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蒼の魔法士-本編-
Seg 53 遇う者たちの生業 -04-
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現場と言っても、規制線が張られていたり通行止めになっているわけでなく、街通りは人で賑わっていた。
やけに煌めいて見える快晴の空の下、颯爽と歩く緇井は目立っていた。
「所長、目立ってます」
「いつもの事だ、問題ない」
「ミサギ君のグラサンも効果は順調だね」
「そのようだね」
ミサギの顔には、アスカから貰った丸いフレームのサングラスがかけられている。
かけた者の存在を薄めたり、隠してしまうということらしいのだが、効果は絶大であった。
すれ違う通行人はみな見向きもせず、というより気付く事なく通り過ぎる。
ユウやみっちゃんのように、最初からミサギを認識している者には効果がなく、当然例外もあるが、対処できる範囲であった。
おかげで失神騒ぎもなく、彼の姿は完全に街の風景に溶け込んでいた。
「……女の人がいない」
「ていうか、平日なのにやけに人が多いね」
辺りを見回す一同。
スマホで自撮りをする人、男モノの服を楽しそうに選ぶ人、ナンパ目的で声をかけるチャラい若者――どこを見ても男性だらけである。
それらに紛れて、女性もちらほらといるのだが、どことなく違和感があった。
「まさか、これ全部被害者なんか?」
みっちゃんの驚きに、緇井は溜め息をついた。
「そのまさかだ。しかも、イケメンなものだから、嘆くどころか喜ぶ者が続出して……」
一同は、イケメンだらけとなった光景を眺める。
街の隙間から覗く青い空は、羊が群がるが如く積乱雲がモコモコとのぼっていた。
ミサギはふと空を見上げ、
「……積乱雲……南南西の空……」
緇井の資料に、落雷のあった日時や空の様子まで事細かく書かれていたのを思い出す。
「今、何時だい?」
「えっと、十四時ッスね」
即座に吉之丸が確認する。
「緇井さんの資料だと、落雷は全て日昳の頃と記してあった。それって、この時間帯じゃないのかい?」
「ああそうだ。すまない、書き方が古臭くて」
「けど、それがわかったところで何だっていうんですか?」
吉之丸がかみつくように言う。ミサギは見下して彼を見る。
「物事は、天の時、地の利、人の和で成されるもの。緇井さんの助手なら常識でしょ」
と、満面の笑みを見せた。
◆ ◆ ◆
上空約一万メートル。
ここはもはや航空機の領域である。
だが、氷点下に達する空気も一瞬で飛ばされてしまう強風も、魔法で結界を結ぶ彼らには無縁だった。
二人は、飛行機のコックピットの天井部分に立っていた。もちろん、飛行機の外だ。
一人は少年で、飛行機に何かを小さく書き込んでいる。
もう一人は、少年と同年代の少女だ。
少女がおもむろに立ち上がり、薄く染めた髪をそよ風になびかせ、両腕を広げ叫んだ。
「アーイム、フライーング! ジャーック!」
「やめろ危ないだろライセ! そして何のモノマネだ!?」
ライセと呼ばれた少女はいたずらっぽく笑う。
「こないだ見た映画よ! アタシこのシーン大好きなの!」
「だからって、飛んでる飛行機の上でやるコトじゃねーだろっ!」
「なによう、ちょっとくらいノッてくれたっていいぢゃない」
ライセは口をとがらせる。
「もぉ、つまんなぁ~い! さっさと終わらせようよ、ゼン!」
「最初からそのつもりだよ」
少年――ゼンは、最後の仕上げにと円をグルグルと書き込む。
「よしっ、できた!」
「え? それ、なぁに?」
「おま……前に教わっただろ、特定の場所で使えって。飛んでる飛行機の上でこんなコトできるのオレらだけだなんだぞ」
「……お、憶えてるわよ! そうよね、アタシたちだけなのよね」
一瞬の間をゼンは見逃さなかった。彼女を見ればわかる。完全に忘れてた顔だ。
毎度の事で呆れて溜め息しか出なかった。
「ああもう、なんかメンドくなってきた……。
とりあえず、石をここに置いて……と」
ゴソゴソとポケットを探り、小石ほどの赤い宝石をとりだす。
粗削りの丸い玉――アヤカシの『目』だ。
一握りある量のそれを日昳と書いた側にある梵字の上へ置く。
すると、文字が石の中へと吸い込まれたではないか。
赤く煌めく中でゆっくりと動く梵字は、ずっと眺めていたい気持ちにさせる。が、ゼンは文字が全ての『目』に入ったのを確認すると、ライセへ投げ渡す。
「ほいライセ、砕いて」
「まっかせて!」
受け取った小石たちを、彼女の華奢な掌はいとも簡単に粉砕した。
「……相変わらずスゲー握力……」
いくつもの石を一気に粉微塵にした片手は広げると、あっという間に強風で煽られ、眼下に広がる雲へと散っていく。
「この程度、お茶漬けサイコロよ♪」
「その握力になる栄養を、も少し頭にまわせねーかな?」
「う……ちゃ、ちゃんと少しは回してるわよ! ほら、いーから、早く確認しにいきましょーよ!
今日こそ、愛しい蒼の君に会えるかもしれないでしょ♪」
ライセは恋する乙女の瞳を輝かせて飛行機から飛び降りた。
「やめとけばいいのに……どーせまた、勢い余って殺しちゃうんだし」
ゼンは虚しさを込めて溜め息をこぼし、後を追った。
やけに煌めいて見える快晴の空の下、颯爽と歩く緇井は目立っていた。
「所長、目立ってます」
「いつもの事だ、問題ない」
「ミサギ君のグラサンも効果は順調だね」
「そのようだね」
ミサギの顔には、アスカから貰った丸いフレームのサングラスがかけられている。
かけた者の存在を薄めたり、隠してしまうということらしいのだが、効果は絶大であった。
すれ違う通行人はみな見向きもせず、というより気付く事なく通り過ぎる。
ユウやみっちゃんのように、最初からミサギを認識している者には効果がなく、当然例外もあるが、対処できる範囲であった。
おかげで失神騒ぎもなく、彼の姿は完全に街の風景に溶け込んでいた。
「……女の人がいない」
「ていうか、平日なのにやけに人が多いね」
辺りを見回す一同。
スマホで自撮りをする人、男モノの服を楽しそうに選ぶ人、ナンパ目的で声をかけるチャラい若者――どこを見ても男性だらけである。
それらに紛れて、女性もちらほらといるのだが、どことなく違和感があった。
「まさか、これ全部被害者なんか?」
みっちゃんの驚きに、緇井は溜め息をついた。
「そのまさかだ。しかも、イケメンなものだから、嘆くどころか喜ぶ者が続出して……」
一同は、イケメンだらけとなった光景を眺める。
街の隙間から覗く青い空は、羊が群がるが如く積乱雲がモコモコとのぼっていた。
ミサギはふと空を見上げ、
「……積乱雲……南南西の空……」
緇井の資料に、落雷のあった日時や空の様子まで事細かく書かれていたのを思い出す。
「今、何時だい?」
「えっと、十四時ッスね」
即座に吉之丸が確認する。
「緇井さんの資料だと、落雷は全て日昳の頃と記してあった。それって、この時間帯じゃないのかい?」
「ああそうだ。すまない、書き方が古臭くて」
「けど、それがわかったところで何だっていうんですか?」
吉之丸がかみつくように言う。ミサギは見下して彼を見る。
「物事は、天の時、地の利、人の和で成されるもの。緇井さんの助手なら常識でしょ」
と、満面の笑みを見せた。
◆ ◆ ◆
上空約一万メートル。
ここはもはや航空機の領域である。
だが、氷点下に達する空気も一瞬で飛ばされてしまう強風も、魔法で結界を結ぶ彼らには無縁だった。
二人は、飛行機のコックピットの天井部分に立っていた。もちろん、飛行機の外だ。
一人は少年で、飛行機に何かを小さく書き込んでいる。
もう一人は、少年と同年代の少女だ。
少女がおもむろに立ち上がり、薄く染めた髪をそよ風になびかせ、両腕を広げ叫んだ。
「アーイム、フライーング! ジャーック!」
「やめろ危ないだろライセ! そして何のモノマネだ!?」
ライセと呼ばれた少女はいたずらっぽく笑う。
「こないだ見た映画よ! アタシこのシーン大好きなの!」
「だからって、飛んでる飛行機の上でやるコトじゃねーだろっ!」
「なによう、ちょっとくらいノッてくれたっていいぢゃない」
ライセは口をとがらせる。
「もぉ、つまんなぁ~い! さっさと終わらせようよ、ゼン!」
「最初からそのつもりだよ」
少年――ゼンは、最後の仕上げにと円をグルグルと書き込む。
「よしっ、できた!」
「え? それ、なぁに?」
「おま……前に教わっただろ、特定の場所で使えって。飛んでる飛行機の上でこんなコトできるのオレらだけだなんだぞ」
「……お、憶えてるわよ! そうよね、アタシたちだけなのよね」
一瞬の間をゼンは見逃さなかった。彼女を見ればわかる。完全に忘れてた顔だ。
毎度の事で呆れて溜め息しか出なかった。
「ああもう、なんかメンドくなってきた……。
とりあえず、石をここに置いて……と」
ゴソゴソとポケットを探り、小石ほどの赤い宝石をとりだす。
粗削りの丸い玉――アヤカシの『目』だ。
一握りある量のそれを日昳と書いた側にある梵字の上へ置く。
すると、文字が石の中へと吸い込まれたではないか。
赤く煌めく中でゆっくりと動く梵字は、ずっと眺めていたい気持ちにさせる。が、ゼンは文字が全ての『目』に入ったのを確認すると、ライセへ投げ渡す。
「ほいライセ、砕いて」
「まっかせて!」
受け取った小石たちを、彼女の華奢な掌はいとも簡単に粉砕した。
「……相変わらずスゲー握力……」
いくつもの石を一気に粉微塵にした片手は広げると、あっという間に強風で煽られ、眼下に広がる雲へと散っていく。
「この程度、お茶漬けサイコロよ♪」
「その握力になる栄養を、も少し頭にまわせねーかな?」
「う……ちゃ、ちゃんと少しは回してるわよ! ほら、いーから、早く確認しにいきましょーよ!
今日こそ、愛しい蒼の君に会えるかもしれないでしょ♪」
ライセは恋する乙女の瞳を輝かせて飛行機から飛び降りた。
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