【完結】あの子の代わり

野村にれ

文字の大きさ
上 下
37 / 73

誕生1

しおりを挟む
 ソアリ伯爵家が金策に走り回る中、数か月が経ち、マリクワン侯爵家にベルアンジュが亡くなってから、初めての喜ばしい知らせが届けられた。

「ベルーナが無事、出産したそうです。子どもも無事だと…」
「そうか、良かったな。性別は?」
「いや、そういえば、無事に生まれという知らせだけでした」

 ルイフォードはそこまで考えていなかった。むしろ、ベルアンジュに似ているのだろうかと、考えてしまったくらいである。

「母子共に無事なら、いいじゃない。あなたとルイフォードは、会いに行って来たら?」

 マリクワン侯爵家にやってく来るのは、最低でも生後半年になってからと言われている。会いたいのならば、こちらから会いに行くしかない。

「そうだな、私は手続きに行かなければならないから、ルイフォードはどうする?」
「そうですね、会いに行きましょう」

 イサードとマイルダは、その言葉にホッとした。ベルアンジュが亡くなってから、話はするが、やはり喪失感は誰にも埋められなかった。

 子どもに埋めさせようというわけではなかったが、残された希望は子どもだけであった。

「こちらはパウラ様もいますから、心配しないでください」

 パウラは現在、両親の邸に住んでいるので、すぐに来てもらうことが出来る。

 そして、イサードとルイフォードは旅立ち、子どもに会うことになった。ベルーナは出産は病院で行ったが、現在は邸に戻っており、リンダとオーカスが出迎えた。

「ベルアンジュ様のことは、残念でなりません」「心からお悔やみ申し上げます」
「ああ…」

 二人は深く頭を下げた。

「リランダ医師から、解剖を希望されたと聞きました」

 リンダはリランダ医師と、連絡を取り合っていた。

「はい、ベルアンジュの望みでしたから。NN病のために、役に立ちたいと…」
「頭が下がります」
「私も誇りに思います」
「ベルーナのところへご案内します」

 ルイフォードとイサードは、小さく頷いた。

 そして、案内された部屋に入ると、ベルーナと乳母が変わらずおり、娘・メイアンも側で眠っていた。

「ルイフォード様、ベルアンジュは、ベルアンジュは、どんな様子で…」
「ああ、ゆっくり、穏やかに、彼女らしく、亡くなったよ…」
「そ、そうですか…」

 ベルーナはその言葉にポロポロと涙を零した。

「優しい彼女だから、どこまで本心かは分からないが、幸せだったと言ってくれた」
「きっと本心です、嘘を言うような子ではないですから」
「そうだといいのだがな」
「足止めして、ごめんなさい。あなたたちの子どもの顔を見てあげてください」

 リンダがこちらですと、ベビーベットに案内すると、一つのベットに、二人の子どもが並んで寝かされていた。

「え?」
「双子なのか?」

 ルイフォードはどういうことなのか理解が出来ず、イサードはただ驚いた。

「黙っており、申し訳ございませんでした。二卵性の双子だったのです。ですが、知らせると余計な心配をさせること、正直なところ、どうなるか分からないところもありました」
「申し訳ありません!私が言い出したことなのです。ベルアンジュのことだけを考えて欲しくて、私のことで気を揉ませたくなかったです」

 双子だということは途中で分かったが、知らせることはしなかった。唯一、リランダ医師には伝えていたが、リランダ医師も伝えることはしなかった。

「いや、それは構わないが、大丈夫だったのか?」
「はい、おかげさまで、お腹が重かった以外は問題なく過ごさせていただきました」

 双子ということで、お腹は娘の時とは比べようもないほどに大きくなった。

 出産は勿論、楽だったとは言えなかったが、メイアンの時よりも、スムーズで早かったことは事実であった。

「男の子か?」
「はい、二人とも男の子です」

 二人はすやすや眠る顔を見つめ、どこかベルアンジュに似ているような気がして、小さな命に感動していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

夫の浮気相手と一緒に暮らすなんて無理です!

火野村志紀
恋愛
トゥーラ侯爵家の当主と結婚して幸せな夫婦生活を送っていたリリティーヌ。 しかしそんな日々も夫のエリオットの浮気によって終わりを告げる。 浮気相手は平民のレナ。 エリオットはレナとは半年前から関係を持っていたらしく、それを知ったリリティーヌは即座に離婚を決める。 エリオットはリリティーヌを本気で愛していると言って拒否する。その真剣な表情に、心が揺らぎそうになるリリティーヌ。 ところが次の瞬間、エリオットから衝撃の発言が。 「レナをこの屋敷に住まわせたいと思うんだ。いいよね……?」 ば、馬鹿野郎!!

愛は全てを解決しない

火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。 それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。 しかしデセルバート家は既に没落していた。 ※なろう様にも投稿中。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...