悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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ガルッツ子爵家

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 ガルッツ子爵家に到着すると、ベリックはお礼を言い、シャーリンを連れて邸に入り、シャーリンが一緒であることに驚いていた両親に告げた。

「シャーリンは不貞行為を犯して、妊娠までしている」
「は?」
「何ですって」

 両親は目玉が飛び出すのではないかというほど驚き、特に父は目が大きいために零れ落ちそうであった。

「私だって信じられないが、事実だ。離縁されることになる」
「お前!」
「何てことをしてくれたの!いい年をして、恥ずかしい!」

 シャーリンは棒立ちで下を向いたまま、泣き出していた。エントランスでは目立つので、談話室に移動し、話をすることになった。

 座っても泣き続けているシャーリンに、ベリックは怒りを向けた。

「泣いても何も変わらない!泣きたいのは私の方だ!」
「相手は誰なの?」

 泣いていて、シャーリンは答えない。

「ジェフ様が男娼か、貴族令息だとおっしゃっていた。そういった行為を夫人たちがしているという噂があった。事実だったのだろう」
「っな」
「何なの…それは」
「理性のない性欲の強い夫人たちが集まって、そういった行為を行っているのだろう?シャーリン?」
「…」
「信じられないわ…なんて下品なの」

 母・マレーラは両手で口元を押さえて、シャーリンをまるで汚い者を見るかのように、見つめた。

「ち、違うの…皆、夫に邪険にされて、辛い目に遭われている方なの。悪いのは夫の方なの。私だって、伯爵夫人なのに働かされて…辛かったの」
「そんなわけないだろう…しかも、妊娠までして、どうするつもりなんだ?」
「ジェフ様の子ということは、絶対にないのね?」
「ないそうだ」
「絶対にか?」

 父・カッシャーは絶対ではないのではないかと思い、微かな望みを抱いた。

「臨月だったとしても可能性は低いと、生まれて親子鑑定をしてもいいとおっしゃっていた」
「そうか…」

 微かな望みではあったが、そこまで言われたら、間違いないのだろうと希望は捨て去った。

「堕胎も難しい」
「産んで養子に出すしかないわね」
「ああ、そうするしかないな」
「…そんな」
「堕胎すると言っていたではないか!当分は働くことも出来ない。話し合いが終わったら、領地で産んで、養子に出す。いいな?その後は一人で暮らせ、我が家では面倒は看れない」
「っな、そんな」

 シャーリンは面倒を看て貰えると、当たり前に思っていた。

「慰謝料も支払わなければならないんだぞ!」
「持参金は…」
「持参金など払っていない」
「え?」
「あちらがそれでいいとしてくれたんだ。だから持参金で相殺などということも出来ない…どうして…領地を売って用意するしかないな…それも売れるかどうか、お前のせいで滅茶苦茶だ…吐き気がする」

 ベリックは頭を掻きむしり、項垂れた。元々、裕福ではなかったので、そもそもの資産がない。マクローズ伯爵家が厳しくなる前は援助をして貰っていた立場である。

「待て、相手が貴族令息ということはないのか?」

 カッシャーは相手が男娼ではなく、貴族令息ならば、責任を取らせようと思った。

「…」

 シャーリンは黙ったまま、下を向いた。

「違うようだな、年増の太った女を貴族令息が相手にしなかったのだろう」
「な!」
「事実だろう?」
「違うわ」
「何が違う?男娼に選ばれたとでも言うのか?あちらは仕事だぞ?」

 そうじゃない、楽しむのなら男娼の方がいいと言われて、男娼を選んだ。でもそんなことを兄や両親には言えない。

 娼婦や男娼は、貴族相手の場合は呼んだ方が避妊するのが、暗黙の了解であった。

 オリビアのように最高ランクの男娼ならば、稼ぎも多いため自身でもするが、シャーリンが行った邸に呼ばれていた男娼は、最高ランクではない。

 しかも、シャーリンもお金に困っているため、していなかった。

 ミカエラーはお金に困っていたわけではないが、大丈夫だろうとしていなかった。
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