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二年目
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あれ?いつの間にベッドに入ったんだっけ。覚えてないな。だけど温もりを感じる。体の温もりや感触。馴染みのある感覚。
上を見上げると、柊さんの髭の生えた顎が見えた。
「……柊?」
彼は薄く目を開けて、私をぎゅっと抱きしめた。
「遅くなった。悪かったな。」
「ううん。」
「机にうっつぶして寝てた。」
「そうなの?あぁ。だからベッドに入ったことも覚えてなかったんだ。」
「……停電になって怖くなかったか。」
「大丈夫。一人は慣れてるの。」
「慣れるな。」
まぁ、正確には一人じゃなかったけど。
彼は私の額に唇を寄せると、私の頭をなでる。
「……桜。」
「何?」
「夕べ葵が来たのか。」
「……えぇ。」
「お母さんが近くに来ているのだったら、様子を見て欲しいって言ってたらしくてな。本当に来ていたのか。」
「ごめんなさい。」
「謝ることじゃない。ただな、お母さんは、きっとお前の選択肢を増やしたいと思っているじゃないかって、最近思う。」
「……選択肢を増やしてもあなたしか見ないのに。」
「そうだな。俺もお前しか見ない。ただ……。」
彼は少しため息を付いていった。
「葵がまた言ってきた。お前をシェアするのはまだ有効じゃないかって。」
「……まだそんなことを?」
「もちろんそんな気はない。ものじゃないんだ。」
そう言って彼は私の上に乗りかかった。そして唇にキスをしてくる。葵さんとは違うキスは、力強くて息が出来ないほど激しい。そして体が熱くなる。
「まだ時間ある?」
「そのつもりで起きた。」
「でもそう言えばコンドームがないって。」
「それは問題ない。」
「え?」
「お母さんから連絡をもらっている。桜。夕べは葵に触れられたのか。あいつのことだから、手を出さないで帰ることはないだろう?」
「……ごめんなさい。」
「もうこうなればお前の責任じゃないだろう。」
彼はちらりと時計をみる。そして私の体を起こした。シャツを脱がされ、下着に後ろから手を伸ばした。
「最後まで?」
「いいえ。抵抗したの。噛みちぎってやれっていわれたから。」
「まさか、本当に?」
「いいえ。舌をね。」
「過激な奴だ。敵に回すと怖いな。」
私も彼のシャツに手をかけた。そして再びキスをする。
外はまだ緩やかに風が吹いていた。その風の音で、私たちの声や吐息が紛れればいい。
それから数日して、「窓」へ行くと葵さんは普段通りに営業をしていた。一緒になることや、私に襲いかかったこともすべてを忘れたように普段の通りだった。
いつも通りコーヒーを入れていると、久しぶりに見る人がドアのチャイムを鳴らした。
「いらっしゃいませ。」
それは繁華街にあるカフェバーの人で、梅子さんだった。今日は水色のワンピース。おそらくパニエか何かが入っているようでフワンとそれが広がっていた。ロングスカートの裾はフリルで飾りたてられている。
「梅子さん。」
「久しぶりね。なかなか来てくれないから、こっちから来ちゃったわ。」
濃いめの化粧をした梅子さんは、女性に見えるけどれっきとした男性だった。
「すいません。今ちょっと忙しくて。」
「就職活動でしょ?大変ね。もうどこに行くか絞った?」
「えぇ。一応。」
言っていいのかなぁ。まぁスカウトが来ていることは、言わない方がいいのかもしれないけど。
「遠くへ行くの?」
「いいえ。この町で探してて。」
「若いうちはほかの土地を出るのも手じゃないかしら。あ、あたしダージリンもらえる?」
メニューを見て、彼女はそう言ってきた。葵さんがレジへ言ったということは、私に入れろってことなんだろうな。
「あなた、去年ヒジカタコーヒーでバイトしていたって言ってたけど、あの会社から何か聞いていない?」
「何か?」
手を思わず止めてしまった。そして梅子さんをみる。
「ちょっといやな噂を聞いたの。」
「……噂?」
「えぇ。この町のカフェとか、ううん。この町じゃなくてもいいのかもしれないけど、ほかのカフェとかでバリスタライセンスを持っているような人を引き抜いているらしいわ。」
「……そんなことして何するんですかね。」
「さぁ。カフェでもするのかしら。」
お湯が沸いて、ティーポットに茶葉を入れてそれを蒸らした。
「でも驚異ですよね。バリスタライセンスとか持っている人を入れたカフェが、この辺にオープンしたら……。」
「まぁ、バリスタライセンスなんて、ただの資格よ。あってもなくても良いし。葵は持っていたかしら。」
「一応ですね。取れと言われたから取ってますけど、どこにいったかなぁ。」
「そんなものなのよ。」
そう言って彼女は笑っていた。でもちょっと心が引っかかる。
紅茶が蒸れた時間になり、私はそれをカップに注いだ。
上を見上げると、柊さんの髭の生えた顎が見えた。
「……柊?」
彼は薄く目を開けて、私をぎゅっと抱きしめた。
「遅くなった。悪かったな。」
「ううん。」
「机にうっつぶして寝てた。」
「そうなの?あぁ。だからベッドに入ったことも覚えてなかったんだ。」
「……停電になって怖くなかったか。」
「大丈夫。一人は慣れてるの。」
「慣れるな。」
まぁ、正確には一人じゃなかったけど。
彼は私の額に唇を寄せると、私の頭をなでる。
「……桜。」
「何?」
「夕べ葵が来たのか。」
「……えぇ。」
「お母さんが近くに来ているのだったら、様子を見て欲しいって言ってたらしくてな。本当に来ていたのか。」
「ごめんなさい。」
「謝ることじゃない。ただな、お母さんは、きっとお前の選択肢を増やしたいと思っているじゃないかって、最近思う。」
「……選択肢を増やしてもあなたしか見ないのに。」
「そうだな。俺もお前しか見ない。ただ……。」
彼は少しため息を付いていった。
「葵がまた言ってきた。お前をシェアするのはまだ有効じゃないかって。」
「……まだそんなことを?」
「もちろんそんな気はない。ものじゃないんだ。」
そう言って彼は私の上に乗りかかった。そして唇にキスをしてくる。葵さんとは違うキスは、力強くて息が出来ないほど激しい。そして体が熱くなる。
「まだ時間ある?」
「そのつもりで起きた。」
「でもそう言えばコンドームがないって。」
「それは問題ない。」
「え?」
「お母さんから連絡をもらっている。桜。夕べは葵に触れられたのか。あいつのことだから、手を出さないで帰ることはないだろう?」
「……ごめんなさい。」
「もうこうなればお前の責任じゃないだろう。」
彼はちらりと時計をみる。そして私の体を起こした。シャツを脱がされ、下着に後ろから手を伸ばした。
「最後まで?」
「いいえ。抵抗したの。噛みちぎってやれっていわれたから。」
「まさか、本当に?」
「いいえ。舌をね。」
「過激な奴だ。敵に回すと怖いな。」
私も彼のシャツに手をかけた。そして再びキスをする。
外はまだ緩やかに風が吹いていた。その風の音で、私たちの声や吐息が紛れればいい。
それから数日して、「窓」へ行くと葵さんは普段通りに営業をしていた。一緒になることや、私に襲いかかったこともすべてを忘れたように普段の通りだった。
いつも通りコーヒーを入れていると、久しぶりに見る人がドアのチャイムを鳴らした。
「いらっしゃいませ。」
それは繁華街にあるカフェバーの人で、梅子さんだった。今日は水色のワンピース。おそらくパニエか何かが入っているようでフワンとそれが広がっていた。ロングスカートの裾はフリルで飾りたてられている。
「梅子さん。」
「久しぶりね。なかなか来てくれないから、こっちから来ちゃったわ。」
濃いめの化粧をした梅子さんは、女性に見えるけどれっきとした男性だった。
「すいません。今ちょっと忙しくて。」
「就職活動でしょ?大変ね。もうどこに行くか絞った?」
「えぇ。一応。」
言っていいのかなぁ。まぁスカウトが来ていることは、言わない方がいいのかもしれないけど。
「遠くへ行くの?」
「いいえ。この町で探してて。」
「若いうちはほかの土地を出るのも手じゃないかしら。あ、あたしダージリンもらえる?」
メニューを見て、彼女はそう言ってきた。葵さんがレジへ言ったということは、私に入れろってことなんだろうな。
「あなた、去年ヒジカタコーヒーでバイトしていたって言ってたけど、あの会社から何か聞いていない?」
「何か?」
手を思わず止めてしまった。そして梅子さんをみる。
「ちょっといやな噂を聞いたの。」
「……噂?」
「えぇ。この町のカフェとか、ううん。この町じゃなくてもいいのかもしれないけど、ほかのカフェとかでバリスタライセンスを持っているような人を引き抜いているらしいわ。」
「……そんなことして何するんですかね。」
「さぁ。カフェでもするのかしら。」
お湯が沸いて、ティーポットに茶葉を入れてそれを蒸らした。
「でも驚異ですよね。バリスタライセンスとか持っている人を入れたカフェが、この辺にオープンしたら……。」
「まぁ、バリスタライセンスなんて、ただの資格よ。あってもなくても良いし。葵は持っていたかしら。」
「一応ですね。取れと言われたから取ってますけど、どこにいったかなぁ。」
「そんなものなのよ。」
そう言って彼女は笑っていた。でもちょっと心が引っかかる。
紅茶が蒸れた時間になり、私はそれをカップに注いだ。
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