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燃焼
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明日菜が友達と離れていき、倫子も亜美に呼ばれてそっちへ行ってしまった。春樹は少しため息を付いて伊織を見る。
「そろそろお開きだね。」
太陽は夕方になって少し落ちてきた。亜美たちはこれから店を開けるのだろう。こんなことをしたのは店に客を呼ぶためなのだから。
「藤枝さんは行きますか。」
「どうかな。お腹は一杯だけどね。」
このあと倫子と消えたい。そう思っているのに倫子は亜美とばかりいる。今は亜美を介して、女性と話をしているようだ。気が合うとか、波長が合うとかそういう人ではないと付き合いたくないと言っていた割には、愛想は悪くない。だが表面上だろう。
「倫子は行くのかな。」
「どうだろうね。今は差し迫った締め切りもないようだけど……。今度、本を出すのにそちらに依頼が行くと思うよ。」
「……前の文庫本は俺のデザインになったから、今度は厳しいんじゃないのかと思いますけどね。」
「確かにね。でも小泉先生が納得するような人が出てくればいいんだけど。」
「……藤枝さん。あの、聞きたいことがあって。」
「ん?」
「この間の夜。倫子と会っていたでしょう?」
セックスをした日のことを言っているのだろう。確かに倫子とそういうことをした。だが望んで家というとかなり微妙な関係だと思う。倫子は二度はないと言っていたが、春樹は今日また一緒に消えたいと思っているのだ。
「会ったね。見た?文庫本のサンプル。」
「えぇ。印刷が鮮やかでイメージ通りでした。」
「アレは売れるかもしれない。」
出版社によっては表紙はすべてどんな作品でも統一しているところはある。表紙にカバーを掛ける読者もいるだろう。だがやはり見た目というのは重要だ。
目について手に取り中身を軽く読んで、買ってもらう。そのために見たときに目に付くような本は重要なのだ。
「次の日に。」
「え?」
「本を見たのは朝でした。朝帰りをしていて。」
「そっか。若いからそういうこともあるだろうね。この間、官能小説の編集者に痛いところを突かれてたのが、気になっていたようだ。」
きっかけはそうだったかもしれないが、自分にとっては夢のような出来事だった。倫子もそう思っているのかはわからないが、自分だけの考えならばまたそうしたいと思う。
「藤枝さんが相手ではないんですか。」
「俺には妻がいるからね。」
ここへ来る前に妻に会ってきた。相変わらず寝たきりだが、最近は顔をまともに見れない。罪悪感がそうしているのかもしれないし、もし妻が起きればそのことを正直に言わないといけないだろう。
作品のためで愛情は無いと、いいわけをして。
「そうですか……。」
正直に言うはずはない。実際そうだったとしても、言えるわけがないだろう。
「妻とは正反対のタイプに見えるよ。」
「え?」
「妻は、同じ出版社で同業だった。後輩でね。女子校から女子大に行って出版社に入った、お嬢様だ。」
「お嬢様……ですか。」
そういえば泉が倫子がお嬢様だと言っていたが、今の倫子からはお嬢様のイメージは想像できない。
「だから男勝りな人が生き残るようなところでは、やりにくかっただろうね。」
「倫子が男勝りだと?」
「そう思うよ。若いうちに家を買って、一人で生きていこうとしている。男のようだと思う。結婚して内助の功が出来るとは思えない。」
「そうでもないですよ。割と何でも身の回りのことはするし……。」
「そういうことじゃないよ。」
確かに春樹の方が倫子とはつきあいが長いかもしれない。だが自分の方が一緒に暮らしているのだ。倫子のことをわかっていると自信がある。
「決定的なのは子供が嫌いだと言っていたよ。」
「子供……ですか?」
ピルを飲んでいるのだ。それは生理などで体調が悪くなったりして書けなくなるのを恐れていると同時に、子供が欲しくないからだという。
「妻は子供が欲しいとずっと言ってた。なのにあんな状態になってしまったんだ。」
「あの……どうして奥さんは寝たきりに?」
すると春樹は少し笑って言う。
「それを言わせる?」
「あ……すいません。」
自分にも言いたくないことはある。だから無理に言いたくないなら言わないでもいい。
「運が悪かったんだ。」
妻は子供を欲しがっていた。だが眠ったまま妻はもう二十八になる。そして起きても普段通りに生活が出来ないかもしれないのだ。子供なんて夢物語にしか思えない。
そのころ倫子は、亜美を介して一人の女性に会っていた。それは亜美の恋人だという桃子という女性だった。
「ごめんなさい。変に誤解をしていて。」
「いいんです。どうせ泉の上司の人が脅したんでしょうから。」
礼二ならそれくらいするかもしれない。なんせ、倫子と寝てから逆恨みのようなことをしているのだから。
「桃子はうちの店に来る?」
亜美はそう聞くと、桃子は少し笑って首を横に振る。
「遠慮する。人が多いとまたパニックになるから。」
そういう病気なのだと亜美はいう。普通の人ではないのだ。それにつきあっている亜美も、人がいいのか愛情がそうさせているのかはわからない。
「倫子。飲みに来いよ。お前、まだ飲めるだろ?」
牧緒は火を消しながら、倫子にそう聞いた。日向でずっと日に当たっていた牧緒は、夜の仕事をしているのに今日一日でずいぶん焼けた感じがする。
「今日はやっぱり帰るわ。」
桃子を見て倫子はそういう。
「何で?」
「泉が気になるもの。泉はずっとこういう会に出たことがないから。何か買って帰るわ。」
「優しいね。倫子は。泉のことも考えるなんて。」
「なんかいい肉でも買って帰ろうかな。」
その言葉に春樹と伊織が近づいてきていう。
「泉に何か買って帰る?」
「そうね。」
「じゃあ、俺すいか買うわ。」
「一玉買っても食べきれないわ。」
「藤枝さんも来たら、半分くらいは減るんじゃない?」
その言葉には気は少し笑った。
「じゃあ、俺は何を買うかな。」
「酒でしょ?」
「泉は飲めないよ。倫子が飲みたいだけじゃないの?」
少し笑いあったが、不安な空の色をしていると倫子は思っていた。風が強くなってきている。明日は雨なのだ。
「そろそろお開きだね。」
太陽は夕方になって少し落ちてきた。亜美たちはこれから店を開けるのだろう。こんなことをしたのは店に客を呼ぶためなのだから。
「藤枝さんは行きますか。」
「どうかな。お腹は一杯だけどね。」
このあと倫子と消えたい。そう思っているのに倫子は亜美とばかりいる。今は亜美を介して、女性と話をしているようだ。気が合うとか、波長が合うとかそういう人ではないと付き合いたくないと言っていた割には、愛想は悪くない。だが表面上だろう。
「倫子は行くのかな。」
「どうだろうね。今は差し迫った締め切りもないようだけど……。今度、本を出すのにそちらに依頼が行くと思うよ。」
「……前の文庫本は俺のデザインになったから、今度は厳しいんじゃないのかと思いますけどね。」
「確かにね。でも小泉先生が納得するような人が出てくればいいんだけど。」
「……藤枝さん。あの、聞きたいことがあって。」
「ん?」
「この間の夜。倫子と会っていたでしょう?」
セックスをした日のことを言っているのだろう。確かに倫子とそういうことをした。だが望んで家というとかなり微妙な関係だと思う。倫子は二度はないと言っていたが、春樹は今日また一緒に消えたいと思っているのだ。
「会ったね。見た?文庫本のサンプル。」
「えぇ。印刷が鮮やかでイメージ通りでした。」
「アレは売れるかもしれない。」
出版社によっては表紙はすべてどんな作品でも統一しているところはある。表紙にカバーを掛ける読者もいるだろう。だがやはり見た目というのは重要だ。
目について手に取り中身を軽く読んで、買ってもらう。そのために見たときに目に付くような本は重要なのだ。
「次の日に。」
「え?」
「本を見たのは朝でした。朝帰りをしていて。」
「そっか。若いからそういうこともあるだろうね。この間、官能小説の編集者に痛いところを突かれてたのが、気になっていたようだ。」
きっかけはそうだったかもしれないが、自分にとっては夢のような出来事だった。倫子もそう思っているのかはわからないが、自分だけの考えならばまたそうしたいと思う。
「藤枝さんが相手ではないんですか。」
「俺には妻がいるからね。」
ここへ来る前に妻に会ってきた。相変わらず寝たきりだが、最近は顔をまともに見れない。罪悪感がそうしているのかもしれないし、もし妻が起きればそのことを正直に言わないといけないだろう。
作品のためで愛情は無いと、いいわけをして。
「そうですか……。」
正直に言うはずはない。実際そうだったとしても、言えるわけがないだろう。
「妻とは正反対のタイプに見えるよ。」
「え?」
「妻は、同じ出版社で同業だった。後輩でね。女子校から女子大に行って出版社に入った、お嬢様だ。」
「お嬢様……ですか。」
そういえば泉が倫子がお嬢様だと言っていたが、今の倫子からはお嬢様のイメージは想像できない。
「だから男勝りな人が生き残るようなところでは、やりにくかっただろうね。」
「倫子が男勝りだと?」
「そう思うよ。若いうちに家を買って、一人で生きていこうとしている。男のようだと思う。結婚して内助の功が出来るとは思えない。」
「そうでもないですよ。割と何でも身の回りのことはするし……。」
「そういうことじゃないよ。」
確かに春樹の方が倫子とはつきあいが長いかもしれない。だが自分の方が一緒に暮らしているのだ。倫子のことをわかっていると自信がある。
「決定的なのは子供が嫌いだと言っていたよ。」
「子供……ですか?」
ピルを飲んでいるのだ。それは生理などで体調が悪くなったりして書けなくなるのを恐れていると同時に、子供が欲しくないからだという。
「妻は子供が欲しいとずっと言ってた。なのにあんな状態になってしまったんだ。」
「あの……どうして奥さんは寝たきりに?」
すると春樹は少し笑って言う。
「それを言わせる?」
「あ……すいません。」
自分にも言いたくないことはある。だから無理に言いたくないなら言わないでもいい。
「運が悪かったんだ。」
妻は子供を欲しがっていた。だが眠ったまま妻はもう二十八になる。そして起きても普段通りに生活が出来ないかもしれないのだ。子供なんて夢物語にしか思えない。
そのころ倫子は、亜美を介して一人の女性に会っていた。それは亜美の恋人だという桃子という女性だった。
「ごめんなさい。変に誤解をしていて。」
「いいんです。どうせ泉の上司の人が脅したんでしょうから。」
礼二ならそれくらいするかもしれない。なんせ、倫子と寝てから逆恨みのようなことをしているのだから。
「桃子はうちの店に来る?」
亜美はそう聞くと、桃子は少し笑って首を横に振る。
「遠慮する。人が多いとまたパニックになるから。」
そういう病気なのだと亜美はいう。普通の人ではないのだ。それにつきあっている亜美も、人がいいのか愛情がそうさせているのかはわからない。
「倫子。飲みに来いよ。お前、まだ飲めるだろ?」
牧緒は火を消しながら、倫子にそう聞いた。日向でずっと日に当たっていた牧緒は、夜の仕事をしているのに今日一日でずいぶん焼けた感じがする。
「今日はやっぱり帰るわ。」
桃子を見て倫子はそういう。
「何で?」
「泉が気になるもの。泉はずっとこういう会に出たことがないから。何か買って帰るわ。」
「優しいね。倫子は。泉のことも考えるなんて。」
「なんかいい肉でも買って帰ろうかな。」
その言葉に春樹と伊織が近づいてきていう。
「泉に何か買って帰る?」
「そうね。」
「じゃあ、俺すいか買うわ。」
「一玉買っても食べきれないわ。」
「藤枝さんも来たら、半分くらいは減るんじゃない?」
その言葉には気は少し笑った。
「じゃあ、俺は何を買うかな。」
「酒でしょ?」
「泉は飲めないよ。倫子が飲みたいだけじゃないの?」
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