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取材
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春樹につれられてきたのはメイクルームだったが、そこには人がいなかった。夕方ほどになっていた時間でスタジオによっては撤収をしているところもあり、ここは片づけが終わっているのだろう。
「メイクさんを呼んできますか?」
すると春樹はそのまま倫子の手を引くと、隣の衣装部屋に連れ込んだ。そしてそのまま壁に倫子を押しつけると、そのままかがんでキスをする。
「は……んっ……。」
言葉を言わせないようにいきなり唇を重ねた。言葉どころか息さえままならない。
「舌を出して。」
やっと唇を離されたと思ったら、春樹はもっと求めるようにキスをする。水の音が耳に届いて、頬が赤くなる。
「春樹……誰か来るかもしれない……。」
「来ないよ。君らが占領してた喫煙所になだれ込んでるから。」
「……。」
「距離が近くて嫉妬してたのに、あんなの見せられたらたまらないよ。」
「見てたの?」
口を押さえて倫子は春樹を見上げる。
「抱きしめられてた。」
「違うわ。こけそうになったのを支えてくれただけ。」
「抱きしめられてたよ。こうしてね。」
春樹はそういって倫子の体を抱きしめた。条件としては、夕の方がいいに決まってる。だが渡したくなかった。
「不可抗力よ。」
「だったら……今日、打ち上げのあと抜けないか。」
「編集長が抜けてどうするの?」
その言葉に春樹は首筋に唇を這わせた。
「あっ……。」
「俺と一緒に来て。」
「……うん……。」
「それからカレーを食べよう。」
春樹の腕の中でうなづくと、倫子もまた春樹の体に手を回した。
兄からの連絡に、明日菜は不機嫌そうに電話を切った。倫子の家に間借りしているという伊織。一度会った倫子も相当いらつく女だ。だから兄に相談したのだが、兄は可愛い妹のために何とかしてやると言っていたが、そのもくろみは外れたらしい。
「これ以上は俺の信用に関わるから、真面目に仕事するよ。」
まだ本社に行く前で良かったと鈴音は言っていた。いらつく。いらつく。どうしてあの男がいつも優遇されるのだろう。
「だからさぁ、明日菜。デザイン関係ってそんなにお金になんないって。別の仕事付いた方が良いよ。二十七って再就職も難しくなるしさ。」
わかってる。だけど自分の力でデザインしたモノが商品になる快感は、忘れられないのだ。
そう思いながら明日菜は自分のデスクに戻ってきた。すると社長の元に行っていた伊織も戻ってくる。そして何か物思いにふけているらしい。
伊織はぼんやりすることが多いが、いざ筆を取らせると今までの事が嘘のように早い。筆を取るまでが時間がかかるのだ。
「んー。」
そういってまた伊織は席を立つと、外へ向かった。その様子を見て、社長である上岡富美子は、ため息を付いた。
「考え込んでるわねぇ。」
「ですよ。富岡さんにしては大きな仕事ですからねぇ。」
事務の女性がそういって少し笑った。
「大きな仕事?」
「十月のスイーツのコンテスト。そこに出すお店から、店のロゴを考えてくれないかって。前に富岡さんが手がけたから、直々に指名があったんですよ。」
「コンテスト限定の?」
「評判が良ければ、お店にも採用するって言ってましたけどね。」
すると伊織はオフィスに帰ってきて、富美子に声をかける。
「ちょっと出てきて良いですか。」
「えぇ。浮かばないんでしょ?行ってらっしゃい。」
伊織はこういう時言葉が少ない。頭の中がデザインでいっぱいになるからだ。
そっちの方が良い。余計なことを考えなくて済むから。
コンテスト限定の店のロゴだ。そしてその店の売りはとチョコレートなんだという。チョコレート。どんなイメージだろう。
甘くて、どろっとしてる。白もあれば茶色もあって黒いモノもある。いろんなイメージを持ちながら、伊織は町中を歩いていた。まだ残暑は厳しく、夕方はまだ暑い。
「チョコレートと言うよりはかき氷かなぁ。」
まだアイスなんかを手にしている人を見る。倫子はこう言うのは嫌いだろう。倫子が好きなのは、和食で、お酒だ。甘いモノを進んで食べているのを見たことはない。
「伊織?」
声をかけられてふと振り返った。そこには泉の姿がある。
「泉。」
「こんなところで何してんの?さぼり?」
「さぼりじゃないよ。アイデアが出なくて。」
「ふーん。あぁ、そうだ。私、また今日から帰りがまた少し遅くなるから。」
高柳鈴音が当初考えていたクリスマスデザートを考えていたメンバーに加わり、一緒になってまた一から考え直すらしい。そっちの方がやりやすいかもしれないと思った。
そしてそれに一役買ったのは倫子だった。
「そっか。わかった。」
「……伊織。何かまた考えすぎてない?」
「何を?」
「仕事。伊織って仕事を抱え込むと口数少なくなるから。」
泉は良く人を見ているな。そう思いながら、伊織は少しため息を付いた。
「コーヒーでも買うか。泉の店はテイクアウトしてないの?」
「してない。でも、そこの店のカフェモカ、美味しいよ。」
「カフェモカ?」
「コーヒーとチョコレートのブレンド。正確には、エスプレッソとチョコレートシロップ、スキムミルクの飲み物。」
「甘そう。」
「そうでもないよ。チョコレートとコーヒーはすごい合うよ。」
「ふーん。話の種に買ってみよう。アイスはあるかな。」
「アイスカフェモカ?それもいいね。」
「泉は?」
「え?」
「休憩中?」
「ううん。本社にその話をしに行ってたの。今日からっていう話で。」
ついでに出てきたのだろう。こんな時、泉がとても安心する。倫子のことは好きだが、泉ではないとこういう話は出来ないのだから。
「メイクさんを呼んできますか?」
すると春樹はそのまま倫子の手を引くと、隣の衣装部屋に連れ込んだ。そしてそのまま壁に倫子を押しつけると、そのままかがんでキスをする。
「は……んっ……。」
言葉を言わせないようにいきなり唇を重ねた。言葉どころか息さえままならない。
「舌を出して。」
やっと唇を離されたと思ったら、春樹はもっと求めるようにキスをする。水の音が耳に届いて、頬が赤くなる。
「春樹……誰か来るかもしれない……。」
「来ないよ。君らが占領してた喫煙所になだれ込んでるから。」
「……。」
「距離が近くて嫉妬してたのに、あんなの見せられたらたまらないよ。」
「見てたの?」
口を押さえて倫子は春樹を見上げる。
「抱きしめられてた。」
「違うわ。こけそうになったのを支えてくれただけ。」
「抱きしめられてたよ。こうしてね。」
春樹はそういって倫子の体を抱きしめた。条件としては、夕の方がいいに決まってる。だが渡したくなかった。
「不可抗力よ。」
「だったら……今日、打ち上げのあと抜けないか。」
「編集長が抜けてどうするの?」
その言葉に春樹は首筋に唇を這わせた。
「あっ……。」
「俺と一緒に来て。」
「……うん……。」
「それからカレーを食べよう。」
春樹の腕の中でうなづくと、倫子もまた春樹の体に手を回した。
兄からの連絡に、明日菜は不機嫌そうに電話を切った。倫子の家に間借りしているという伊織。一度会った倫子も相当いらつく女だ。だから兄に相談したのだが、兄は可愛い妹のために何とかしてやると言っていたが、そのもくろみは外れたらしい。
「これ以上は俺の信用に関わるから、真面目に仕事するよ。」
まだ本社に行く前で良かったと鈴音は言っていた。いらつく。いらつく。どうしてあの男がいつも優遇されるのだろう。
「だからさぁ、明日菜。デザイン関係ってそんなにお金になんないって。別の仕事付いた方が良いよ。二十七って再就職も難しくなるしさ。」
わかってる。だけど自分の力でデザインしたモノが商品になる快感は、忘れられないのだ。
そう思いながら明日菜は自分のデスクに戻ってきた。すると社長の元に行っていた伊織も戻ってくる。そして何か物思いにふけているらしい。
伊織はぼんやりすることが多いが、いざ筆を取らせると今までの事が嘘のように早い。筆を取るまでが時間がかかるのだ。
「んー。」
そういってまた伊織は席を立つと、外へ向かった。その様子を見て、社長である上岡富美子は、ため息を付いた。
「考え込んでるわねぇ。」
「ですよ。富岡さんにしては大きな仕事ですからねぇ。」
事務の女性がそういって少し笑った。
「大きな仕事?」
「十月のスイーツのコンテスト。そこに出すお店から、店のロゴを考えてくれないかって。前に富岡さんが手がけたから、直々に指名があったんですよ。」
「コンテスト限定の?」
「評判が良ければ、お店にも採用するって言ってましたけどね。」
すると伊織はオフィスに帰ってきて、富美子に声をかける。
「ちょっと出てきて良いですか。」
「えぇ。浮かばないんでしょ?行ってらっしゃい。」
伊織はこういう時言葉が少ない。頭の中がデザインでいっぱいになるからだ。
そっちの方が良い。余計なことを考えなくて済むから。
コンテスト限定の店のロゴだ。そしてその店の売りはとチョコレートなんだという。チョコレート。どんなイメージだろう。
甘くて、どろっとしてる。白もあれば茶色もあって黒いモノもある。いろんなイメージを持ちながら、伊織は町中を歩いていた。まだ残暑は厳しく、夕方はまだ暑い。
「チョコレートと言うよりはかき氷かなぁ。」
まだアイスなんかを手にしている人を見る。倫子はこう言うのは嫌いだろう。倫子が好きなのは、和食で、お酒だ。甘いモノを進んで食べているのを見たことはない。
「伊織?」
声をかけられてふと振り返った。そこには泉の姿がある。
「泉。」
「こんなところで何してんの?さぼり?」
「さぼりじゃないよ。アイデアが出なくて。」
「ふーん。あぁ、そうだ。私、また今日から帰りがまた少し遅くなるから。」
高柳鈴音が当初考えていたクリスマスデザートを考えていたメンバーに加わり、一緒になってまた一から考え直すらしい。そっちの方がやりやすいかもしれないと思った。
そしてそれに一役買ったのは倫子だった。
「そっか。わかった。」
「……伊織。何かまた考えすぎてない?」
「何を?」
「仕事。伊織って仕事を抱え込むと口数少なくなるから。」
泉は良く人を見ているな。そう思いながら、伊織は少しため息を付いた。
「コーヒーでも買うか。泉の店はテイクアウトしてないの?」
「してない。でも、そこの店のカフェモカ、美味しいよ。」
「カフェモカ?」
「コーヒーとチョコレートのブレンド。正確には、エスプレッソとチョコレートシロップ、スキムミルクの飲み物。」
「甘そう。」
「そうでもないよ。チョコレートとコーヒーはすごい合うよ。」
「ふーん。話の種に買ってみよう。アイスはあるかな。」
「アイスカフェモカ?それもいいね。」
「泉は?」
「え?」
「休憩中?」
「ううん。本社にその話をしに行ってたの。今日からっていう話で。」
ついでに出てきたのだろう。こんな時、泉がとても安心する。倫子のことは好きだが、泉ではないとこういう話は出来ないのだから。
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