に人を狂わせ、突拍子のない行動をとらせるものです」
グリンバルドは出窓に寄りかかり長い足を組む。日光を背に受け陰になった顔に笑顔を貼り付けたまま、怯える男を追い詰めていく。
「人の目がなければ善悪の区別もつかなくなる。そうなれば、もう獣と変わらない。そう思われませんか?」
「さあ、どうだろう。生憎と私は田舎には詳しくないのでわからないな」
公爵は懸命に笑おうとするが、こけた頬がひくひくと痙攣するばかりである。
グリンバルドはつかつかと公爵に歩み寄り、その背後に立つ。肩に手を乗せれば、やせ細った身体が跳ねた。
「獣と言えば妙な噂を耳にしました。閣下の本宅の周辺では、頻繁に凶暴な獣が出没して人を食うのだとか」
「ば、馬鹿な、王都に獣など出るものか」
「おや、そうなのですか? それは少し残念ですね。面白い話がうかがえると思ったのに」
グリンバルドは上体を傾け、公爵の真横から囁く。
「田舎の娯楽といえば噂話しかないのですよ。私共はそれを糧に毎日を生きているようなものです。下世話でお恥ずかしい」
更に声を落とし、身を硬くする男の耳へと注ぎ込んだ。
「だからこそ鼻が利く。聞き出す術にも長けている。少しつつけば皆口を割るのです。大きな秘密を知る人間のほとんどが、すべてを吐き出してしまいたい欲求を抱えている。きっと、ひとりでは重すぎて背負いきれないのでしょうね」
公爵は血走った琥珀の瞳で前を見据え、小刻みに震えた。
「先ほどからなんなのだ。たかが貧乏貴族風情が無礼な!」
「確かに、当家を破滅に追い込むなど閣下にはたやすいことでしょう。けれど、私は王太子殿下と懇意にさせていただいておりまして、厚い信頼も得ております。殿下は真に合理的なお方で、気が合うのですよ。使えない者は容赦なく切り捨てるというお考えだ。たとえ血縁であろうとも」
公爵は声を絞り出し、精一杯の虚勢を張る。
「……貴様、何が言いたいのだ」
グリンバルドは身を起こし公爵の前へと回り込んだ。冷え冷えとした目で見下ろすと、右手を掲げて指を鳴らす。
そして、怪訝そうな表情で見上げる公爵に、底冷えがするような冷たい声で告げた。
「お嬢様方の犯した罪を暴くなど造作もないことです。隠ぺいに手を貸した閣下をここで射殺しても、王族の血を穢した罪人を良くぞ裁いたと、殿下はお喜びになるでしょう」
身体をすっと横に移動し、グリンバルドは窓に視線を移す。
公爵はグリンバルドの視線を追った。
そして、驚愕に目を見開く。
窓の外に、銃口をこちらに向けて銃を構える男がいた。
粗野な身なりをした若い猟師である。彼は、鋭い目で照準を絞っていた。
その的がどこにあるかを悟り、公爵はひっと短い悲鳴を上げる。身体を反らし椅子の背もたれに張り付いた。その衝撃で椅子がガタガタと鳴る。
グリンバルドは椅子を押さえ、硬直し小さく震える男に決断を迫った。
「さあ、どうされます? 飼い慣らせない獣などもはや害獣。彼らの腹は生肉でしか満たせない。柔い檻で囲っても無駄なこと。この先も獲物を追い求め、牙を剥くでしょう。閣下の平穏を取り戻すために害獣は駆除するべき、そう思われませんか?」
公爵は顔を歪め、はあはあと喘いだ。
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