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第十幕「銀の英雄」
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しおりを挟む籠中の鳥
イズナはそれからひたすら頑張った。ループの経験値があるとはいえ、到底元帥や大佐には及ばない。魔導機動を磨き、対人格闘を磨き、ひたすら修練に勤しんだ。わずか一年足らずで、次期元帥と目されるエルの右腕として違和感が無くなるほどには。
それでも。
「……まだ、まだ足りない」
イズナの追うものはもっと先にある。記憶に焼き付いている光景がある。
あれから考えた。どちらの方がループを終わらせることが出来るのか。どちらの方が効率的か。何度も考えて、けれど答えを出せなかった。
今のままじゃ大佐がいないとエドがアルベイル化出来ることが露見した時、処刑される確率の方が高い。不甲斐ないがそれだけ大佐の力は大きかった。
頼らないと決めた最強の背中。過去に憧れた元帥と大佐の絶対的な双翼。それに追いつくには、成り代わるなら、まだ、足りない。
「イズナ」
ハッとしてイズナは動きを止める。いけない、こんなんじゃ怪我をしてしまう。声をかけてくれた彼にお礼を言わなくては。
「お疲れ様です、ヴィンセント少佐」
「最近、妙に神経を尖らせているようだね。どうかしたかい?」
「それは……」
続けて、ありがとうございますとお礼を言う前に畳み掛けられた。けれど、あと一年で壁が破壊されるから、だとは到底言えなかった。
「最近の君は、無理をしすぎている。体調管理も軍士の務めだ」
そんなことはないと、言えなかった。現に今、あのままだったら怪我をしていたかもしれない。それが心から心配してくれるのだと分かるから、むしろ申し訳なくなった。
エルは、苦笑してイズナの頭に手を乗せる。
「君はとても優秀だ。優秀すぎるくらいに。もっと失敗してもいいんだ。そのために仲間がいる」
それではダメなんです。もう私はたくさん失敗したから。そのせいで、私たちが間違えたせいで、大勢が死んだから。とも言えなかった。
「少し、休みを取るといい。街に出かけて違う空気を吸うだけでも気分転換になる」
「そんなっ、……いえ、分かりました」
「落ち着いたら、戻ってきてくれ。君は大切な私の右腕だからね」
余り見せない茶目っ気で励ましてくれたのが、嬉しかった。
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