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蒼の魔法士-本編-
Seg 54 封印、そして…… -01-
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一行が向かったのは、現場の街から離れた小高い山であった。木々が生い茂る中、ぽっかりと空いた広場のような場所に、ミサギは案内する。
「こんなところに来て、何があるんです?」
吉之丸が訝しげに問う。
「周りを見て気付かないかい?」
ミサギに言われて、思わず見回す一同。だが、何も無い。
「見て気付けって言われても、何も……」
そう、何も無いのだ。ただ辺りは視界が白く、呼吸も重く湿っているだけだ。
「真っ白やな」
「霧? 靄?」
「そう見える?」
意外にも、真面目なトーンで聞き返したのはアスカだ。仮想キーボードに素早く指を走らせ何かを入力している。かと思えば、試験管をポーチから取り出して視界を遮る白い霧を採取し始めた。
「どういう事やねん?」
一同が惑う中、アスカはミサギと視線を交わし、彼は木戸へと視線をあげる。
それだけで指示は十分だった。木戸は、懐からスマホを出して皆に見えるように見せた。
画面に映っていたのは、気象予報AIとして人気を博しているクテンだった。
「はぁーい、クテンです♪ この地域のお天気を――」
「あ、お天気AIのクテンちゃんだ」
「天気?」
彼女の能天気なアナウンスに、吉之丸が手を振る。手を振り返す彼女を見て緇井は考え込み、みっちゃんは渾身のツッコミを叫ぶ。
「お天気AI見せとる場合かぁああああ!」
「黙って聞け」
「~~~~~!」
ミサギの言霊がねじ伏せた。
「本日のお天気は晴れだけど、ちょっぴり曇りがち。地上は冷たい風が吹いて少し寒いですが、大気の状態は安定しています」
「……もしかして、先ほどの雲は積乱雲ではないのか……!?」
気付いた緇井が呟く。
画面ではクテンがにこにこ笑顔で天気案内を続けている。
「そう。そもそも、積乱雲てのは、大気が不安定な特定の条件下でないと発生しないんだ。でも、こうして漂っている。これがなんだかわかる? ねえ、須奈媛博士?」
「へぁい!?」
ミサギに博士と呼ばれて、背筋が総毛立ったらしい。思わず裏返った返事をしてしまっている。
「あ、ああ……魔力が水蒸気のようになっているね」
「魔力!? じゃあ、これは魔法なのか?
アヤカシが落雷をさせて事件を起こしていたのではなかったのか?」
丸いサングラスをかけて、周囲の雲をくまなく観察したアスカは、緇井の問いに首を振る。
「アヤカシかどうかも、これだけじゃ断定できないよ。ただ、魔法ではない。魔力が水蒸気になってただ浮遊しているだけ……って、言ったらわかるかな?」
「え? 魔力って、その辺に漂うものなのか?」
と、これは吉之丸。
「魔力が可視化できるほど密集するとは……!」
「さあ? 申し訳ないけどよくわからないな」
アスカの言い方に、吉之丸はカチンときたらしい。
「なんか無責任ッスね」
「そりゃ仕方ないよ。魔力魔法アヤカシに関して、この国は新興国ではあるけど、まだまだ遅れている部分が多いんだ。付け加えて、ここ最近急増化の被害。
過去の文献が乏しいうえに解読も進んでない。だから現場に行って、手探りでも現状を解決しなけりゃならないんだ」
そう言うと、彼は真剣な表情で話を続けた。
「いいかい? 僕らはアヤカシという未知で不確定で不安しかない存在からこの国を守るために、ひいては未来のために、この研究をしているんだ。
君に少しでも魔法士という自覚があるなら手伝ってくれないか?」
強い語気に、広場は静まり返る。
「ボク、てつらいまぁすっ!」
沈黙を破って、ユウが元気よく手を挙げる。
何故か、呂律が回っていない。
「アヤカシろか、アリャミタラろか、ボクがえいえ~いってやっつけろから~」
「え? ユウどん……? なんや、酔っぱらってへんか?」
フラフラと千鳥足のユウを支えようと駆け寄るが、その手はスルリと躱される。
「ミシャギしゃんっ!」
彼の腰元にギュッと抱きつく。
ぎゃあと、木戸とミサギ以外全員が驚愕を全身で表現した。
天下の毒舌性悪破天荒な東条ミサギに抱きつくなんて命知らずな……と見ている方はハラハラした。
キョトンと見下ろす顔と目が合ったユウは、きりりとした表情で、
「ボク、ミシャギさんのおてつらい、しやしゅ!」
「ダメ」
にべもなく即答され、ヒョイと抱き上げられた。
一同は狐に化かされたか、自分の目がおかしくなったのかと、何度も頬をつねり目を擦ったのは、仕方の無い事だ。
ユウはといえば、木戸に引き渡され、肩に担ぎ上げられていた。
「らんれれすかあ!」
文字通りお荷物となったユウにミサギが、
「須奈媛……ユウ君のこれ、どういう事?」
問うと、アスカはサングラス越しにユウを見る。
「う~ん……推測だけど、高濃度の魔力にあてられちゃったみたいだね」
「ユウ君くらいの子供には毒だね。木戸、連れて帰って」
その言葉に、ユウが暴れ出した。
「らってくらはい! ほら、あいつきますよぉ?」
腕をぶんぶんと振り回してみっちゃんを指さす。
「あい? わし?」
「ちなう! もこもこぉ!」
ユウが叫んだ直後、ゴォッと強い風が吹き上げた。
「こんなところに来て、何があるんです?」
吉之丸が訝しげに問う。
「周りを見て気付かないかい?」
ミサギに言われて、思わず見回す一同。だが、何も無い。
「見て気付けって言われても、何も……」
そう、何も無いのだ。ただ辺りは視界が白く、呼吸も重く湿っているだけだ。
「真っ白やな」
「霧? 靄?」
「そう見える?」
意外にも、真面目なトーンで聞き返したのはアスカだ。仮想キーボードに素早く指を走らせ何かを入力している。かと思えば、試験管をポーチから取り出して視界を遮る白い霧を採取し始めた。
「どういう事やねん?」
一同が惑う中、アスカはミサギと視線を交わし、彼は木戸へと視線をあげる。
それだけで指示は十分だった。木戸は、懐からスマホを出して皆に見えるように見せた。
画面に映っていたのは、気象予報AIとして人気を博しているクテンだった。
「はぁーい、クテンです♪ この地域のお天気を――」
「あ、お天気AIのクテンちゃんだ」
「天気?」
彼女の能天気なアナウンスに、吉之丸が手を振る。手を振り返す彼女を見て緇井は考え込み、みっちゃんは渾身のツッコミを叫ぶ。
「お天気AI見せとる場合かぁああああ!」
「黙って聞け」
「~~~~~!」
ミサギの言霊がねじ伏せた。
「本日のお天気は晴れだけど、ちょっぴり曇りがち。地上は冷たい風が吹いて少し寒いですが、大気の状態は安定しています」
「……もしかして、先ほどの雲は積乱雲ではないのか……!?」
気付いた緇井が呟く。
画面ではクテンがにこにこ笑顔で天気案内を続けている。
「そう。そもそも、積乱雲てのは、大気が不安定な特定の条件下でないと発生しないんだ。でも、こうして漂っている。これがなんだかわかる? ねえ、須奈媛博士?」
「へぁい!?」
ミサギに博士と呼ばれて、背筋が総毛立ったらしい。思わず裏返った返事をしてしまっている。
「あ、ああ……魔力が水蒸気のようになっているね」
「魔力!? じゃあ、これは魔法なのか?
アヤカシが落雷をさせて事件を起こしていたのではなかったのか?」
丸いサングラスをかけて、周囲の雲をくまなく観察したアスカは、緇井の問いに首を振る。
「アヤカシかどうかも、これだけじゃ断定できないよ。ただ、魔法ではない。魔力が水蒸気になってただ浮遊しているだけ……って、言ったらわかるかな?」
「え? 魔力って、その辺に漂うものなのか?」
と、これは吉之丸。
「魔力が可視化できるほど密集するとは……!」
「さあ? 申し訳ないけどよくわからないな」
アスカの言い方に、吉之丸はカチンときたらしい。
「なんか無責任ッスね」
「そりゃ仕方ないよ。魔力魔法アヤカシに関して、この国は新興国ではあるけど、まだまだ遅れている部分が多いんだ。付け加えて、ここ最近急増化の被害。
過去の文献が乏しいうえに解読も進んでない。だから現場に行って、手探りでも現状を解決しなけりゃならないんだ」
そう言うと、彼は真剣な表情で話を続けた。
「いいかい? 僕らはアヤカシという未知で不確定で不安しかない存在からこの国を守るために、ひいては未来のために、この研究をしているんだ。
君に少しでも魔法士という自覚があるなら手伝ってくれないか?」
強い語気に、広場は静まり返る。
「ボク、てつらいまぁすっ!」
沈黙を破って、ユウが元気よく手を挙げる。
何故か、呂律が回っていない。
「アヤカシろか、アリャミタラろか、ボクがえいえ~いってやっつけろから~」
「え? ユウどん……? なんや、酔っぱらってへんか?」
フラフラと千鳥足のユウを支えようと駆け寄るが、その手はスルリと躱される。
「ミシャギしゃんっ!」
彼の腰元にギュッと抱きつく。
ぎゃあと、木戸とミサギ以外全員が驚愕を全身で表現した。
天下の毒舌性悪破天荒な東条ミサギに抱きつくなんて命知らずな……と見ている方はハラハラした。
キョトンと見下ろす顔と目が合ったユウは、きりりとした表情で、
「ボク、ミシャギさんのおてつらい、しやしゅ!」
「ダメ」
にべもなく即答され、ヒョイと抱き上げられた。
一同は狐に化かされたか、自分の目がおかしくなったのかと、何度も頬をつねり目を擦ったのは、仕方の無い事だ。
ユウはといえば、木戸に引き渡され、肩に担ぎ上げられていた。
「らんれれすかあ!」
文字通りお荷物となったユウにミサギが、
「須奈媛……ユウ君のこれ、どういう事?」
問うと、アスカはサングラス越しにユウを見る。
「う~ん……推測だけど、高濃度の魔力にあてられちゃったみたいだね」
「ユウ君くらいの子供には毒だね。木戸、連れて帰って」
その言葉に、ユウが暴れ出した。
「らってくらはい! ほら、あいつきますよぉ?」
腕をぶんぶんと振り回してみっちゃんを指さす。
「あい? わし?」
「ちなう! もこもこぉ!」
ユウが叫んだ直後、ゴォッと強い風が吹き上げた。
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