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スケッチブックに走らせた人物相関図。読み切りのものから人物像も少し変えた。妹のキャラクターを書いた紙を手に取り、倫子は少し笑った。
「どうしたんだよ。」
「幼くなっちゃったなと思って。」
「浜田がな。」
「担当がどうしたの?」
「もう少し幼くできないかって言われてたんだよ。」
「何で?」
倫子は不思議そうに政近の方をみる。すると政近は煙草を消して、頭をかいた。
「あいつロリコンなんだよ。」
「つまり自分好みに描いて欲しいと?」
「まぁ。そういうことだな。」
政近はそういって紙を手にすると、壁に貼られているコルクボードに一枚一枚張り付け始めた。この家の壁の一面はコルクボードを張り巡らされていて、寝ても起きても考えられるようになっている。
政近の家ではあるが、同時に仕事場なのだ。おそらく朝起きて、夜寝るまでずっと仕事のことを考えている。倫子も同じようなものだ。スケジュールが描いているホワイトボード、人物設定、トリック、プロット、資料などで部屋は埋め尽くされている。
そのとき、片隅にあるプリンターが起動した音がした。倫子はそちらを振り返ると、政近は少し笑ってプリンターに近づく。そしてその紙を手にすると倫子に手渡した。
「ほら。」
手渡された紙を思わず破ろうかと思った。先ほどのゴシックロリータ・ファッションに身を包んだ倫子の姿が映されていたからだ。
「やめてよ。こういうの。」
「参考になるし、俺にも良い影響になるわ。」
そのプリントアウトした紙をまた政近は手にすると、コルクボードに張り付けた。その姿はよく見たら倫子であるとわかるかもしれないが、じっと見てもわからないかもしれない。
「誰もここって来ないんでしょうね。」
「こねぇよ。浜田だってここにはよばねぇもん。資料と兼務した俺の目の保養。」
その割には倫子は呼ぶのだ。そういえば伊織は同級生だと言っていた割には、ここの場所すら知らなかった。だったらどうして自分は呼ばれたのだろうか。
「何で……。」
「ん?」
「誰も入れたくないなら、何で私をここに?」
認めたくなかった。だがもう認めないといけないのだろう。政近はため息を付くと、ペットボトルのお茶を口に入れる。
「……お前だからいいんだよ。」
「ファンだから?」
「それもあるけどな。」
じっと倫子をみる。そして倫子の方に近づいた。何をするのかわかる。だから倫子は後ろへ下がっていった。
「逃げるなよ。」
「……やだ。」
政近は倫子を追いつめるようにベッドの方へ誘導する。そしてベッドに背中がついて、倫子は政近の方をみた。
もう触れられるほど近い。なのに政近はじっと倫子を見下ろしたままだった。そして倫子も政近を見ている。だがさっと視線を逸らせた。だが政近はその頬を自分に向ける。
「逸らすなよ。」
「何?」
「目。逸らすなって。俺を見てろよ。藤枝さんじゃないんだ。俺を見ろよ。」
「いや。帰る。話は終わったんでしょう?」
その頬をよけて立ち上がろうとした。だがその肩に手を置かれる。そしてゆっくりと顔を近づけてきた。
「やだって言ってるでしょう?」
手を伸ばされて、顔を拒否される。だがその手も避けられた。そして政近はじっと目を見ていう。
「好き。お前のことが好きだ。」
「駄目。あなたじゃないの。」
すると政近は少し笑って言う。
「俺の方を向かせる。あんな奴にお前を渡せない。倫子……。」
そう言って政近はその体を抱きしめた。
倫子に近づけさせないために脅しをかけるような奴。それが春樹だった。その脅しは何なのかわからない。どこから情報が漏れているのかも想像は付かない。
だがその温かくて柔らかいその女を渡したくなかった。
「やめてって。政近。」
倫子はそういってはねのけようとした。だがその力にかなわなかった。拒否をするその顔を押さえつけると、唇を重ねる。軽くふわっとした感触に、倫子の頬に思わず涙が流れた。
「倫子……。」
何度もこんな事があった。淫乱だと噂され、何度もレイプの未遂があった。そのたびに自分で何とかした。だが今は何とも出来ない。
男の一人暮らしの部屋にのこのこやってきた自分も悪いのだ。
「したいの?」
その目を見て、政近は思わず倫子を離した。それは月事同じ目だったから。
「あと半月、この状態だったら完全に鬱状態になりましたね。刺してでも逃げ出せてよかった。」
そういってくれた人がいた。その瞬間、月子は泣き崩れたのだ。
「……悪い。俺……。」
二度とここに来ないと思っていた倫子が、やってきてくれた。作品のためとは言っても、寂しさにつけ込んでセックスをした場所にのこのこやってきたのだ。きっと政近にも勘違いがあったのだと思う。
「……帰る。」
倫子はそういって立ち上がろうとした。うつむいて生気が無さそうだ。その様子に政近の手が思わず倫子の腕をつかんでいた。
「悪い……。倫子。そのまま帰るな。」
「……求めてないの。」
「わかってる。だけど……そのままだったらお前、電車に飛び込みそうだから。」
「……。」
「俺がしたことだ。わかってる。でもそのまま返せない。どうしたらいいかな。藤枝さんに連絡を……。」
携帯電話を手にしようとした。そのとき倫子がそれを止める。
「やめて。」
「何で?」
「こんな事春樹に言えないし……それに……。」
「それに?」
「言ってないの。」
絞り出すように倫子が言った。嘘だと思った。取材のためだったら別に隠すようなことはない。なのに今、政近と一緒にいることを春樹に言っていないのだという。
「何で?別に良いじゃん。合作で作品を作って、そのうちあわせと取材にきたって言えば、やましいことなんかないのに。」
「やましい気持ちなんか無いわ。でも……言いたくなかったのよ。」
春樹に隠したかった。それがどういうことなのか、政近にもわかる。
「都合がいいのかな。俺。自分の良いようにしかとらえられない。その言葉、俺の好きなように取っていいの?」
倫子はその言葉に顔を赤くさせた。その反応はまるで生娘だ。思わず政近のお顔がゆるむ。そして少しかがむと、その唇にまたキスをする。
「どうしたんだよ。」
「幼くなっちゃったなと思って。」
「浜田がな。」
「担当がどうしたの?」
「もう少し幼くできないかって言われてたんだよ。」
「何で?」
倫子は不思議そうに政近の方をみる。すると政近は煙草を消して、頭をかいた。
「あいつロリコンなんだよ。」
「つまり自分好みに描いて欲しいと?」
「まぁ。そういうことだな。」
政近はそういって紙を手にすると、壁に貼られているコルクボードに一枚一枚張り付け始めた。この家の壁の一面はコルクボードを張り巡らされていて、寝ても起きても考えられるようになっている。
政近の家ではあるが、同時に仕事場なのだ。おそらく朝起きて、夜寝るまでずっと仕事のことを考えている。倫子も同じようなものだ。スケジュールが描いているホワイトボード、人物設定、トリック、プロット、資料などで部屋は埋め尽くされている。
そのとき、片隅にあるプリンターが起動した音がした。倫子はそちらを振り返ると、政近は少し笑ってプリンターに近づく。そしてその紙を手にすると倫子に手渡した。
「ほら。」
手渡された紙を思わず破ろうかと思った。先ほどのゴシックロリータ・ファッションに身を包んだ倫子の姿が映されていたからだ。
「やめてよ。こういうの。」
「参考になるし、俺にも良い影響になるわ。」
そのプリントアウトした紙をまた政近は手にすると、コルクボードに張り付けた。その姿はよく見たら倫子であるとわかるかもしれないが、じっと見てもわからないかもしれない。
「誰もここって来ないんでしょうね。」
「こねぇよ。浜田だってここにはよばねぇもん。資料と兼務した俺の目の保養。」
その割には倫子は呼ぶのだ。そういえば伊織は同級生だと言っていた割には、ここの場所すら知らなかった。だったらどうして自分は呼ばれたのだろうか。
「何で……。」
「ん?」
「誰も入れたくないなら、何で私をここに?」
認めたくなかった。だがもう認めないといけないのだろう。政近はため息を付くと、ペットボトルのお茶を口に入れる。
「……お前だからいいんだよ。」
「ファンだから?」
「それもあるけどな。」
じっと倫子をみる。そして倫子の方に近づいた。何をするのかわかる。だから倫子は後ろへ下がっていった。
「逃げるなよ。」
「……やだ。」
政近は倫子を追いつめるようにベッドの方へ誘導する。そしてベッドに背中がついて、倫子は政近の方をみた。
もう触れられるほど近い。なのに政近はじっと倫子を見下ろしたままだった。そして倫子も政近を見ている。だがさっと視線を逸らせた。だが政近はその頬を自分に向ける。
「逸らすなよ。」
「何?」
「目。逸らすなって。俺を見てろよ。藤枝さんじゃないんだ。俺を見ろよ。」
「いや。帰る。話は終わったんでしょう?」
その頬をよけて立ち上がろうとした。だがその肩に手を置かれる。そしてゆっくりと顔を近づけてきた。
「やだって言ってるでしょう?」
手を伸ばされて、顔を拒否される。だがその手も避けられた。そして政近はじっと目を見ていう。
「好き。お前のことが好きだ。」
「駄目。あなたじゃないの。」
すると政近は少し笑って言う。
「俺の方を向かせる。あんな奴にお前を渡せない。倫子……。」
そう言って政近はその体を抱きしめた。
倫子に近づけさせないために脅しをかけるような奴。それが春樹だった。その脅しは何なのかわからない。どこから情報が漏れているのかも想像は付かない。
だがその温かくて柔らかいその女を渡したくなかった。
「やめてって。政近。」
倫子はそういってはねのけようとした。だがその力にかなわなかった。拒否をするその顔を押さえつけると、唇を重ねる。軽くふわっとした感触に、倫子の頬に思わず涙が流れた。
「倫子……。」
何度もこんな事があった。淫乱だと噂され、何度もレイプの未遂があった。そのたびに自分で何とかした。だが今は何とも出来ない。
男の一人暮らしの部屋にのこのこやってきた自分も悪いのだ。
「したいの?」
その目を見て、政近は思わず倫子を離した。それは月事同じ目だったから。
「あと半月、この状態だったら完全に鬱状態になりましたね。刺してでも逃げ出せてよかった。」
そういってくれた人がいた。その瞬間、月子は泣き崩れたのだ。
「……悪い。俺……。」
二度とここに来ないと思っていた倫子が、やってきてくれた。作品のためとは言っても、寂しさにつけ込んでセックスをした場所にのこのこやってきたのだ。きっと政近にも勘違いがあったのだと思う。
「……帰る。」
倫子はそういって立ち上がろうとした。うつむいて生気が無さそうだ。その様子に政近の手が思わず倫子の腕をつかんでいた。
「悪い……。倫子。そのまま帰るな。」
「……求めてないの。」
「わかってる。だけど……そのままだったらお前、電車に飛び込みそうだから。」
「……。」
「俺がしたことだ。わかってる。でもそのまま返せない。どうしたらいいかな。藤枝さんに連絡を……。」
携帯電話を手にしようとした。そのとき倫子がそれを止める。
「やめて。」
「何で?」
「こんな事春樹に言えないし……それに……。」
「それに?」
「言ってないの。」
絞り出すように倫子が言った。嘘だと思った。取材のためだったら別に隠すようなことはない。なのに今、政近と一緒にいることを春樹に言っていないのだという。
「何で?別に良いじゃん。合作で作品を作って、そのうちあわせと取材にきたって言えば、やましいことなんかないのに。」
「やましい気持ちなんか無いわ。でも……言いたくなかったのよ。」
春樹に隠したかった。それがどういうことなのか、政近にもわかる。
「都合がいいのかな。俺。自分の良いようにしかとらえられない。その言葉、俺の好きなように取っていいの?」
倫子はその言葉に顔を赤くさせた。その反応はまるで生娘だ。思わず政近のお顔がゆるむ。そして少しかがむと、その唇にまたキスをする。
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