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シャストラとグラハは、宿を出ると真っ直ぐルビーの採掘場へ向かった。
「さて、どんな感じになってるかな?」
「さようでございますね。陛下の目が及ばないようになってから、だいぶ経ちますからね」
十年前にドラヴィダ王が不法にこの村を占拠して以来、この村の良質なルビーの原石は、全てドラヴィダ側へ流れていき、加工されてドラヴィダ産の輸出品とされてしまっていたのだ。
「ああ。ちゃんとしたルビーが出ているといいのだけど。もう無理かなあ?」
「どうですかねえ」
二人は採掘場の入り口で入場許可証を兵士に見せると、すんなり中へ入っていった。
採掘場は村の真ん中を流れる川を中心にして、上流の東側を東の採掘場とし、下流の西側を西の採掘場として分けられていた。
西の採掘場を見渡すと、まばらにしか人がいなかった。質の良いルビーは全て上流の採掘場である東側で取られてしまっている。
西側には三流レベルの原石しか流れてこないのだ。
その中でも真剣に採掘していそうな村人がいるところは、一カ所しかない。
「やっぱりこっち側は、ダメっぽいね」
「そのようですね。活気もないですし、質の良い物は上流で根こそぎ採掘されてしまって、下流のこちらには屑のようなルビーしか流れてこないのでしょうね」
「うん。想像通りだったね」
そういうシャストラの表情は、特に残念そうには見えない。こうなっていることは、わかっていたという感じだ。
「さて、どうするかな?」
「とりあえず私たちに手を振っている方のところに行ってみますか」
「そうだね」
採掘場の中心で二人に手を振っている老人がいた。
そのまままっすぐ老人の元に向かう。
「若さま、ようこそいらっしゃいました」
「久しぶりだね、じいや」
「マルガさま、お久しぶりにございます。お元気そうで何よりでございます」
「ふふふ。グラハ殿もお元気そうじゃ」
じいやと呼ばれた老人は、少々きつめに巻いたターバンを上に押し上げて、くぼんだ目を開けた。
「じいや、ここしばらくの間、何か変わったことはあった?」
「おおよそのことは、若さまの手の者にお伝えしておりましたが……」
そう言いながら、マルガは背後の川底に仕掛けた網型の筒の中を覗いた。
二人もそれを見下ろした。
「泥水でおわかりにならないかと思いますが、ルビーはもう西側の採掘場からはほとんど出ません」
「そうか」
「若さまが必要となさっている最上質のルビーを得るためには、やはり東側の採掘場に行かねばならないかと思います」
どうなさいますか? というように無言でマルガはシャストラを見上げた。
「やはり東に行かないとダメか……」
「しかし、我々の作戦からしても結局は東に行かねばならなかったのですから、二度手間にはなりませんけどね」
「そうだね」
「東に向かう手はずは整っております。奥方さまも心得ておられます」
「東側の村長とは?」
「話は通っております。元々、この村はダルシャナ王国だったのですから」
「そうですか。では、シャストラさま、明日にでも東側へ入国致しましょうか?」
「入国か。本当、嫌な言い方だね」
シャストラは、苦い顔をする。
「そうですね。しかし、それももうすぐですよ」
「さようにございます。若さま、もう少しの辛抱にございます」
「ああ、そうだね。でもグラハ、今晩は宿に戻らないと」
「はい。我々だけ東に行ってもクティーの力がなければ意味がありませんからね」
「そうだ」
「まさか若さま、かの一族の末裔が見つかったのでございますか?」
シャストラは頷いた。
「だから、予定通り僕たちの作戦が実行できるんだ」
「時間があれば、その者とゆっくりお話ししたいものですな」
「まあ、いずれ、ね」
「クティーが落ち着き次第、東側へ移動ですね」
「今夜一晩ですぐに移動って言っても、無理だろうからね」
「そうですよ。何と言ってもあの麓の町を初めて出てきた娘なのですからね。いきなり移動と言っても、なかなか心身ともに動けないでしょう。いかに自分が重要な役回りなのかも、いまいち理解していなさそうですし」
「仕方がないよ。命が狙われるってどういうことなのか、身に迫ったことが今までなかったんだし」
「はい」
「じゃあ、じいや、僕たちは宿に戻って連れが移動できる状態になったら移動するよ。といっても、一週間もかけないよ。二、三日で十分だと思う。その間、僕たちがいる宿まで村の最新の情報を随時届けてほしい」
「わかりました。若さま、どうかお気をつけて」
「わかった」
シャストラは、ひとまずグラハと宿に戻った。
「さて、どんな感じになってるかな?」
「さようでございますね。陛下の目が及ばないようになってから、だいぶ経ちますからね」
十年前にドラヴィダ王が不法にこの村を占拠して以来、この村の良質なルビーの原石は、全てドラヴィダ側へ流れていき、加工されてドラヴィダ産の輸出品とされてしまっていたのだ。
「ああ。ちゃんとしたルビーが出ているといいのだけど。もう無理かなあ?」
「どうですかねえ」
二人は採掘場の入り口で入場許可証を兵士に見せると、すんなり中へ入っていった。
採掘場は村の真ん中を流れる川を中心にして、上流の東側を東の採掘場とし、下流の西側を西の採掘場として分けられていた。
西の採掘場を見渡すと、まばらにしか人がいなかった。質の良いルビーは全て上流の採掘場である東側で取られてしまっている。
西側には三流レベルの原石しか流れてこないのだ。
その中でも真剣に採掘していそうな村人がいるところは、一カ所しかない。
「やっぱりこっち側は、ダメっぽいね」
「そのようですね。活気もないですし、質の良い物は上流で根こそぎ採掘されてしまって、下流のこちらには屑のようなルビーしか流れてこないのでしょうね」
「うん。想像通りだったね」
そういうシャストラの表情は、特に残念そうには見えない。こうなっていることは、わかっていたという感じだ。
「さて、どうするかな?」
「とりあえず私たちに手を振っている方のところに行ってみますか」
「そうだね」
採掘場の中心で二人に手を振っている老人がいた。
そのまままっすぐ老人の元に向かう。
「若さま、ようこそいらっしゃいました」
「久しぶりだね、じいや」
「マルガさま、お久しぶりにございます。お元気そうで何よりでございます」
「ふふふ。グラハ殿もお元気そうじゃ」
じいやと呼ばれた老人は、少々きつめに巻いたターバンを上に押し上げて、くぼんだ目を開けた。
「じいや、ここしばらくの間、何か変わったことはあった?」
「おおよそのことは、若さまの手の者にお伝えしておりましたが……」
そう言いながら、マルガは背後の川底に仕掛けた網型の筒の中を覗いた。
二人もそれを見下ろした。
「泥水でおわかりにならないかと思いますが、ルビーはもう西側の採掘場からはほとんど出ません」
「そうか」
「若さまが必要となさっている最上質のルビーを得るためには、やはり東側の採掘場に行かねばならないかと思います」
どうなさいますか? というように無言でマルガはシャストラを見上げた。
「やはり東に行かないとダメか……」
「しかし、我々の作戦からしても結局は東に行かねばならなかったのですから、二度手間にはなりませんけどね」
「そうだね」
「東に向かう手はずは整っております。奥方さまも心得ておられます」
「東側の村長とは?」
「話は通っております。元々、この村はダルシャナ王国だったのですから」
「そうですか。では、シャストラさま、明日にでも東側へ入国致しましょうか?」
「入国か。本当、嫌な言い方だね」
シャストラは、苦い顔をする。
「そうですね。しかし、それももうすぐですよ」
「さようにございます。若さま、もう少しの辛抱にございます」
「ああ、そうだね。でもグラハ、今晩は宿に戻らないと」
「はい。我々だけ東に行ってもクティーの力がなければ意味がありませんからね」
「そうだ」
「まさか若さま、かの一族の末裔が見つかったのでございますか?」
シャストラは頷いた。
「だから、予定通り僕たちの作戦が実行できるんだ」
「時間があれば、その者とゆっくりお話ししたいものですな」
「まあ、いずれ、ね」
「クティーが落ち着き次第、東側へ移動ですね」
「今夜一晩ですぐに移動って言っても、無理だろうからね」
「そうですよ。何と言ってもあの麓の町を初めて出てきた娘なのですからね。いきなり移動と言っても、なかなか心身ともに動けないでしょう。いかに自分が重要な役回りなのかも、いまいち理解していなさそうですし」
「仕方がないよ。命が狙われるってどういうことなのか、身に迫ったことが今までなかったんだし」
「はい」
「じゃあ、じいや、僕たちは宿に戻って連れが移動できる状態になったら移動するよ。といっても、一週間もかけないよ。二、三日で十分だと思う。その間、僕たちがいる宿まで村の最新の情報を随時届けてほしい」
「わかりました。若さま、どうかお気をつけて」
「わかった」
シャストラは、ひとまずグラハと宿に戻った。
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