35 / 102
同年
しおりを挟む
「天候についてはその他は、前年と変わりない状態ですね」
「ハビット王国の王太子殿下も王女殿下も、そうおっしゃってましたね」
「はい、原因があるとは始めの頃は考えていましたが、その後はこの水不足をどうするか、どのような影響が出ているのかを考えていましたから」
元々は環境部という日の目を見ることのない部署だったが、雨が降らなくなる前も後もきちんと調査は行われていた。
「生きるためには仕方ないことです」
「湧き出す水源が現れるかもしれないなんて、夢物語を言っているよりマシですよ」
「誰がそんなことを?」
「…王太子妃殿下ですよ」
「「「ああ…」」」
皆、唸るほどの納得の名前であった。
「あの方は何か起こってから考えるだけで、現状について何も考えてらっしゃらないからな」
「そうだな、我々も明日、雨が降るかもしれないと期待しながら生きてはいるが、あの方は何とかなるだろうと、目を逸らし続けている」
「フォンターナ家のことも、よく文句を言ってらっしゃいましたね」
「非があるのは明らかに、令息の方なのに…」
バトワスの周りはフォンターナ家に批判的だったが、そうでない上の世代はジェフとシャーリンが悪いと思っていた。
「いくら自殺を図ったとしても、悪いのは不貞をした方でしょうに」
「正直、亡くなっていれば、まあ…可哀想だったと思ったかもしれませんけど、生きてますからね」
ジェフとシャーリンがもしも亡くなっていたら、不貞でも悲恋になっただろう。だが、そうはならなかった。だからこそ、現実が待っている。
「王太子殿下が付けば、何も言えませんよ」
「はあ…」
「酒やスパイスも手に入らなくなって、出て行くべきだったのは、マクローズ伯爵家の方でしょうに」
オルダ・フォンターナのアニバーサリーが撤退したことで、生活の質は水不足と相まって、かなり低下している。
「フォンターナ家が出て行ったのも、この年だったな…」
皆がああっと、確かにそうだったなと思った。アニバーサリーが閉店していて、すぐさま異変に気付いた。お得意様にすら、文が一通届いただけだったという。
だが、話を聞けば、許せなかったのだろうと思った。王太子殿下が味方したことで、意見することは出来なかったが、恋愛結婚する者を冷めた目で見ていた。
ただ、いくら居づらくなったとしても、爵位を返上して、閉店までしなくてもいいのにというのが、貴族たちの意見であった。
「そうですね」
「出て行きたくもなるでしょう」
「その通りだな」
「出て行って正解だったのではありませんか」
「確かに一番いいタイミングで、出て行かれたと言ってもいいかもしれませんね」
今でも時折、名前の挙がるフォンターナ家ではあるが、今何をしているのか知っていると言う話は聞かない。
「我が国は自業自得ですから、幸せに暮らしてらっしゃるといいですね」
「ああ、商会もお持ちで、騎士団長だったのですから、大丈夫でしょう」
「そうですね…あの世代は自分たちのツケを払い、子どもたちもということになりそうですね…」
「我々もその煽りを受けていますけどね…」
若い者たちは子沢山であり、王太子殿下より年上でも、大して差がない者たちは完全に同様の事態に陥っている。
「うちの娘は他国に働きに行くと言っていますよ、もう戻っては来ないでしょうね」
「うちもですよ」
「この国で結婚が出来たとしてもという話ですよね…」
「まあ、願いだけは持って頑張ろうじゃないか」
「「「はい」」」
調査員たちは毎日、コツコツと行ってはいたが、新しいとっかかりに望みを掛けて、あの年の出来事を調べることにした。
天候は勿論、環境や農作物、病気、食事、流行った物。そして、比べる対象となる前後の年も調査対象として、くまなく調べることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本日もお読みいただきありがとうございます。
本日は、17時にもう1話投稿させていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。
「ハビット王国の王太子殿下も王女殿下も、そうおっしゃってましたね」
「はい、原因があるとは始めの頃は考えていましたが、その後はこの水不足をどうするか、どのような影響が出ているのかを考えていましたから」
元々は環境部という日の目を見ることのない部署だったが、雨が降らなくなる前も後もきちんと調査は行われていた。
「生きるためには仕方ないことです」
「湧き出す水源が現れるかもしれないなんて、夢物語を言っているよりマシですよ」
「誰がそんなことを?」
「…王太子妃殿下ですよ」
「「「ああ…」」」
皆、唸るほどの納得の名前であった。
「あの方は何か起こってから考えるだけで、現状について何も考えてらっしゃらないからな」
「そうだな、我々も明日、雨が降るかもしれないと期待しながら生きてはいるが、あの方は何とかなるだろうと、目を逸らし続けている」
「フォンターナ家のことも、よく文句を言ってらっしゃいましたね」
「非があるのは明らかに、令息の方なのに…」
バトワスの周りはフォンターナ家に批判的だったが、そうでない上の世代はジェフとシャーリンが悪いと思っていた。
「いくら自殺を図ったとしても、悪いのは不貞をした方でしょうに」
「正直、亡くなっていれば、まあ…可哀想だったと思ったかもしれませんけど、生きてますからね」
ジェフとシャーリンがもしも亡くなっていたら、不貞でも悲恋になっただろう。だが、そうはならなかった。だからこそ、現実が待っている。
「王太子殿下が付けば、何も言えませんよ」
「はあ…」
「酒やスパイスも手に入らなくなって、出て行くべきだったのは、マクローズ伯爵家の方でしょうに」
オルダ・フォンターナのアニバーサリーが撤退したことで、生活の質は水不足と相まって、かなり低下している。
「フォンターナ家が出て行ったのも、この年だったな…」
皆がああっと、確かにそうだったなと思った。アニバーサリーが閉店していて、すぐさま異変に気付いた。お得意様にすら、文が一通届いただけだったという。
だが、話を聞けば、許せなかったのだろうと思った。王太子殿下が味方したことで、意見することは出来なかったが、恋愛結婚する者を冷めた目で見ていた。
ただ、いくら居づらくなったとしても、爵位を返上して、閉店までしなくてもいいのにというのが、貴族たちの意見であった。
「そうですね」
「出て行きたくもなるでしょう」
「その通りだな」
「出て行って正解だったのではありませんか」
「確かに一番いいタイミングで、出て行かれたと言ってもいいかもしれませんね」
今でも時折、名前の挙がるフォンターナ家ではあるが、今何をしているのか知っていると言う話は聞かない。
「我が国は自業自得ですから、幸せに暮らしてらっしゃるといいですね」
「ああ、商会もお持ちで、騎士団長だったのですから、大丈夫でしょう」
「そうですね…あの世代は自分たちのツケを払い、子どもたちもということになりそうですね…」
「我々もその煽りを受けていますけどね…」
若い者たちは子沢山であり、王太子殿下より年上でも、大して差がない者たちは完全に同様の事態に陥っている。
「うちの娘は他国に働きに行くと言っていますよ、もう戻っては来ないでしょうね」
「うちもですよ」
「この国で結婚が出来たとしてもという話ですよね…」
「まあ、願いだけは持って頑張ろうじゃないか」
「「「はい」」」
調査員たちは毎日、コツコツと行ってはいたが、新しいとっかかりに望みを掛けて、あの年の出来事を調べることにした。
天候は勿論、環境や農作物、病気、食事、流行った物。そして、比べる対象となる前後の年も調査対象として、くまなく調べることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本日もお読みいただきありがとうございます。
本日は、17時にもう1話投稿させていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。
3,109
お気に入りに追加
6,789
あなたにおすすめの小説
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
甘やかされすぎた妹には興味ないそうです
もるだ
恋愛
義理の妹スザンネは甘やかされて育ったせいで自分の思い通りにするためなら手段を選ばない。スザンネの婚約者を招いた食事会で、アーリアが大事にしている形見のネックレスをつけているスザンネを見つけた。我慢ならなくて問い詰めるもスザンネは知らない振りをするだけ。だが、婚約者は何か知っているようで──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる