理系少年の異世界考察

ヴォルフガング・ニポー

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受験における保護者の心理

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 馬車は終点の駅に到着した。

 大きな道の真ん中にある乗り降りだけを目的とした駅だ。そんな中に馬車がひっきりなしにやってくる。乗客が降りたあと、馬車はゆっくりと別の場所へ歩いて行った。おそらく馬の休憩や車内の清掃などが行われるのだろう。御者も馬をねぎらうように撫でながら、心が通じ合っているかのように一緒に歩いているのが印象的だった。

 駅を出ると、大きな建物が並ぶずっとむこうの小高い丘に美しい城が見えた。

「あれがお城かぁ」

「今度、レヴァンニ達はあそこで試験を受けることになるにゃん。そのときにお姫様に会えるにゃん。うらやましいにゃん」

 街と城とを森と城壁が隔てていて、無言の威圧感を与える。庶民は安易に近づいてはならない空気がそこにはあった。

 そのほかにも大きな教会や、美術館、博物館などはいずれも他の建物よりも抜きんでて目立つように建築され、街並みにアクセントを与えている。

 同じように目立つ建物がある。

「多分、あれだにゃん。あのとんがってるのがヴァザリア魔法研究所にゃん」

 魔法には数学が関係していると考えられているからか、非常に奇抜な幾何学的な図形を組み合わせた建物である。避雷針でもないだろうが、人は絶対に入れない細い塔が天に向かって突き出している。

 特徴的な塔を目印に道を曲がっていくと、正門にたどりついた。近くで見ると、奇妙さよりも美しさの勝る建物だった。いくつもある不思議な建物のうち、いくつかが魔法研究所であり、そのほかが付設の魔法学校である。

 建屋を見るだけで、ここに通えるなら喜ばしいことではないかと思えた。

 受験前に卓人たちがここにきた目的は、受験会場の確認だけではなかった。ひと月前に逓信で受験の申し込みはしたのだが、受領の返事が届くほど親切ではないので、本当に受け付けられているか確認しておきたかった。

 中に入ってもいいのかきょろきょろしていると、警備と思われる人がやってきて、事情を聴いて事務員らしき若い女性を連れてきてくれた。

「ナナリのエミリさんですね。受け付けていますよ」

「あの、受験票のようなものはないのですか?」

 申し込みの際にそのようなものがあると書かれていなかった。本人証明をしないでいいなら、替え玉受験とかできてしまうではないか。

「大丈夫ですよ。その日のうちに合否を出して、登録も済ませますから」

「……そうですか」

 いまいち釈然としないが、何らかの対策がされているのだろう。

「それから、あなたがお兄さんですか? 保護者面接もありますから、三日後の試験の際には一緒にお越しくださいね」

 卓人が受験に同行する最大の理由は、保護者として学費の支払い能力などを確かめられるのである。そして、卓人は受験直前に収入源を失ってしまった。

「はい、わかっております」

 卓人は動揺を表に出すことなく返事した。

 ――受験までに、仕事を探さないと!

「そういえば、アイアのほうからお越しになっているんですよね。当校の受験問題集はおもちになっていますか?」

「え?」

「そ、そんなのがあるにゃん?」

 誰もそんなことは知らなかった。ルイザや兵学校の親切な教官も調べてくれたが、そんなことは言ってなかった。

「ええ。数年前から要望があって公式に出版することになったんですよ。アイアからの受験生は久しぶりだから、ご存じなかったかもしれませんね」

「それって、買わないといけないんですか?」

「いいえ。ただ、どうやって準備したらいいかわからないでしょう?」

「それはもう!」

 答えたのは受験するわけではない卓人だった。こういったときは本人よりも周りの者のほうが不安になるらしい。

「受験までわずかですがお買い上げになりますか? 銀貨一枚です」

「親切にありがとうございます」

「ちょっと、お兄ちゃん!」

 袖を引っ張って制止したのは、受験生であるエミリであった。

「お金がもったいないよ。私はなくても大丈夫だから」

 銀貨一枚でふつうの宿には泊まれるのだから、元の世界の問題集を基準にしても高い。それでも保護者の心理としては買ってしまいたくなるのだから、受験産業が儲かるというのは納得である。

「でも、まったく知らないことばかりが出たならさすがにまずいと思うにゃん。どの程度の問題が出るかくらいは知っておくべきにゃん。これは戦略的な考え方にゃん」

「だけど……」

「ここでケチって落ちたら、何のためにここにきたにゃん。やれることはすべてやっておくべきにゃん」

 ヤノの後押しもあって、結局買うことになった。

「ありがとうございます」

 お金を渡して事務員の女性がにっこりと笑ったとき、なんとなく詐欺にかかったような気がした。
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