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「奥様はチェストの引き出しを開けペーパーナイフを取り出すと、私に切りつけました」
「……なぜ避けなかった。お前なら母を止めることもできたはずだろう」
月明かりを浴びたグリンバルドの輪郭がぼやける。まるでこのまま溶けて消えてしまいそうな儚い光景に、胸が締め付けられた。
「私は使用人ですから。主人には逆らえません。それに、奥様の気持ちが痛いほどわかった。命を取られても構わないと思ったのです」
しかし、グリンバルドの左目を傷つけた母は我に返り、滴る血を見て半狂乱になった。悲鳴を聞きつけて屋敷の中にいた人間が駆け付ける。そして、その惨状を目にしたのである。
その事件以降、母は精神を病み、生家へ戻り療養することになった。父もまた罪悪感からか体調を崩し寝込むことが増え、遂には寝たきりとなってしまう。それでも、数年はベッドの上からグリンバルドに指示を出し、領地管理に力を尽くしていた。
しかし、グリンバルドを養子に迎える手続きを済ませると、程なく息を引き取った。
「私はスノウ様から両親を奪ってしまった」
「お前のせいじゃない」
「いいえ。私がこの家に来なかったら起こらなかった悲劇です。ですからせめて、この家を守ろうと思ったのです。貴方に良い伴侶を迎え、お仕えし、一生をかけて償っていこうと心に誓いました」
「そうか……」
スノウは目を擦る。
さすがに疲れたようである。話を聞かねばと思うが、意志に反して瞼が下りてくる。
思い返せば今日は朝から色々あった。身体もそうだが、とかく感情が酷く揺すぶられる日である。
疲労感が鉛のように重くのしかかり、頭がぼうと霞んできた。
「良く分かった。続きは明日にしよう。お前も疲れただろう、もう休め」
グリンバルドが振り返り、こちらに近づいてくる。スノウはのろのろと立ち上がりあくびをした。
「証明がまだですが」
「うん。明日でいい、もう寝る。湯あみも明日の朝にする」
「お着替えを」
「面倒だからこのままでいい」
スノウは上着を脱ぎ捨てると、掛毛布を捲りベッドに乗り上げる。とにかく一刻も早く横になりたかった。
「スノウ様」
「うん、なんら……」
毛布を首まで引き上げ、瞼を閉じたスノウは呂律の回らなくなった口で返事をする。
「本当に明日、話の続きをしていただけますね? 朝一番で参りますがよろしいですか?」
「うん、わかっら―、あすられら……」
「ちゃんと起きてくださいね」
「しちゅこい」
「……」
うつらうつらと漂い、眠りに落ちていくスノウは、髪を撫でる懐かしい感触を感じた。それは、とても優しく、スノウは思わず口元をほころばせる。そして、幸せな気持ちで意識を手放した。
「……なぜ避けなかった。お前なら母を止めることもできたはずだろう」
月明かりを浴びたグリンバルドの輪郭がぼやける。まるでこのまま溶けて消えてしまいそうな儚い光景に、胸が締め付けられた。
「私は使用人ですから。主人には逆らえません。それに、奥様の気持ちが痛いほどわかった。命を取られても構わないと思ったのです」
しかし、グリンバルドの左目を傷つけた母は我に返り、滴る血を見て半狂乱になった。悲鳴を聞きつけて屋敷の中にいた人間が駆け付ける。そして、その惨状を目にしたのである。
その事件以降、母は精神を病み、生家へ戻り療養することになった。父もまた罪悪感からか体調を崩し寝込むことが増え、遂には寝たきりとなってしまう。それでも、数年はベッドの上からグリンバルドに指示を出し、領地管理に力を尽くしていた。
しかし、グリンバルドを養子に迎える手続きを済ませると、程なく息を引き取った。
「私はスノウ様から両親を奪ってしまった」
「お前のせいじゃない」
「いいえ。私がこの家に来なかったら起こらなかった悲劇です。ですからせめて、この家を守ろうと思ったのです。貴方に良い伴侶を迎え、お仕えし、一生をかけて償っていこうと心に誓いました」
「そうか……」
スノウは目を擦る。
さすがに疲れたようである。話を聞かねばと思うが、意志に反して瞼が下りてくる。
思い返せば今日は朝から色々あった。身体もそうだが、とかく感情が酷く揺すぶられる日である。
疲労感が鉛のように重くのしかかり、頭がぼうと霞んできた。
「良く分かった。続きは明日にしよう。お前も疲れただろう、もう休め」
グリンバルドが振り返り、こちらに近づいてくる。スノウはのろのろと立ち上がりあくびをした。
「証明がまだですが」
「うん。明日でいい、もう寝る。湯あみも明日の朝にする」
「お着替えを」
「面倒だからこのままでいい」
スノウは上着を脱ぎ捨てると、掛毛布を捲りベッドに乗り上げる。とにかく一刻も早く横になりたかった。
「スノウ様」
「うん、なんら……」
毛布を首まで引き上げ、瞼を閉じたスノウは呂律の回らなくなった口で返事をする。
「本当に明日、話の続きをしていただけますね? 朝一番で参りますがよろしいですか?」
「うん、わかっら―、あすられら……」
「ちゃんと起きてくださいね」
「しちゅこい」
「……」
うつらうつらと漂い、眠りに落ちていくスノウは、髪を撫でる懐かしい感触を感じた。それは、とても優しく、スノウは思わず口元をほころばせる。そして、幸せな気持ちで意識を手放した。
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