勇者召喚!大東亜戦記 ~辻正信子中佐と勇者中隊~

中七七三

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その2:異世界勇者召喚!陸軍・登戸研究所

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 「ほう、狂犬と聞いていたが――」
 同行する大佐が口を開いた。

 「はい」
 「はは、ずいぶんと別嬪(べっぴん)な狂犬だね」
 「お恥ずかしい限りであります 大佐殿」

 また容姿のことを言われた。
 辻正信子中佐はうんざりした気持ちとなった。

 同時に殺意もわく。
 ジリジリとした熾火のような殺意。
 それはまだ小さい。

 辻正信子中佐は超絶美貌の持ち主であった。
 あまりに美しすぎ、整った顔。
 男相手に女性であることを必要以上に意識させてしまう妖艶すぎる姿。
 皇国陸軍の美し狂犬、辻正信子中佐である。
 
 明治帝が女性であったため、皇国日本では女性が軍に迎え入れられている。
 伝統的に「女武者」が受け入れた文化的背景もあった。

 その中でも、辻正中佐は逸材であった。
 士官学校主席卒業。恩賜組である。
 戦場では、縦横無尽の働きをみせ、20代で中佐という驚異の出世をしている。

 しかし、彼女は自分の美貌を疎ましく思っていたのだ。

 そのため、コンパスで描いたようなしゃれっ気の無い、伊達メガネをかけている。
 度は全く入っていない。
 目はいいのだ。本気で空を見つめると、昼間でも星が見えるほどである。

 「中佐は、南方で大活躍だったそうだね~」
 「はい」
 
 事実であった。
 マレー作戦、フィリピン作戦にいて、作戦の立案から戦闘部隊の指揮まで縦横無尽の大活躍をしていた。

 鬼畜米英は殺す。どんどん殺す。殲滅するのである。
 その思いで、戦ってきた。
 彼女の軍刀の錆になった、鬼畜米英は4ケタを超える。

 そして、彼女が敵以上に許さないのは惰弱な味方。
 特に堕落した高級将校である。
 臆病な軍人にも殺意を覚える。

 このような国賊は見つけ次第、殺すと心に誓っている。
 それが、軍人としての陛下への忠節と理解していた。

 堕落した高級軍人は、経理を徹底的に調べ上げ叩き潰す。
 料亭に殴り込みをかけ潰した。燃やした。刀の錆びであった。
 当然だと思っている。
 軍事とは質素であるべきであるのだ、遊興にふけるなど堕落である。
 
 彼女はそんな自分の正義感が大好きなのだ。
 これからも、こうやって生きて行くと思っている。

 辻正中佐は隣に座る大佐を見た。

 「五反田大佐、今回の特別任務とはなんでありますか?」
 「うむ、特別な任務だ。中佐にしか任せられぬ」

 五反田という大佐は言った。
 辻正中佐は、なんとなく好きになれなかった。
 許しが出たなら、軍刀の錆にしたいと思った。

 2人が乗っている車は東京市の西の奥にある某所に向かっている。
 車は中止となった東京オリンピック前に官民協力体制で開発された「標準車」である。
 あまりスプリングはよくない。
 尻が痛くなってくる。
 舗装されていない道をこれで走っている。
 関東ローム層特有の土埃が舞い上がり、体がホコリっぽくなってくる。
 
 道路などのインフラは整備されていない。
 大陸での事変の影響で、中止されたオリンピック。そのため、皇国のモタリゼーションは未熟なままである。

 だが、それでいい。
 辻正信子中佐は思う。
 軍事利用以外の車など、バスで十分。
 乗用車など、皇国臣民として堕落の極みであると考える。
 
 五反田大佐は色々訊いてくる。
 それに適当に答える辻正信子中佐。
 無礼にならない程度のものだ。

 だんだん、殺意湧いてきた。
 
 辻正信中佐は、日米戦の真っただ中にこのような奴と同じ空間にいるのが耐えられなかった。
 戦局は今も風雲急を告げているのだ。

 要はクソ海軍のせいである。
 あのアホウの海軍が、ソロモンの聞いたことも無いような島に、余計な基地を作った。
 結果、米軍が大挙としてやってきた。

 彼女は海軍をアホウであると思っている。
 海軍の軍事教育はアホウを養成するだけではないかと思う。
 奴らには攻勢終末点という考えが無いのだ。

 補給の完結した「軍艦」に乗って移動しているからボケるのである。
 海軍の軍艦は全て、鉄源の無駄遣いである。

 「くそが!! お前らがばかりが、鉄使いやがてぇぇ!」

 思わず叫ぶ辻正中佐。

 「なに? 中佐?」

 「海軍を殺したくなったのであります。殺したのであります」

 海軍を全部殺して、陸軍に吸収したい。
 辻正中佐の夢であった。

 鉄無駄遣いのアホウ海軍が自分の不始末の尻拭いを陸軍に泣きついてきたのだ。
  
 軍刀に手がいきかかる。
 抜きたい衝動を抑え込む。

 あらゆるものに対する殺意がわいてくる。
 生きとし生ける者全てに、絶望と死を与えたくなる。

 プルプルと手が震える。 

 ああ、敵を殺したい――
 早く前線に出て鬼畜米英を殺しまくりたい。
 それが、何の因果でこんな場所で、尻の痛い思いをしているのか?
 あのまま、フィリピンにいれば、ゲリラを殺しまくる楽しい日々であったのだ。
 
 ああ、殺したい。もう、誰でもいいから殺したい。だって軍人だもの。
 このパンパンになった殺意を一気に解放。
 目の前の弛んだ大佐を切って捨てれば、どんなに爽快かと思う。
 自分は、絶頂のあまりイッてしまうのではないか?
 そんな、ことまで考えてしまう。

 しかし、彼女の内部の殺意と葛藤とは関係なく車は進む。
 やがて、目的の場所に到着した。

 煉瓦作りのしっかりした建物だ。そうとうに国税をつぎ込んだのだろう。
 もし、くだらないことをやっているなら、叩き潰そうと心に決めた。
 辻正信子中佐は心に決めたことは、ほぼ実行に移す。
 狂犬のあだ名は伊達ではない。

 門には「皇国陸軍第二超電波研究所」とある。
 まあ、当然秘匿名だろうと考えた。
 「超電波」など聞いたことも無いと彼女は思った。

 電波でも当てて、敵兵を殺せるなら楽なものだ。
 そんな兵器が開発できるとは思えない。
 また、出来たとしても今の戦には間に合わないだろうと思う。

 車を降りて建物に入る。しっかりした作りの建物である。
 職員らしき人物が出迎えた。
 軍組織でありながら、地方人(民間人)のような雰囲気があった。
 背広姿だからだろうか?

 コイツに対しても言い知れぬ殺意が湧いてくる。
 
 「皇国陸軍登戸研究所・所長の大崎大佐です」
 その男は敬礼をして、名乗った。
 彼女は、弛んだ敬礼だと思った。
 軍人精神を微塵も感じさせない話し方だ。
 こいつは地方人なのかと思った。
 
 軍刀に手がいきかけるのを抑え込み返礼する。

 「辻正信子中佐であります」
 彼女は言った。

 「では、行こう」
 大崎と名乗った大佐は言った。

 「いやぁ、何度来ても立派な施設だねぇ」
 気楽な感じで五反田大佐が言った。
 なぜか、コイツの言葉を聞くだけでイライラする。

 案内されたのは建物の地下であった。
 その部屋には、辻正信子中佐、五反田大佐、大崎大佐、それに兵が2名が入った。

 かなり大きな部屋だ。
 床に、変な丸い模様が描かれている。
 複雑な文様だ。

 ここまで来ても、自分がなんのために呼ばれたのか、辻正信子中佐には分からなかった。
 こんなとこで、分けの分からない研究に付き合うのはごめんだった。
 そんなことより、早く前線に出て敵を殺したいのである。

 数人の研究員らしき職員があわただしく動いている。 

 「大佐殿、なんですかこれは?」
 辻正信子中佐は訊いた。

 「召喚の魔法陣だ――」
 「なにそれ?」

 思わず地方人のような言葉が出てしまった。
 まずい。
 しかし、自分の失態はすぐに忘れることにしている。
 彼女の明晰な頭脳は忘却も早い。

 しかし、「召喚の魔法陣」とはなにか?
 士官学校を首席で卒業し、恩師組である辻正信子中佐は、自分の知らないことを相手が言うのは嫌いだった。

 殺意が湧いてくる。
 軍刀に手が行きかかるのをこらえる。

 「異世界から勇者を召喚するための装置だよ」
 大崎大佐は言った。
 
 「異世界でありますか?」
 辻正信子中佐は訳が分からなくなった。
 コイツは狂ってるのではないかと思ったのである。

 殺意が湧いてきた。
 斬って捨てた方がいいのではないかと思った。

 「そう異世界だ。この皇国のある遊星とは違う宇宙。全く違う世界だ」
 「そうでありますか」
 
 辻正信子は士官学校主席卒業。明晰な頭脳の持ち主である。
 その頭脳は、暗算で3次元機動する航空機への射撃緒元を叩きだすことすらできるのだ。
 その明晰な頭脳は回答を叩きだす。
 
 コイツは狂っている。

 またしても、殺意が湧いてくる。
 軍刀に手がかかった。
 この戦時になにをやっているのか?
 殺そう。今殺すことが御国のためであるという結論を叩きだした。

 しかし、その決心をはぐらかすように、大崎大佐は話を続けた。

 「そうだ。異世界だ。そこでは魔法というものがある」
 「魔法でありますか」

 彼女は、魔法ではなく、こいつはアホウだと思った。
 ただ、もう少し話を聞いてもいいかと思い直した。
 あまりに意味不明だったためだ。

 「そうだ! そして、皇国陸軍・登戸研究所は、その異世界から勇者を召喚することに成功した!」
 バーンと胸を張って言い切る大崎大佐。
 
 「勇者でありますか」
 「そうだ勇者だ!」
 
 辻正信子中佐の殺意が固形物のように形をなしてきた。
 限界点を突破しようとしている。
 軍刀を握った手に力が入る。

 「君に勇者を見せよう――」
 大崎大佐の声に、手の力が緩む。

 勇者?
 異世界から来たという勇者。
 そんなものがいるというなら、見せてもらいたいものだと思った。
 彼女は、この大崎という大佐が、士官学校主席、恩師組の自分をアホウ扱いしているのではないかと思った。
 
 メガネの奥の切れ長の目が、大崎大佐を真正面から見た。

 「ああ、勇者ねぇ、私も見たいね」
 五反田大佐が言った。
 コイツはなんなのだ?

 「では、見せよう! 異世界勇者召喚装置起動!」
 「復唱! 異世界勇者召喚装置起動!」
 職員らしきものが言った。

 少しは軍人らしい雰囲気なったので、多少気持ちが落ち着いてきた。

 辻正信子中佐の目の前で魔法陣が青く輝いた。
 
 「なんでありますか!」
 「装置起動だ! これで、異世界から勇者を召喚する。すでに我々は召喚に5回、成功している」
 
 魔法陣から立ち上がる光りの中にかすかに人影が見える。
 おそらく4人だ。
 
 徐々に光が終息する。

 「おお!」
 辻正信子中佐は思わず声を上げてしまった。
 まるで地方人のようだ。
 まずい、軍人とはいついかなる時も冷静でなければならない。
 だが、その反省の心は明晰な頭脳が即消してくれる。
 
 「ああ~? またアナタたちですかぁ?」
 魔法陣で呼び出された男が言った。

 なんだろうか?
 中世のヨーロッパの鎧のようなものを身に着けた男だ。
 しかも、皇国臣民には見えない。
 完全に、その外見は鬼畜米英の敵である。

 辻正信子中佐の心に殺意が湧いてくる。

 軍刀に手をかけた。
 
 「きえぇっぇぇ!!!!」
 裂ぱくの気合いで斬り込む辻正信子中佐。

 彼女は、女の身であるが、陸軍戸山学校の剣術教官を袋叩きにしたことのある腕前である。
 この教官は、女である彼女をバカにしたのである。
 それは、彼女にとって最大の地雷であった。
 その不幸な教官は今は半身不随で予備役となっている。

 「なんだこいつ!」
 その男は、狂犬・辻正信子中佐の殺人剣を諸刃の剣で受け止めた。

 「中佐! やめるんだ!」
 大崎大佐が後ろから辻正信子中佐を羽交い絞めにする。

 暴れる辻正信子中佐。
 「死すべし! 鬼畜米英!!」

 大崎大佐が宙を舞った。
 徒手の戦いにおいても辻正信子中佐は無敵であった。今までに敗北したことがない。
 その戦いの相手には、空手、柔道高段者、相撲取りなどがいる。
 全員、病院送りになっている。
 
 「中佐殿! それは鬼畜米英ではありません!」
 職員の1人が叫んだ。

 その叫び声に軍人精神を感じた彼女は動きを止めた。
 基本的に、彼女は上に対して容赦なく牙をむくが、兵、下士官に対しては優しい面があった。
 地雷を踏んだら別であるが。

 「鬼畜米英ではない?」
 「それは、異世界の勇者であります! ドイツ人だって同じあります!」

 辻正信子は、なるほどと思った。白人すべてが鬼畜米英ではない。
 盟友ドイツのゲルマン民族も白人であった。

 「では、この者はドイツ人なのか?」
 辻正信子中佐は言った。

 「はい! 違うのであります!」
 軍人精神のこもった答えであった。

 「おいおい、なんだよぉ~、いきなり呼び出して切りつけるとか、ねぇーだろ? 殺すぞ? おい?」
 西洋人のような顔の男だが、日本語を話した。
 辻正信子の一撃を防いだ男である。
 
 「勇者ネギトロ―― 一応、話を聞いた方がいい」
 銀色の髪をした女が言った。
 眠そうな目をした女だった。
 辻正信子中佐は精神が弛んでいるのではないかと思った。

 「しかし、これで6回目だろ? 何回も召喚して、いったい何の用事なんだ?」
 辻正信子中佐は殺意がわいた。
 なんという破廉恥な格好をした女だと思ったのだ。
 鉄でできたような乳バンドと腰巻一丁の格好である。
 銃殺レベルの破廉恥さである。

 「まあ、自分らの世界も暇になったし、条件によってはいいんじゃないの?」
 黒づくめの服を着た女が言った。
 条件とはなんなのか?
 自分の知らないことを言ったので、辻正信子中佐は殺意を抱いた。

 「おおお、さすが狂犬だね。イタタタ……」 
 腰を押さえながら、立ち上がる大崎大佐。

 「なんでありますか、こいつらは? 皇国臣民には見えませんが?」
 もしかして、こいつらは第五列ではないかとも思った。
 斬るか?
 明晰な頭脳が回転する。


 「彼らは、勇者とその仲間だ」
 大崎大佐は言った。
 
 それは、さっき言っていたことだ。説明も訊いた。
 で、問題はこれから、自分が何をするのかということだ。
 彼女は、変なことを言ったら斬ろうと思ったのである。

 「あ~、それね。辻正中佐」
 五反田大佐が口を開いた。
 辻正信子中佐は「斬るか?」と思った

 「これから、貴官はこの勇者中隊の指揮官として、ガダルカナルに向かってもらうのだ」
 五反田大佐が言ったのであった。
 殺意が固形化した。
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