悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
上 下
62 / 102

妊娠

しおりを挟む
「ジェフ?え?どうして、お兄様も?何か悪い病気だったの?」

 シャーリンはメイド長に検査に時間が掛かっていて、ベットで休んでいてくださいと言われており、何か病気なのではないかと思っていた。

「シャーリン…」

 ベリックは呆れたように、妹の名前を呼んだが、シャーリンには悲しそうに見えて、悪い病気なのだと思った。

「働いているせいだわ、伯爵夫人には体が合わなかったんだわ!どうしてくれるのよ…ジェフのせいよ」
「そうじゃない、君は妊娠している」
「え…?」

 シャーリンはパチパチと瞬きをして、そんなはずはないと思った。

「間違いよ、ちょっと具合が悪いだけだわ」
「私の子どもではない自覚はあるのだな?」

 ジェフの子どもだと言い出すかとも思っていたが、一緒に眠ってもいないので、さすがに言えなかったのだろうと感じた。

「…」
「シャーリン!何てことをしてくれたんだ」
「ち、違うわ…」
「妊娠されております」
「違うわ」

 シャーリンは認めたくないようで、首を振りながら否定し続けている。

「父親は誰だ!」

 ベリックはシャーリンを怒鳴り付けたが、シャーリンはまだ首を振っている。

「あの、違うの…」
「君もどこかの邸で、男娼や令息と関係を持ったのか?」
「っ」

 ようやく首を振るのを止めて、言葉に詰まり、ジェフに向かって驚いた顔をしたシャーリンにジェフは図星なのだと思った。

 妊娠していると言われても、シャーリンの不貞行為自体にはどこか実感がなかったが、ようやく他の男性と関係を持ったのだと実感することが出来た。

「誘われたのか…?妊娠するとは思わなかったか?」
「だって、ジェフがしてくれないから、仕方なかったのよ!」

 赤裸々な話ではあるが、ジェフはそんなことはどうでもいいと感じていた。

「そんなにしたいのなら、そういった仕事をすればいい。向いているんじゃないか」
「何てことを言うの!」
「事実だろう?」
「働かされて、参っていたの。だから誘われて…つい…その」

 王太子殿下の言っていた邸なのだろうと思った。

 性欲の強い夫人たちが多いということなのだろうが、結婚している身でありながら、シャーリンは簡単に関係を持てる女性ということである。

 せめて、妊娠しないようにするものではないのだろうか。

 アンドリュー様ではないが、念のために子どもたちの親子鑑定をして貰おうと決めた瞬間であった。

「はあ…君は違うと思ったのだけど、同じだったようだな」
「働かなかったら、こんなことにはならなかったわ」
「出て行ってくれ、お金はちゃんと返すように」
「そんな…違うの、子どもは堕ろすから、許して…お願いよ」

 シャーリンはジェフに触れようとしたが、ジェフは一歩下がり、シャーリンはその動きにショックを受けた。

「今はまだ初期ではありますが、詳しく調べたところ、すぐに安定期に入ります。堕胎はされない方がいいでしょう」
「…あ」
「最低だな」
「愛しているなら、許してくれるでしょう?」
「何を言っているんだ…裏切ったのは君だろう!」
「シャーリン!行くぞ、これ以上、恥を晒すな!ジェフ様、本当に申し訳ありませんでした。話はまた改めてさせてください」
「ああ、よろしく頼む」

 ベリックがシャーリンに立てと言っても、嫌よと駄々をこねるばかりであった。

「出て行かないのなら、人を呼ぶ。恥を晒しながら出て行きたいか?」
「立ちなさい!」

 渋々立たされたシャーリンは、ベリックに腕を掴まれて、馬車でガルッツ子爵家へ送って貰うことになった。

「子どもたちに…」
「子どもたちには後で話す」

 ベリックは終始、申し訳ないと、最後まで頭を下げながら帰って行った。

 馬車の中でシャーリンは、ベリックに話し掛けようとしたが、ベリックはマクローズ伯爵家の馬車で騒ぐわけにはいかないと、外を見たまま、見るだけで怒りの込み上げるシャーリンには見向きもしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初恋を奪われたなら

豆狸
恋愛
「帝国との関係を重視する父上と母上でも、さすがに三度目となっては庇うまい。死神令嬢を未来の王妃にするわけにはいかない。私は、君との婚約を破棄するッ!」

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

甘やかされすぎた妹には興味ないそうです

もるだ
恋愛
義理の妹スザンネは甘やかされて育ったせいで自分の思い通りにするためなら手段を選ばない。スザンネの婚約者を招いた食事会で、アーリアが大事にしている形見のネックレスをつけているスザンネを見つけた。我慢ならなくて問い詰めるもスザンネは知らない振りをするだけ。だが、婚約者は何か知っているようで──。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

処理中です...