悪意か、善意か、破滅か

調査

「何か思うことがありますか？」
「いえ、まだ結婚する前だったと思い出しておりました。雨も当たり前によく降っており、夜会の際に大雨で大変だったこともありました」

　折角、着飾っても、強く多い雨で、いい加減にして欲しいと思っていたが、今となってはあのような雨が降ることがなくなって、どれくらい経ったのか。今ではどうか、もう一度、見たいと思う光景である。

「そういえば、天候には関係ないですが、アジェル王国とハビット王国で決定的に違うことが一つあります」
「何ですか？」
「出生率です。雨が減ったのと比例して、出生率が格段に上がっています」
「ああ…恋愛結婚が、増えたせいでしょうね」

　これ以上、恋愛結婚のイメージを持たれるのは控えたいので、口にはしたくはなかったが、その影響としか考えられない。

「それだけですか？」
「どういう意味ですか？」
「いえ、増えたのは貴族の方だけなのですよね？」
「はい…ですので、恋愛結婚のせいではないかと考えておりました」
「確かに…そうではないとは言えませんね」

　ルークアはそれでも急激に異常なほどだと感じたが、さすがに失礼であるために口にはしなかった。

「決定的に違うのは、そのことだけでした」
「そうですか…おそらく、確かにあの頃から、貴族の恋愛結婚が増えましたから」
「何かあったのですか？」
「聞いてらっしゃいませんか？」

　バトワスはてっきりハビット王国にも、知られていると思っていた。

　だが、ルークア王太子殿下とメーリン王女殿下の表情を見ても、不思議そうな顔をしており、嫌味ではないと感じた。

「は、い…？何かあるのですか？」

　ルークアもメーリンも、アジェル王国は恋愛結婚を優先することは聞いていたが、縁談を持ち込みたいわけではなかったので、理由までは知らなかった。

「実はある貴族の男女が、男の方には婚約者がいたのですが、別の令嬢と恋仲になってしまい、両親にも恋人と結婚したいと言ったのですが、反対されて、その恋人と一緒に自殺を図りまして…」
「なんと…」
「二人とも命は助かり、そこまでであればと許されることになって、それからやはり好きな相手と一緒になりたいという者が増えたのです…政略結婚を否定しているわけではないのですが…どうもそのことが、広がってしまいまして」

　バトワスは自分も加担したことは伏せて、話をした。

「そうでしたか…」
「時期が重なっただけでしょう。平民は元々、恋愛結婚が多いそうですから」
「それはそうかもしれません。今後も調査機関から報告をいただければと思うのですが、もし何か分かればすぐにご報告します」
「はい、陛下からもそのように言われております」

　陛下からも国家機密ではないのだから、むしろ連携して、これからも続けて欲しいと言われている。

「ありがとうございます」
「メーリン、何か伝えて置きたいことはあるか？」
「はい、何か原因があるのであれば、変化が起きた年が、最重要だと思います。どうか些細なことでも構いませんので、教えていただければと思います」
「承知しました」

　二人は翌日の早朝に両陛下に挨拶をして、ハビット王国に帰って行った。

　オークリー、アマリリス、ライラックは最後だからと近付こうとしたが、両陛下もおり、バトワスに頭を下げるだけでいいと言われて、従うしかなかった。

　アジェル王国は雨が減った年に何があったか、詳しく調べることになった。前半は、バトワスが覚えていたように酷い雨が多い月もあった。

「あの頃は当たり前でしたが、確かにちょっとこの辺り、この辺り、この辺りが雨が多いですね」

　調査員たちは、調べるように言われた年の天候の記録を指さしながら話をし、頷いていた。今となってはあり得ない雨量である。

「ああ！今、言いたい言葉ですね」
「本当にな」