【完結】あの子の代わり

野村にれ

文字の大きさ
上 下
55 / 73

お花畑だった家族の真実13

しおりを挟む
 チェイスは見る目が変わったことは分かっていたが、仕事は続けていた。いい役職に就いていたわけではなかったことで、降格されることはなかった。

 王家は飢え死にさせるよりも、肩身の狭い思いをして、必死で生きることで、ベルアンジュへの後悔をさせたかった。

 私的にチェイスに話し掛けて来る者は、いなかった。遠巻きに見られているだけで、ベルアンジュには強く出ていたが、元々は小心者である。

 そして他力本願であることは変わらず、今は難しくとも、時が経てば、バスチャン伯爵に援助を頼もうと思っていた。

 だが、そのバスチャン伯爵もラオルス公爵から、ベルーナの留学の成果があまり振るわないという理由で、予定通り婚約は白紙にされることになった。

 ベルーナも話を合わせるために、実家に再三頑張っているが、難しくて、なかなか進んでいないと手紙を出していた。

 しっかりやれ、後がない、ラオルス公爵に捨てられたら、もう縁談などない、これ以上恥を掻かせる気か、戻ってくる家はないといった返事を貰っていた。

 これでベルーナは思った通りの展開になり、こちらに残って働くという地盤が出来たと思った。

 妊娠して出産する際も、貴族としては当たり前なのではあるが、価値を落としてどうする気だと、子どもを何度も降ろせと迫って、ベルーナが大きなお腹で人目のつく場所に行ってもいいのかと脅して、プライドの高い父は隠すことに必死になった。

「ベルーナには、もっと頑張らせますから!」
「そうです、どうか…もう少し時間を」

 妊娠をしていて、あまり勉強をしていない状態のベルーナはありのままで、試験を受けて、その結果をラオルス公爵とバスチャン伯爵家に送っていた。

 酷いというほどではないが、他国とも付き合いの多い、ラオルス公爵家の求める能力に達していない結果ということである。

「いや、長々とこちらも待っている時間はない。ベルーナ嬢も納得している」
「そんなはずはありません」

 ベルーナはランバートと結婚したいと、信じていた。

「大変申し訳なく思っていると、謝罪の手紙を貰っている」
「そんな…」
「留学費用は返さなくていい」

 バスチャン伯爵は、ラオルス公爵家と縁繋ぎになると浮かれ、分からないわけでもないが、爵位が上がるわけでもないのに、元々横柄ではあったが、伯爵家以上の振る舞いをするようになっていた。

「そんな…」
「そういえば、ソアリ伯爵に援助をしていたようだが?」
「それは親戚だったので、今は縁を切っております」
「援助は個人の自由だ、だが伯爵はベルアンジュ夫人の虐待に気付けなかったのか?」

 ラオルス公爵は婚約の白紙は決まっていたことだったので、自ら赴くこともなかったのだが、ベルアンジュのことをバスチャン伯爵にも聞いてみたかった。

「はい、勿論知りませんでした」
「夫人はどうだ?」
「私も夫人と、あまり仲が良くなかったので…」
「そうです、ベルアンジュとは会う機会がなかったものですから」

 援助していたのは親戚ということもあるが、ソアリ伯爵より上だという気持ちが、優越感で気分が良かっただけで、ベルアンジュのことを気にすることはなかった。

 むしろ、自身の娘であるベルーナに非があるにも関わらず、婚約を譲ってやったという気持ちで、感謝くらいしろと思っていたほどである。

「気付かないものか?妹のせいで学園に通わせて貰えないなど、おかしいと思わなかったのか?」
「それは家の考えがありますから。今となっては、気付いて、助け出してやれていたらと思っています」
「私もそう思っています」
「ああ、そうしてくれていたらと思うよ」

 ラオルス公爵は本当に助け出してやってくれていたら、ベルーナが支えることが出来たのではないかと、心から思った。

 勿論、婚約は覆ることもなく、ランバートとベルーナの婚約は白紙となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

夫の浮気相手と一緒に暮らすなんて無理です!

火野村志紀
恋愛
トゥーラ侯爵家の当主と結婚して幸せな夫婦生活を送っていたリリティーヌ。 しかしそんな日々も夫のエリオットの浮気によって終わりを告げる。 浮気相手は平民のレナ。 エリオットはレナとは半年前から関係を持っていたらしく、それを知ったリリティーヌは即座に離婚を決める。 エリオットはリリティーヌを本気で愛していると言って拒否する。その真剣な表情に、心が揺らぎそうになるリリティーヌ。 ところが次の瞬間、エリオットから衝撃の発言が。 「レナをこの屋敷に住まわせたいと思うんだ。いいよね……?」 ば、馬鹿野郎!!

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

愛は全てを解決しない

火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。 それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。 しかしデセルバート家は既に没落していた。 ※なろう様にも投稿中。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。 それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。 ――なにもかもを間違えた。 そう後悔する自分の将来の姿が。 Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの? A 作者もそこまで考えていません。  どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。

処理中です...