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二年目
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このまま私はまた葵さんとセックスしてしまうのだろうか。快楽に流されて、快楽に負けて、私は柊さんだけを見ていたはずなのに、彼を求めてしまうのだろうか。
そう思うと悔しい。このまま死んでしまいたいくらいだ。でも死ぬわけにはいかない。死ぬのだったら柊さんの前で死にたい。彼の腕に抱かれて死にたい。
そう思ったからもう最後の手しか使えないと思った。私は快楽と理性の間に挟まれたまま、葵さんの顔に手を伸ばす。
「求めるのか。」
彼は満足そうに私の顔に顔を近づけてきた。そして口を半分開けた私の唇にキスをする。私の方から唇の奥に舌を入れ、そして彼の舌を私の中に誘い込んだ。そして……。
がりっ。
確かにそんな音がした。あわてて彼は私から離れる。それがわかり、私は彼から離れた。脱ぎ捨てられた下着とシャツを手にして、ソファを降りる。そして自分の部屋に逃げ込んだ。
ドアを背にして、下着とシャツを身につける。するとドアを無理矢理開けようとする彼の力が背中に加わってきた。
「桜。」
「怖いんです。葵さん。やめてください。」
すると彼はドアに加えられたその力を緩めた。
「どんな相手でも嫌がっても最終的には、私を受け入れてくれる女ばかりだった。あなたはそんな女じゃないのか。」
「違います。私は……柊しか……。」
「幻想だろう。愛なんてものは存在しない。肉欲しかないはずだ。」
「じゃあ、あなたの愛も幻想なんですね。」
その言葉に彼は黙る。確かに彼は何度も好きだといった。それも嘘だと今証明されたのだ。
「……確かに抱きたいという気持ちしかなかった。柊にあなたを取られたから。私にあるのは憎しみだけだから。」
憎しみ?それは柊さんに対する憎しみ?
「柊さんが嫌いなんですか。」
「嫌いだ。以前からね。でもあなたのことがあってさらに嫌いになった。」
ドンという衝撃があって、私は前につんのめる。どうやらドアを無理矢理開けたらしい。
もう薄い明かりではなくて、部屋の明かりで葵さんが照らし出された。彼の口元が血で濡れている。私が舌を噛んだのだ。
「でもあなたは好きだと思う。」
「体でしょう。結局。」
どこがいいんだろう。もっと肉感のある人の方がいいに決まっているのに。
「体もいいようだ。相性というのがある。あなたとは相性がいいようだ。それは胸が大きいとか、体が女らしいとかそんなものじゃない。あなたのように感じてくれると、私が本当に必要なんだと実感できる。あなたにはわかるはずだ。その感覚が。」
「……。」
「あの店にとっても、私にとってもあなたは必要だ。それが愛というのだったらそうなのだろう。」
「さっきといってることが違いますけど。」
「……恋愛感情なんかわからないと思ってた。でも多分これが私の初めての感情だと思う。一人の女に戸惑って、嫉妬して、そんな自分があると思わなかった。」
頬を染める赤。そして彼は倒れ込んだ私の目線にしゃがみ込むと、その赤をもっと濃くさせた。きっと照れている。
柊さんとは違っていつも笑顔だけど、それもそれで無表情だと思って気味が悪かったこともある。だけど今は違う。笑顔はなく、目線が私をまっすぐ見ている。
そして彼は私の左手をつかんできた。やだ。まだ何かするんだろうか。
「やだ。」
「これしかしない。桜。」
左手の薬指に、何か感覚がある。手を離されて、私はそれを見た。そこには銀色のリングがある。
「卒業したら、私の所に来ないか。」
「……葵さんの所に?」
「あぁ。きっと柊よりも現実味はある。あなたのお母さんを説得することが困難かもしれないが、きっと説得できるから。」
「……出来ない。」
指輪をとり、私はそれを彼に返すように差し出した。
「私は、柊と一緒にいますから。ずっと。」
「……。」
彼はため息を付き立ち上がると、勉強するためのテーブルに近づいた。
「きっとあなたは私を求めてくる。」
「前にも言ってましたけど、私はあなたを求めることはありませんから。」
部屋を出ていこうとした葵さんを、私は追うことはなかった。そんなことをしてしまえば、きっと彼は私に希望を持つから。
玄関のドアが閉まる音がして、私はそこから立ち上がった。そして机に近づいた。するとそこにはさっきの指輪がある。
「……。」
細いリングだ。確かに柊さんからもらったものよりも、こっちの方が指にしっくりくるのかもしれない。だけどこれを付けることはきっとない。
明日返そう。というか、明日「窓」開けるのかな。
舌を噛んだということは、きっと焙煎したコーヒーの味を確かめることも出来ないんだろうからなぁ。
よくよく考えたら、とんでもないことしてなかった?私。
でも仕方ないんだよ。あのまま流されて、セックスするよりもましだ。しかもコンドームなしで。
好きな人でもない人と、生でセックスなんか出来る訳ない。子供作るわけでもなし。
じゃあ柊さんと子供を作る?
……わからない。でも後半年くらいしかない。半年したら学校を卒業できる。
一年の終わり、私は「就職」と「進学」というプリントを渡され、この薄い紙一枚で、一生が決まるような気がしてイヤだった。
だけど今、私の前にはもっと多くの道が開かれている。そんな気がした。
そう思うと悔しい。このまま死んでしまいたいくらいだ。でも死ぬわけにはいかない。死ぬのだったら柊さんの前で死にたい。彼の腕に抱かれて死にたい。
そう思ったからもう最後の手しか使えないと思った。私は快楽と理性の間に挟まれたまま、葵さんの顔に手を伸ばす。
「求めるのか。」
彼は満足そうに私の顔に顔を近づけてきた。そして口を半分開けた私の唇にキスをする。私の方から唇の奥に舌を入れ、そして彼の舌を私の中に誘い込んだ。そして……。
がりっ。
確かにそんな音がした。あわてて彼は私から離れる。それがわかり、私は彼から離れた。脱ぎ捨てられた下着とシャツを手にして、ソファを降りる。そして自分の部屋に逃げ込んだ。
ドアを背にして、下着とシャツを身につける。するとドアを無理矢理開けようとする彼の力が背中に加わってきた。
「桜。」
「怖いんです。葵さん。やめてください。」
すると彼はドアに加えられたその力を緩めた。
「どんな相手でも嫌がっても最終的には、私を受け入れてくれる女ばかりだった。あなたはそんな女じゃないのか。」
「違います。私は……柊しか……。」
「幻想だろう。愛なんてものは存在しない。肉欲しかないはずだ。」
「じゃあ、あなたの愛も幻想なんですね。」
その言葉に彼は黙る。確かに彼は何度も好きだといった。それも嘘だと今証明されたのだ。
「……確かに抱きたいという気持ちしかなかった。柊にあなたを取られたから。私にあるのは憎しみだけだから。」
憎しみ?それは柊さんに対する憎しみ?
「柊さんが嫌いなんですか。」
「嫌いだ。以前からね。でもあなたのことがあってさらに嫌いになった。」
ドンという衝撃があって、私は前につんのめる。どうやらドアを無理矢理開けたらしい。
もう薄い明かりではなくて、部屋の明かりで葵さんが照らし出された。彼の口元が血で濡れている。私が舌を噛んだのだ。
「でもあなたは好きだと思う。」
「体でしょう。結局。」
どこがいいんだろう。もっと肉感のある人の方がいいに決まっているのに。
「体もいいようだ。相性というのがある。あなたとは相性がいいようだ。それは胸が大きいとか、体が女らしいとかそんなものじゃない。あなたのように感じてくれると、私が本当に必要なんだと実感できる。あなたにはわかるはずだ。その感覚が。」
「……。」
「あの店にとっても、私にとってもあなたは必要だ。それが愛というのだったらそうなのだろう。」
「さっきといってることが違いますけど。」
「……恋愛感情なんかわからないと思ってた。でも多分これが私の初めての感情だと思う。一人の女に戸惑って、嫉妬して、そんな自分があると思わなかった。」
頬を染める赤。そして彼は倒れ込んだ私の目線にしゃがみ込むと、その赤をもっと濃くさせた。きっと照れている。
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そして彼は私の左手をつかんできた。やだ。まだ何かするんだろうか。
「やだ。」
「これしかしない。桜。」
左手の薬指に、何か感覚がある。手を離されて、私はそれを見た。そこには銀色のリングがある。
「卒業したら、私の所に来ないか。」
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「あぁ。きっと柊よりも現実味はある。あなたのお母さんを説得することが困難かもしれないが、きっと説得できるから。」
「……出来ない。」
指輪をとり、私はそれを彼に返すように差し出した。
「私は、柊と一緒にいますから。ずっと。」
「……。」
彼はため息を付き立ち上がると、勉強するためのテーブルに近づいた。
「きっとあなたは私を求めてくる。」
「前にも言ってましたけど、私はあなたを求めることはありませんから。」
部屋を出ていこうとした葵さんを、私は追うことはなかった。そんなことをしてしまえば、きっと彼は私に希望を持つから。
玄関のドアが閉まる音がして、私はそこから立ち上がった。そして机に近づいた。するとそこにはさっきの指輪がある。
「……。」
細いリングだ。確かに柊さんからもらったものよりも、こっちの方が指にしっくりくるのかもしれない。だけどこれを付けることはきっとない。
明日返そう。というか、明日「窓」開けるのかな。
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でも仕方ないんだよ。あのまま流されて、セックスするよりもましだ。しかもコンドームなしで。
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……わからない。でも後半年くらいしかない。半年したら学校を卒業できる。
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