悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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同年

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「天候についてはその他は、前年と変わりない状態ですね」
「ハビット王国の王太子殿下も王女殿下も、そうおっしゃってましたね」
「はい、原因があるとは始めの頃は考えていましたが、その後はこの水不足をどうするか、どのような影響が出ているのかを考えていましたから」

 元々は環境部という日の目を見ることのない部署だったが、雨が降らなくなる前も後もきちんと調査は行われていた。

「生きるためには仕方ないことです」
「湧き出す水源が現れるかもしれないなんて、夢物語を言っているよりマシですよ」
「誰がそんなことを?」
「…王太子妃殿下ですよ」
「「「ああ…」」」

 皆、唸るほどの納得の名前であった。

「あの方は何か起こってから考えるだけで、現状について何も考えてらっしゃらないからな」
「そうだな、我々も明日、雨が降るかもしれないと期待しながら生きてはいるが、あの方は何とかなるだろうと、目を逸らし続けている」
「フォンターナ家のことも、よく文句を言ってらっしゃいましたね」
「非があるのは明らかに、令息の方なのに…」

 バトワスの周りはフォンターナ家に批判的だったが、そうでない上の世代はジェフとシャーリンが悪いと思っていた。

「いくら自殺を図ったとしても、悪いのは不貞をした方でしょうに」
「正直、亡くなっていれば、まあ…可哀想だったと思ったかもしれませんけど、生きてますからね」

 ジェフとシャーリンがもしも亡くなっていたら、不貞でも悲恋になっただろう。だが、そうはならなかった。だからこそ、現実が待っている。

「王太子殿下が付けば、何も言えませんよ」
「はあ…」
「酒やスパイスも手に入らなくなって、出て行くべきだったのは、マクローズ伯爵家の方でしょうに」

 オルダ・フォンターナのアニバーサリーが撤退したことで、生活の質は水不足と相まって、かなり低下している。

「フォンターナ家が出て行ったのも、この年だったな…」

 皆がああっと、確かにそうだったなと思った。アニバーサリーが閉店していて、すぐさま異変に気付いた。お得意様にすら、文が一通届いただけだったという。

 だが、話を聞けば、許せなかったのだろうと思った。王太子殿下が味方したことで、意見することは出来なかったが、恋愛結婚する者を冷めた目で見ていた。

 ただ、いくら居づらくなったとしても、爵位を返上して、閉店までしなくてもいいのにというのが、貴族たちの意見であった。

「そうですね」
「出て行きたくもなるでしょう」
「その通りだな」
「出て行って正解だったのではありませんか」
「確かに一番いいタイミングで、出て行かれたと言ってもいいかもしれませんね」

 今でも時折、名前の挙がるフォンターナ家ではあるが、今何をしているのか知っていると言う話は聞かない。

「我が国は自業自得ですから、幸せに暮らしてらっしゃるといいですね」
「ああ、商会もお持ちで、騎士団長だったのですから、大丈夫でしょう」
「そうですね…あの世代は自分たちのツケを払い、子どもたちもということになりそうですね…」
「我々もその煽りを受けていますけどね…」

 若い者たちは子沢山であり、王太子殿下より年上でも、大して差がない者たちは完全に同様の事態に陥っている。

「うちの娘は他国に働きに行くと言っていますよ、もう戻っては来ないでしょうね」
「うちもですよ」
「この国で結婚が出来たとしてもという話ですよね…」
「まあ、願いだけは持って頑張ろうじゃないか」
「「「はい」」」

 調査員たちは毎日、コツコツと行ってはいたが、新しいとっかかりに望みを掛けて、あの年の出来事を調べることにした。

 天候は勿論、環境や農作物、病気、食事、流行った物。そして、比べる対象となる前後の年も調査対象として、くまなく調べることにした。


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本日もお読みいただきありがとうございます。

本日は、17時にもう1話投稿させていただきます。

どうぞよろしくお願いいたします。
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