悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
上 下
62 / 72

妊娠

しおりを挟む
「ジェフ?え?どうして、お兄様も?何か悪い病気だったの?」

 シャーリンはメイド長に検査に時間が掛かっていて、ベットで休んでいてくださいと言われており、何か病気なのではないかと思っていた。

「シャーリン…」

 ベリックは呆れたように、妹の名前を呼んだが、シャーリンには悲しそうに見えて、悪い病気なのだと思った。

「働いているせいだわ、伯爵夫人には体が合わなかったんだわ!どうしてくれるのよ…ジェフのせいよ」
「そうじゃない、君は妊娠している」
「え…?」

 シャーリンはパチパチと瞬きをして、そんなはずはないと思った。

「間違いよ、ちょっと具合が悪いだけだわ」
「私の子どもではない自覚はあるのだな?」

 ジェフの子どもだと言い出すかとも思っていたが、一緒に眠ってもいないので、さすがに言えなかったのだろうと感じた。

「…」
「シャーリン!何てことをしてくれたんだ」
「ち、違うわ…」
「妊娠されております」
「違うわ」

 シャーリンは認めたくないようで、首を振りながら否定し続けている。

「父親は誰だ!」

 ベリックはシャーリンを怒鳴り付けたが、シャーリンはまだ首を振っている。

「あの、違うの…」
「君もどこかの邸で、男娼や令息と関係を持ったのか?」
「っ」

 ようやく首を振るのを止めて、言葉に詰まり、ジェフに向かって驚いた顔をしたシャーリンにジェフは図星なのだと思った。

 妊娠していると言われても、シャーリンの不貞行為自体にはどこか実感がなかったが、ようやく他の男性と関係を持ったのだと実感することが出来た。

「誘われたのか…?妊娠するとは思わなかったか?」
「だって、ジェフがしてくれないから、仕方なかったのよ!」

 赤裸々な話ではあるが、ジェフはそんなことはどうでもいいと感じていた。

「そんなにしたいのなら、そういった仕事をすればいい。向いているんじゃないか」
「何てことを言うの!」
「事実だろう?」
「働かされて、参っていたの。だから誘われて…つい…その」

 王太子殿下の言っていた邸なのだろうと思った。

 性欲の強い夫人たちが多いということなのだろうが、結婚している身でありながら、シャーリンは簡単に関係を持てる女性ということである。

 せめて、妊娠しないようにするものではないのだろうか。

 アンドリュー様ではないが、念のために子どもたちの親子鑑定をして貰おうと決めた瞬間であった。

「はあ…君は違うと思ったのだけど、同じだったようだな」
「働かなかったら、こんなことにはならなかったわ」
「出て行ってくれ、お金はちゃんと返すように」
「そんな…違うの、子どもは堕ろすから、許して…お願いよ」

 シャーリンはジェフに触れようとしたが、ジェフは一歩下がり、シャーリンはその動きにショックを受けた。

「今はまだ初期ではありますが、詳しく調べたところ、すぐに安定期に入ります。堕胎はされない方がいいでしょう」
「…あ」
「最低だな」
「愛しているなら、許してくれるでしょう?」
「何を言っているんだ…裏切ったのは君だろう!」
「シャーリン!行くぞ、これ以上、恥を晒すな!ジェフ様、本当に申し訳ありませんでした。話はまた改めてさせてください」
「ああ、よろしく頼む」

 ベリックがシャーリンに立てと言っても、嫌よと駄々をこねるばかりであった。

「出て行かないのなら、人を呼ぶ。恥を晒しながら出て行きたいか?」
「立ちなさい!」

 渋々立たされたシャーリンは、ベリックに腕を掴まれて、馬車でガルッツ子爵家へ送って貰うことになった。

「子どもたちに…」
「子どもたちには後で話す」

 ベリックは終始、申し訳ないと、最後まで頭を下げながら帰って行った。

 馬車の中でシャーリンは、ベリックに話し掛けようとしたが、ベリックはマクローズ伯爵家の馬車で騒ぐわけにはいかないと、外を見たまま、見るだけで怒りの込み上げるシャーリンには見向きもしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

式前日に浮気現場を目撃してしまったので花嫁を交代したいと思います

おこめ
恋愛
式前日に一目だけでも婚約者に会いたいとやってきた邸で、婚約者のオリオンが浮気している現場を目撃してしまったキャス。 しかも浮気相手は従姉妹で幼馴染のミリーだった。 あんな男と結婚なんて嫌! よし花嫁を替えてやろう!というお話です。 オリオンはただのクズキモ男です。 ハッピーエンド。

【完結】無能に何か用ですか?

凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」 とある日のパーティーにて…… セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。 隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。 だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。 ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ…… 主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。 愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。 自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。 国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。 実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。 ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に

ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。 幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。 だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。 特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。 余計に私が頑張らなければならない。 王妃となり国を支える。 そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。 学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。 なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。 何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。 なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。 はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか? まぁいいわ。 国外追放喜んでお受けいたします。 けれどどうかお忘れにならないでくださいな? 全ての責はあなたにあると言うことを。 後悔しても知りませんわよ。 そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。 ふふっ、これからが楽しみだわ。

処理中です...