守るべきモノ

神崎

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銀色

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 電車の中でも、真矢と泉の話はつきることがなかった。泉が読んだ本を聞いて、真矢は若いのによく本を読んでいるなと感心していたのだ。
「赤松日向子先生の新刊、すごく気になるんです。」
「えぇ。私もそれは気になるわ。大人向けの恋愛小説だと言っていたし。藤枝さん。今度出る本は、映画にもなるんでしょう?」
「あぁ。映画ではなくてドラマだね。火曜日の二十二時から。秋頃に放送されるらしい。」
「出版前から決まっているの?」
「赤松先生のモノはもう結構映像になっていて、評判が良いんだ。赤松先生もあの本は、映像化を前提に書いていたから。」
 伊織がデザインをしたものだ。おそらく手に取る人は多いだろう。
「図書館かぁ……。私、休みが不定だから、行ったことはないな。」
「是非いらして。とても蔵書が多いの。特に文芸は昔のモノまであるし。」
 駅について、三人は席を立つ。改札口をくぐり、真矢はそこで別れた。近くにあるドラッグストアの裏に住んでいるらしい。
「良い人ね。」
「昔よりもしゃべるようになったみたいだ。昔は人と話しているのも見たことはなかったのに。」
「それに美人だわ。あぁいう人が図書館の受付なんかにいたら、声をかけられないかしら。」
「どうかな。」
 不倫をしていたのだという。不倫相手と出会ったきっかけは、図書館の窓口で声をかけられたのがきっかけらしい。
「笑顔が素敵ですね。」
 真矢はそんなことを言われたことがない。だから舞い上がったのだと言っていた。
「ちょっと倫子に似てる。」
「倫子に?」
 家に帰りながら泉はそう口こぼした。
「美人だし、春樹さんが昔つきあっていたとかそんなのじゃないの?」
 自転車を引きながら泉は意地悪そうに聞くと、春樹は首を横に振った。
「違うよ。学生の時なんかは、本が読みたくても買えないじゃない?だから図書館にいつも行っていてね。受付に座ってたってくらいしか繋がりはなかったな。」
「そうなんだ。」
 よく見ると美人だった。だから学生の時、真矢に言い寄る人も多かったようだが真矢は全く相手にしていなかったのを覚えている。
「泉さんは図書館とか行かなかった?」
 すると泉は少し首を横に振った。
「図書館で本を読むのは好きだった。でも借りれなかったの。借りたら、お母さんから怒鳴られるし。」
 特に恋愛小説は読むことが出来なかった。母親に言わせると「ふしだらな本だ」と言うらしい。今は弟が自由に漫画を読んでいるのを見て、少し羨ましいと思った。
「やめよう。この話題。どうしても昔のことを思い出すと、イヤな気分になるし。」
 泉はそういって苦笑いをする。すると春樹は少し黙って泉に言う。
「そっか。無理に聞こうとは思わないよ。」
 ふとわき道が見える。そこに目をやると、男の二人組がそこから出てきた。この先はラブホテルがある。おそらく情事の後なのだろう。
「そういえば、泉さんはBLは読む?」
「ボーイズラブ?昔はよく読んでたわ。大学生の時くらいかな。書いたこともあるし。」
「そういえば泉さんは書いていたこともあったんだっけ。」
「うん。読めたものじゃないけどね。」
「前に読んでみたけれど良いと思うよ。添削すれば、売り出すことも出来ると思う。」
「お世辞。」
「倫子には書けない話だなと思ってね。」
 ベッドシーンどころか手を繋ぐこともないボーイズラブだった。ただとても心情を大事にした話だと思う。思っていても報われない。触れたくても触れられないぎりぎりの心情が、苦しい思いをさせると思う。
「昔を思い出したよ。」
「ゲイに言い寄られたことでもあるの?」
「冗談。ゲイにはなれないな。」
 確かに言い寄られたこともあったが、あくまで女性が性趣向だ。
「そうね。気持ち悪いとは思わないけれど、私も女性に言い寄られたらイヤだと思うわ。」
「最初、君と倫子を見たときにはそういう関係なのかなとは思ったよ。」
「結構勘違いされる。でもそれだったら倫子が男の人を連れ込んだりしているの、イヤだと思うでしょ?私、何とも思わなかったもの。」
「あったの?そういうこと。」
 春樹は驚いて泉をみる。まさか軽く男とセックスをしていたのだろうか。
「昔のこと。今は全然見ないわ。それに、きっと倫子が男と寝るのってネタのためでしょ?」
「あぁ……。」
「体験しないとわからないこともあるって言っていたし……それに倫子は、昔のことを払拭したかったのよ。」
 ○イプされて処女を失った。あらぬ噂を立てられて、地元にいたくなかったのだろう。
「それでも払拭は出来なかった。春樹さんがいてやっと前向きになれたと思ってるわ。」
 あんな風に笑う人だったのだろうか。ずっと泉はそう思っていたのだ。きっとあの場所には、自分がいなくても春樹がいてくれればいい。最近はずっとそう思っていた。
「それでも俺には足りないところもある。泉さんがいて、伊織君がいて、倫子はそれでやっと本当の自分を取り戻しているんだ。」
「……そうなの?」
「俺はそう思うよ。」
 すると泉は少し笑った。ほっとしたからだろう。まだ自分の居場所がある気がしたのだ。
「春樹さんって、本当に人の相談に乗るのがうまいわよね。」
 その言葉に春樹は少し笑う。
「大学の時かな。カウンセラーか占い師になると良いって言われたこともあるよ。」
「占いなんか信じる?」
「全く。でも地元の大晦日は、櫓を建てて火をおこすんだ。その火で焼いた餅とか芋とかを焼いたモノを食べると来年は病気をしないって言うのを中学生くらいまで信じてたかな。」
「それ本当?」
「迷信。だって俺、それを食べた年に風疹になったからね。」
「流行病じゃない。」
 対して美味しいわけでも不味いわけでもない。ただ口にすれば祖父が満足そうにしていた。
「そういえば、昔、あの祭りを見たいって大学の人を連れて行ったことがあるな。」
「そういうことを調べてる人?」
「まぁ……そうだったのかな。専攻は民族学だったはずだし。相当優秀だったからなぁ。トップで大学に入学して、首席で卒業したはず。」
「優秀だね。今はエリートなの?」
「ううん。確か……就職はできなかったんだ。」
「どうして?そんなに優秀なら、どこからでも取られるでしょう?」
「家がヤ○ザの本家だったからね。」
「え……。」
 女にモテていた。すらっとしていたし、どこかの芸能人のようだと思っていたが、実状は違ったのを覚えている。
 ヤツに関わった女のうち、数人は大学を辞めた。今は何をしているのかわからない。ヤク○になったのか、○クザがイヤで国外に逃亡しているのか、どちらにしても家から逃れられない運命なのだろう。
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