尻凛 shiri 〜 がちむちゲイの短編小説集 〜

くまみ

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兄弟酒場 前編

居酒屋濱衛門

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 「いらっしゃいませ~!」

 客が暖簾のれんをくぐるたびに威勢の良い声が小さな店内に響き渡る。

 居酒屋濱衛門は店の作りは小さいが、繁華街の中心にあり、三十年の歴史と常連客も多く連日握っていた。

 「生ビールお待たせいたしました!ご注文どうぞ!」

 「おっ!たいちゃん、ありがとうなっ!今日のお勧めは何?」

 「はい、山田さん、いつもありがとうございます。今日のお勧めはカンパチのお造りになります!」

 「じゃあそれで!あとは唐揚げとシーザーサラダね!」

 「はいかしこまりました!」太助はオーダーを取り厨房に持って行く。

 「太助、了解!焼き鳥盛り合わせ上がったから持っていって!」

 「あいよ!源さん、ありがとう!」太助は料理を客のテーブルに運ぶ。

 父親が生きていた頃は、父親と源さんの最高のコラボで板場を回していたが、現在は源さんとアルバイト従業員が担当していた。

 源さんは63歳、居酒屋濱衛門に勤めてやっぱり30年くらいだろうか。

 元は名がある旅館の板場で働いていたが父親が源さんの料理の腕にれて、引き抜いたらしい。

 「源さんは良くこんな店に来てくれたものだ・・・」物心付く頃に、太助はそのような事を考えていた。

 忙しい飲食店の経営で母親はろくに食事の支度などはせず、源さんが作る賄い飯で太助も健作も育ったと言っても過言ではない。

 源さんの作る料理は一味も二味も違う、絶品だった。

 また、無口な父親に代わって褒められたり時には叱られたりと太助にとっては二人目の父親のような存在だった。

 実際に太助には父親が亡くなる事よりも、源さんがいなくなってしまう事の方が怖かった。

 「太助、カンパチの作りあがったぞ!」源さんの声が太助の元に届いた。

 「はい、源さん、ありがとう!」太助はカンパチの作りを持ってテーブルに運ぶ。

 「はい、お待たせしました、カンパチのお造りになります。生姜醤油がお勧めですがお好みでどうぞ!」

 「太ちゃんありがとうな!さすが源さん作る造りは見た目から一味違う!」常連客の山田は酔いも手伝ってか、声高らかに連れの前で絶賛する。

 「山田さん、いつもありがとうございます!」

 「また太ちゅんの接客も体つきもいい!ころケツなんてプリプリだろ!」山田は太助のケツを撫で撫でと触った。

 「あっ、ちょっと、山田さん・・・もう、そういうのはセクハラって言うんですよ!」太助はサラッと笑顔で返した。

 「すまんすまん、太ちゃんのケツは男でも惚れるいいケツだからさ!」

 「山田さん・・・それって褒めてます?」すかさず太助は返した。

 山田のテーブルで笑いが起こる。

 今のご時世、セクハラは男でも女でも御法度ごはっとであるが、なんとも昭和チックなノリの良さが居酒屋の雰囲気だった。

 もちろん、太助がケツを触られるのか嫌なら問題であるが、太助は全く気にしていなかった。

 「ありがとうございました!またいらしてください!」

 太助は最後の客を送りだし、店は閉店となった。

 板場では源さんとパート従業員が片付けをし、ホールでは太助と母親が片付けをする。

 「母ちゃん、もう先にあがんなよ、顔色悪いぞ!」太助は声を掛けた。

 「太助、じゃあそうさせてもらおうかな・・・」母親はエプロンを脱いで先に帰って行った。

 「あれだけ頑固な母親が、意図もすんなり帰るとは・・・やっぱり調子が悪いのかな・・・」太助は思った。

 太助はレジスターを開け、売り上げ計算をしながらふと時計を見ると0時近かった。

 「太助!疲れただろ!今日も混んだなぁ!」板場から源さんが賄い飯とビールを持ってきた。

 「源さん、まだ俺売り上げ計算が終わってないぞ!」

 「なんだ太助、遅ぇなぁ!先始めてるぞ!」

 営業が終わりひと時の楽しい時間。今日の賄い飯はカンパチ丼、太助も源さんもパート従業員も一緒に賄いを食らう。

 毎日の日課なので夜更かしせずに30分くらいで終わるように心掛けていた。

 「お疲れ様でした!」皆は帰り、最後に太助が店の戸締りをし店を出た。

 「明日は休みか・・・」太助の気分は上がる。

 今日は土曜日、ビジネス客がいない毎週日曜日は居酒屋濱衛門の定休日だった。

 「さて、今夜は・・・」太助の顔はニヤけるのだった。

 

 
 

 


 


 
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