守るべきモノ

神崎

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 風呂に入って部屋に戻らないまま、倫子の部屋へ向かう。すると伊織の部屋からは明かりが漏れていないのに、泉の部屋からは光が漏れている。まだ起きているのだろうか。そう思いながら、部屋の前で春樹は声をかけた。
「泉さん?」
 返事は返ってこない。そう思ってドアを開ける。すると明かりをつけたままラジオの音を流しながら、布団の上で眠っているようだった。
「泉さん。」
 声をかける戸泉はふっと目を覚ました。
「あ……寝てた。ごめん。」
 枕元には新しいデザートの案を記した資料があるようだ。それを見ながら寝ていたらしい。
「布団に入った方が良いよ。」
「うん。ありがとう……。」
 泉はラジオを消して布団に潜ると、春樹は部屋に入って電気を消す。少し明るくないと寝れないようだ。豆球だけをだけを付けたまま、部屋を出ていく。
 泉もまた決断を迫られているようだ。真面目な泉だから、真剣に結果を出したいと思っている。それに礼二のことも気にかかっているように思えた。
 好きになるとそんなモノなのだ。自分だって同じ。倫子に不安がある。自分がいないそのとき、何をしているのか誰と会っているのか、その一つ一つを聞きたいのに、何も聞けなかった。
 一緒に暮らすだけでは、駄目なのだろうか。やはり結婚でもしないと倫子を手に入れたとは言えないのかもしれない。
「倫子。」
 倫子の部屋の前で声をかけると、倫子の声が聞こえた。
「どうぞ。」
 部屋の中にはいると、暖房が効いていた。その中で倫子はいすに腰掛けて、資料を片手にプロットを練っているようでノートに何か書いている。下書きの下書きみたいなものだ。
「仕事?」
「新聞社のね。これ、本当に進めていいのかしら。」
 机に近寄って、その資料を一つ手にする。そこには昔あった事件の資料がある。戦中のことだった。女性が売り物になった時代のこと。だがこれは国際的にも問題になっていることで、隣の国からは激しく非難されている。
「これは、危険だね。良くこれで話を書いてくれなんて言ったよ。」
「何度も確認したんだけど、これで書いて欲しいんですって。ほかの作家の先生も難色している。」
 ほかの作家も同じ題材で書いて欲しいと言われているらしい。繋がりのある作家からは、「仕事だから仕方ない」と割り切る人もいれば、「書いたら自分の首が危うくなる」と言って断った人もいるらしい。
「倫子は書くの?」
「えぇ。仕事だし、それにうまくいけばアンソロジーで書籍化するって言ってた。」
「ここの新聞社は、あまり平等な目で見れていないのかもしれない。倫子。できれはこの仕事は辞めておいた方がいい。」
「断ると次が来なくなるのよ。」
「やれば作家生命がなくなる。」
 この辺は倫子も強情だ。仕事となれば見境がないのはわかっていたが、この仕事は明らかに危険だ。
「先に寝てて良いわよ。お酒の匂いがするし。」
 近寄ってわかったのだろう。そのときふと机の前に張られている設定に目を留めた。それは政近との合作の漫画のキャラクター設定だった。もう姿としては完成しているのだろう。
 それを目にして、春樹は少し目を細めた。
「これはいいね。」
「え?」
「「美咲」のキャラクターが良くなった。甘ロリも少し入れたのかな。」
「ゴシックロリータだけだとどうしても暗くなるから、ピンクや白を入れたいって。そうなると甘ロリ路線がいいだろうって言っていたわ。」
「それから妹も良い。ちゃんと高校生くらいに見えるよ。」
 ブレザーとミニスカート、それにニーハイソックズを履いた女子高生。貧乳だと言うのがコンプレックスで、これはロリータ路線で人気がでるだろう。
「浜田さんは、もう少し幼い方が良いって言っていたけど。」
「私情を持ち込んでるね。」
 春樹はそういって少し笑った。そしてまたキャラクター設定をボードに貼ると、倫子を後ろから抱きしめる。
「春樹……仕事をしたいわ。」
「急ぐ仕事じゃないんだろう。」
「そうだけど……。」
 正直、この仕事は出来るかどうかもわからない。二の足を踏んでいる作家が多いからだ。しかしこの仕事がなくなっても、違う仕事をしないといけない。
 すると携帯電話が鳴った。倫子は春樹の手をよけると、そのメッセージをチェックする。そしてため息をついた。
「やっぱりこの話題は辞めるそうよ。違うテーマで書いて欲しいって。」
「そうか。やっぱりね。」
 集めた資料が無駄になった。そう思いながら、倫子はノートを閉じる。
「……寝ようか。テーマが決まらないと仕事も出来ないだろう?」
「うん。そうしようかな。」
 フリーで動いている倫子のような作家にとって、仕事を断るというのは諸刃の剣だった。あの作家は仕事を選ぶなんていう噂が立てば、仕事がなくなる可能性もあるのだ。
 逆に断らなければ、どんな話でもうけてくれるという印象がつく。するとそれに答えられれば、仕事の幅は広くなるだろう。だが答えられなければ、断るよりも悪いことになる。つまり「あの作家は無責任だ」という印象がつくのだ。
 そういった意味では版元からストップがかかったのは良かったかもしれない。代わりの仕事が与えられるからだ。
 敷いている布団に春樹は横になると、倫子も電気を消すとまたその横に体を横たえる。すると春樹はその体を抱きしめた。
「春樹?」
 一瞬、真矢が重なって見えた。そしてよけようと思えばよけれた真矢の体を、拒否できなかったのだ。温かい体だった。その温もりを忘れようとして、倫子の体を抱きしめる。
「少しだけ触ってもいい?」
「今日は隣に泉が居るわ。」
「ぐっすり寝てた。電気とかラジオをつけたまま。」
「声をかけた?」
「もちろん。だいぶ疲れている。だから起きないよ。それに声を我慢して欲しい。」
 そういって春樹は見上げている倫子の唇にキスをする。舌を絡めている間に、シャツの下から手を入れた。期待をしているように、そこは温かく、そして下着をずらしたその先が少し尖っていた。
「んっ……。」
 すると倫子もその春樹の足の方に手を当ててきた。少し堅くなりつつある。
 布団の中で二人の吐息が交差した。
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