守るべきモノ

神崎

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年越

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 鍋をつつきながら、倫子はぼんやりと周りを見ていた。確か去年の年末は、仕事をしていた。泉は亜美から誘われたいベントへ行っていたが、頭にあるときに形にしたいと部屋の中でパソコンと向き合っていた。その前にはイベントへ行って、誰だったか覚えていない男と寝た。
 大学の時は、サークルの人たちが持ち寄っていた本を読みあかし、地元にいたときも息を潜めるように部屋に閉じこもっていた。
 今年はこんなに人がいる。
「田島。肉ばかり食うな。」
 そういって取り箸で、政近の皿の中に白菜やキノコを伊織がいれる。
「るせー。良い肉じゃんか。おかんか。お前。」
 ぶつぶつ言いながら野菜を政近は口にする。すると泉が気を使ったように声をかけた。
「田島さん。野菜も美味しいわ。行っていた朝市で倫子が買ってきたのよ。」
「ご苦労なことだな。」
 朝市の言葉に礼二が反応して、倫子に聞く。
「朝市をしているのか。この辺は。」
「年末だけね。今日の朝までかしら。そこの公園でするの。」
「何時から?」
「四時。」
「早いなぁ。でも興味がある。」
 礼二はその白菜を見て、少し思っていたようだ。
「魚なんかもあったね。礼二さんはやはり飲食なので、気になりますか。」
 春樹はそう聞くと、礼二は少し笑って言う。
「実家の母は小さい頃よく漬け物とつけてましたよ。この白菜なら良い浅漬けが出来そうだ。」
「浅漬け。」
 泉は目を輝かせて、礼二をみる。
「実家に帰ったらもらってこようか。」
「良いの?」
「妻は嫌がっていたけれどね。元々漬け物が得意ではなかったみたいだし。」
 その言葉に春樹は少しうなずいた。
「住んでいたところ、育ったところが違うから、考え方も違うのは当然でしょう。俺も妻には我慢していたところもあります。妻も我慢はしてたみたいですね。」
「藤枝さんもそう思いますか。」
 妻帯者だった人同士で話が盛り上がっている。倫子はそう思いながら、また酒に口を付けた。
「倫子。酒ばかりじゃなくてちゃんと食事も食べろ。」
 伊織は口やかましく倫子に言うと、倫子は苦笑いをして鍋にある野菜に手を伸ばす。
「この肉団子も作ったのか?」
 政近は伊織にそう聞くと、伊織は少し笑って倫子をみる。
「それは倫子が。」
「給食で出していたモノみたい。母が作ってくれてたの。」
「美味いな。倫子の母親は料理上手か。」
「そうね……。」
 人と混ざりたくない人だった。女は噂が好きで、根も葉もないことを広げられる。おそらく倫子のことを職場でもねちねち言われていたのだ。だから人とのコミュニケーションは、最低限と決めていた。
「……お前、家の話になると暗くなるな。」
「そうかしら。」
 すると春樹が酒を口にいれて、倫子の方を見た。
「……倫子。」
 その様子に思わず話を知らない礼二もそちらを振り向いた。
「青柳が参考人として事情聴取されているのは知っているだろう。」
「えぇ。」
 青柳という名前に礼二はどこかで聞いた名前だと首を傾げた。
「家宅捜査もされて、自宅から美術品がごろごろと出てきたらしい。そのほとんどが、窃盗で手にいれたモノだった。だから……密入国と共に、その罪もかかる可能性が出てきた。」
「……それでものらりくらりと表舞台に出てくる。口先だけの謝罪をして、あとは知らん顔。そういう人よ。」
「知っていたの?」
「この間、警察が来たの。」
 背が高いたれ目の男。槇司と言っていた。
「何か聞いてきた?」
「青柳の自宅から、祖母の持ち物であった建物にあった香炉が出てきた。」
「……。」
「間違いなくうちにあったもの。その証明をしてほしいと。」
 警察は苦手だ。自分がされたことを訴えても聞き入れてもらえなかった。話は歪曲し、いつの間にか倫子が加害者になる。それでどれだけの人の人生が変わっただろう。
 兄が教師になって生徒から嫌われる存在で、妻からも煙たがられている。そうしないと、兄は自分を保てないのだ。
「その香炉はお祖母さんのモノだったの?」
「間違いないわ。」
 すると春樹は少しため息を付く。やはりそうだったのかと思っていたのだ。

 いつの間にかテレビがついている。年末の歌番組をしていて、それを政近は冷えた目で見ていた。
「上手くねぇな。こんなアイドルみたいなの掃いて捨てるほどいるぜ。」
「でもこの人かっこいい。」
「整形だろ。」
「えー。整形でも何でも良いよ。」
 泉はそういってテレビを見ていた。その様子を礼二も呆れたように見ている。
「川村さんは音楽は聴かないんですか。」
 春樹はそう聞くと、礼二は少し笑って言う。
「昔の女に田舎の祭りに連れて行ってもらったときに聴いたレゲエは、一時期はまってました。そっちの国まで行ったことがありますよ。」
「レゲエ……。」
「倫子さんの映画の主題歌を歌っていたリリーは、見事に返り咲いたという感じですね。」
「あぁ。薬で捕まったことがあるんですよね。」
 アーティストというのは薬をしている人が多いのだろう。ケーキを持ってきた倫子が、その話題を聞いて少しため息を付く。
「小説家でもよく聞くけれど、薬をしないと作品が出来ないのかしら。」
「そう言うなよ。」
 オレンジベースのケーキは、土台がクッキーを砕いたようなクラスト生地だった。
「俺も少し昔は悪くてさ。」
 ケーキを配っていると礼二がぽつりと言った。
「え?」
「仲間とつるんで、悪いことばかりしてた。そのとき、薬に手を出したこともあるんだ。」
 礼二はそう言ってケーキを目の前にして告白する。泉にもまだこの話をしていなかった。
「運良く捕まらなかったけれど、仲間は捕まって反グレなりヤ○ザになったりした。」
「あんたはそうならなかったのか。」
 すると礼二は首を横に振った。
「牧緒が助けてくれてね。良い医者を紹介してもらった。」
 倫子はため息を付いて座ると、ワインに口を付けた。おそらく牧緒ではなく、亜美が紹介したのだろう。自分が世話になっている医者に紹介したのだ。
「会社はそれを知ってて……だから、店が利益を上げられなければすぐに切られるんだ。」
 もし売り上げが下がったりすれば、地方に飛ばされる。そして辞めるようにし向けるだろう。
「礼二……。」
「今年は良かった。十二月の追い込みが良かったし。今年もあの店にいれそうだ。」
 政近もテーブルに付くと、そのケーキにフォークをいれる。そして礼二の方を見た。
「でもよぉ。あんた、体は大丈夫なのか?」
「え?」
「リリーだって薬してた後遺症があると思うぜ。俺の仲間にもそういう奴がいて、未だに後遺症に苦しんでる。」
「……あるよ。後遺症。俺、子供を作れないから。」
 その言葉に倫子が驚いて礼二をみる。
「でもあなた子供がいたわよね。それに……あれだけ遊んでおいて。」
「倫子。」
 春樹が押さえるように倫子に言う。泉の前でそれはないと思ったのだ。
「精子がほとんどないんだ。無精子症。俺の子供だと思ってたのも、違う男の子供だったみたいだし。」
 その告白に、誰もが戸惑った。そして泉の目には薄く涙が溜まる。
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