勇者召喚!大東亜戦記 ~辻正信子中佐と勇者中隊~

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その3:異世界勇者独立中隊編成!

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 軍刀に手をかけた辻正中佐。

 「まあ、そういうわけなんで……」
 地方人のような口のきき方であった。

 とにかく、五反田という大佐にイライラしているのだ。殺したい。ああ、殺したいと思う。
 理由の無い殺意がわいてくるのであった。
 辻正中佐の明晰な頭脳は思考する。
 おそらく、こいつは国賊である。
 結論がでた。
 完ぺきな結論。辻正中佐は己の無謬性に絶対の自信を持っていた。
 
 皇国陸軍の狂犬と呼ばれた女性将校。
 その明晰な頭脳は士官学校を首席で卒業した恩賜組である。

 しかも、軍人精神のなっていない高級将校には容赦しない。
 殺すことが御国のためである。
 
 鬼畜米英の次に殺意を覚えるのが、このような堕落した軍人なのである。
 
 「辻正中佐、これは大陸命である!」
 五反田大佐が言った。

 いきなり、軍人らしい言葉になった。
 軍刀に手をかけた辻正中佐に気づいたのだ。
 皇国陸軍は、その程度の危機に対応できない人間を大佐にはしないのであった。 
 
 「大陸命でありますか!」
 すっと殺意が消えた。
 頭の切り替えが早いのは辻正中佐の明晰さゆえだ。

 「そうだ。大本営陸軍部より大命が下った。命令書だ」
 命令書が渡される。
 
 「開封して読め」
 「読むのであります!」

 一気に読む。分厚い命令書を読む。
 彼女の明晰な頭脳は、500文字の情報を1秒で理解できる。
 忘れるのも早いが。

 辻正中佐は理解したのである。
 要するに、この西洋人のような奴らで特務部隊を編制。
 そして、不遜にもガダルカナルに上陸した米海兵隊を殲滅するということだ。

 所詮、鬼畜米英である。
 抜刀して突撃かませば、小便ちびってに逃げ出すのである。
 アーメンとかソーメンとか伴天連の祈りをささげて死ぬのである。
 ああ、殺したい。
 鬼畜米英を殺したい。

 どれくらいの鬼畜米英を殺せるのか?
 地獄をアングロサクソンで埋め尽くす。それくらい殺したいのである。
 自分の殺意を満足させるだけの数が揃っているのか?
 辻正中佐は思った。

 とにかく、辻正中佐の溢れる旺盛な愛国心。
 それに支えられた軍人精神の発露が殺意なのであった。
 鬼畜米英皆殺しこそが、皇国軍人の使命である。
 敵をぶち殺すのは、古来より軍人の役目だ。

 とりあえず、それが出来そうな命令なのでよかったのである。
 辻正中佐は、笑みを浮かべる。
 その美貌を隠すためにかけている、丸いメガネの奥――
 切れ長の目が妖しく光る。

 鬼畜米の輩を殺せるならば、とりあえず、このチンドン屋みたいな輩を使うのも仕方ない。
 大命であり、特務なのである。

 辻正中佐はこの異世界勇者とやらの一団を一瞥する。

 どうみても、中世ヨーロッパレベルである。
 近代総力戦、火力戦となった時代にこのような輩が通用するのか?
 考えた。

 思考は0.1秒。
 明晰な頭脳が結論を出す。
 有効である。

 所詮、鬼畜米英なのである。
 弱兵なのである。
 以上。

 完ぺきな回答であった。
 さすが、陸軍士官学校主席、恩師組であると自分でも感心してしまった。

 ロスケやポコペン以下であろうと推測した。
 フィリピンでも死ぬまで戦わない。
 炎天下を歩かせただけで、大量に死んでしまった。
 脆すぎる。
 それなら、最初から並べて首を切ってやるのが武士の情けであった。
 歩かせて殺すよりはいい。

 辻正中佐は「捕虜」など認めないのである。
 戦争は死ぬまで戦うべきだと考えている。
 その覚悟が無い、鬼畜米英は弱い。
 辻正中佐は、完ぺきといっていい戦力分析であると自分で感心する。

 とにかくだ。軍人は命令には従わなければばならない。
 辻正中佐は、都合のいい命令に対しては結構よく従うのだ。
 自分が気に入らない命令は、命令を出す輩の軍人精神がなっていないからだ。
 そのような命令は破って捨てるのである。そして暴れる。軍刀を抜く。
 暴れれば、たいていは自分の思い通りになる。今までもそうであったし、これかもそうであろう。 

 いざとなれば、命令は自分で作ればいい。
 自分の信ずるところが正義であり、愛国心であり、皇国のためなのである。

 「独断専行」美しい日本語であった。
 辻正中佐の座右の銘の一つである。  

 辻正中佐は、常に自分が正しいと確信している。
 これは信念であり、ドグマと化している。

 「では、鬼畜米英に目に物を見せてやるのであります!」
 辻正中佐は言った。

 「あ~、んで、俺らは、なにすればいいの? 魔王か? この世界の魔王討伐か?」

 勇者ネギトロと言われた男が言った。
 肩にでかい剣を乗っけて、不遜な態度をとっている。
 西洋人の顔でこの態度。
 気にいらない。辻正中佐は、殺意を覚えた。
 しかし、それを抑え込む。
 なんにせよ味方だ。こいつはドイツ人だと思い込むことにした。

 辻正中佐は、思い込みが強いので、本当にドイツ人に見えてきた。
 明晰な頭脳であった。

 「この者ども階級は?」
 辻正中佐は言った。

 「ああ、一応、勇者ネギトロが軍曹、戦士ウーニ、魔法使いシラウオ、僧侶イクーラが、1等兵だな」
 大崎大佐が言った。

 「では、これが分隊ということですな」
 「まあ、人数からすればそんなもんか」

 ちなみに、便宜上「独立中隊」となっているが、兵員はこれだけである。

 特務だからだ。
 勇者中隊は、「独立中隊―第一小隊―第一分隊」という構成である。
 第二~第三小隊は欠である。
 辻正中佐は、いい加減な編成だと思ったが、殺意が湧くほどではなかった。
 人数が少ない方が独断専行し放題である。
 しかも、上層組織が無く、大本営直轄の中隊なのである。
 
 「通常、中隊は大尉あたりが長になるが、このような特殊部隊だからな。貴官に任せるしかないのだ」
 大崎大佐が言った。
 
 確かに、こんな異様な輩を戦力化して、鬼畜米英を蹂躙できるのは、自分くらいなんものであろう。
 辻正中佐は確信した。その確信は正しい。なぜなら、自分がそう思ったからである。

 「ああ~なんすか? 軍曹って?」
 勇者ネギトロが言った。
 なんだ?このドイツ人は?
 ドイツ人は軍曹も知らぬのか? 殺意を覚えた。
 もうすでに、辻正中佐の明晰な頭脳の中では勇者ネギトロはドイツ人ということになっていた。
 
 「とにかく、お前たちの命は自分が預かった」
 辻正中佐は言った。
 コイツらが部下なのだ。
 コイツらを使って鬼畜米英を血祭りに上げるのだ。
 チョロイ仕事だと思ったのである。
 
 こんなチンドン屋みたいな輩を使って、勝てば、いくら惰弱な鬼畜米英相手とはいえ勲章ものであろう。
 ちなみに、ガダルカナルに上陸した敵戦力の見積もりは2000人となっていた。
 これはロスケの情報であった。
 2000人であれば、一人400人殺せばいい。鬼畜米英相手なら楽勝だろう。

        ◇◇◇◇◇◇

 ウォッチタワー作戦。
 そのように命名されたツラギ、およびガダルカナル攻略作戦は、米軍にとっても厳しい物であった。
 シューストリングス(靴ひも)作戦と陰で呼ばれる作戦であり、物資はカスカスであった。
 実際には靴ひもさえ無いと言われることになる。

 ただ、それは米国という強力な生産力を誇る国を基準としての話であった。

 民主主義国家VS全体主義国家という区分けで語られることが多い先の大戦である。
 しかし、それは表層的な見方である。

 第一次世界大戦後明らかになった戦争の様相、総力戦体制に向け作り上げられた国家システムという意味では根っこは同じである。
 マスコミの報道管制の徹底さなど、むしろ日本よりも米国の方が徹底していたくらいである。
 もし、「軍国主義」というものがあるならば、当時のアメリカはそれにふさわしい国家であった。

 物資が不足するという米国の感覚は、ヘビー級ボクサーがジャブしか出せないというようなものだ。それは同じヘビー級なら致命的だ。
 ただ、対戦相手はミドル級以下であればどうか?
 乱暴な言い方かもしれないが、ウォッチタワー作戦とは、日米双方の見方が全く異なるものであった。

 ガダルカナル島の攻略は米軍にとっても計算外のことであった。

 皇国海軍、第四艦隊が独断でガダルカナルに飛行場を建設。このあたりは、現地の独自判断で許される範囲内であるかどうか、後世でも意見の分かれるところである。
 ただ、空母部隊がインド洋に派遣され、基地航空隊主体の作戦を強いられることになった同艦隊首脳にも同情の余地はあった。
 
 ソロモン方面をがら空きにするというのは、非常に危険であったことは事実なのだ。

 しかし、空母は無いのである。基地航空隊に頼るしかない。 
 それは分かる。
 
 ただ、なぜラバウルから1000キロも離れたガダルカナルであったのか。
 
 一つには設営能力の低さゆえ、多くの飛行場を作れないという事情。
 更には、海軍機のカタログ上の航続力を過信したというものもあるだろう。

 いずれにせよ。
 この方面の陸上戦力は、米軍の靴ひもさえ無い作戦ですらひとたまりも無かった。

 そして、海軍は陸軍に協力を要請するが、作戦の重心はすでに重慶攻略とインド洋に移っている。
 陸軍とすれば、「オタクが下手なことするからアイツら来たんだろ?」と言いたいくらいなのだ。
 そして、実際にまわせる戦力も機材も陸軍に無なかった。

 ただ、海軍との協力を一方的に断るのはどうかとする意見も陸軍内あった。
 後世のイメージとは異なり、組織が大きい分、海軍よりも多様な意見があったのはむしろ陸軍であった。

 そして、彼らが送り込まれるのである。

 米国海兵隊を地獄の底へ叩きこむ陸軍部隊。
 辻正中佐率いる特殊部隊。

 異世界勇者独立中隊であった。
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