蒼の魔法士

仕神けいた

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蒼の魔法士-本編-

Seg 01 蒼い髪たなびく空に

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 時刻じこくはもうすぐ十三時。
 鬱蒼うっそうとした森のように建つビルの合間には、人々のいこいの場がある。
 ランチを楽しめるベンチがあり、小さな子供向こどもむけの遊具があり、緑も豊かに整備されていた。

 安らぎのひと時を過ごし、昼食を終えたOLやビジネスマンは、職場へと足早にもどる。
 すでに、というより、休む間もなく取引先をせわしなくめぐる人もいた。

 人々がときに波となり、うずとなる大都市の風景は、今やAIロボットの普及ふきゅうで、そこかしこに人間に近い形の機械を目にする。ロボットも人口にふくめるなら、その割合わりあいは半分近くをめている。

 それが、先ほどまでのいつもの光景、日常であった。

 わずかだが、地鳴りがした。

 敏感びんかんな人間と、センサーを持つロボットは、地震じしんではないかと辺りを見回す。不安と警戒けいかいいだき、人はその場にとどまり、ロボットは情報収集しゅうしゅうにアンテナをばす。
 日常を破壊はかいするのは、いつだって人間の理解をえた存在そんざいであると、予感が空気にまぎれてやってくる。

 突然とつぜん高層こうそうビルが一つ、爆発ばくはつした。

 はるか上階でのことにもかかわらず、重苦しい轟音ごうおんは外を歩く人の体をふるわせた。
 爆風ばくふう粉砕ふんさいされたまどかべが中空へとぶ。
 火の手は見えない。冷静な人が見れば、あれは爆発ばくはつというよりは、何かが激突げきとつした破壊はかいに似ていると言うだろう。

 それは、連鎖れんさして次々と隣接りんせつするビルに起こっていった。

 一体、何が起きたのか。
 五十階以上あるビルの上部が破壊はかいされたことで、ガラスやかべ破片はへんは人々をおそ凶刃きょうじんの雨となる。

 いたみをともなう雨。おくれた者には命さえうばう雨。
 人々は初めての降雨こううに悲鳴し、我先われさきにとげだす。

 正常な判断をうばわれ、頭上から無差別にってくる恐怖きょうふに、街はまたた地獄じごくへと変貌へんぼうした。

 AIロボットたちは、ガラスの降雨こううと同時に危険きけんを察知した。自身がかさとなりだてとなり、人間を安全な場所へと誘導ゆうどうするプログラムも実行されていた。しかし実際は、まどいがむしゃらに走るしかできない人間にしのけられ、あるいはみつけられていった。

 たおれたAIロボットのうつろなひとみが、今起こっている現状をブラックボックスに記憶きおくする。
 その映像えいぞうは、横一直線に破壊はかいされていくビルをうつし、そして、あお一閃いっせんちゅうったところで途切とぎれた。


 ◆ ◆ ◆


「だーもうっ! アヤカシつよウザいっ!」
 後ろをかえり、ユウはやけっぱち気味にさけんだ。

 年のころは十二、三さいほど。
 とおるような、それでいて深い瑠璃色るりいろかみ
 花よりもはかなげな色、しかし光をめたすすき菫色すみれいろひとみ
 細く白い華奢きゃしゃ四肢ししは、身にまとった漆黒しっこく衣装いしょうによって一層いっそう引き立っている。

 AIロボットが記録した、あお一閃いっせんの正体である。

 長いまつげのせいか、耳もかくれる長めのショートヘアのせいか。
 少年にしては可愛かわいらしく見える。

 その本性ほんしょうは、もしかすると人間ではないのかもしれない。

 傍目はためでは性別の判断がつかない子供こどもは、まどまど隙間すきまにあるわずかな枠組わくぐみをって、ビルからビルへ、大きな谷間をうように上昇じょうしょうしていく。

 うでいだくは、気を失った少女。
 少しばかり、ユウより背丈せたけが高そうな少女だ。
 ユウは、としてしまわないようかたに乗せ、しっかといだきしめるようにうでを回す。

「こんなヤツがいるとか聞いてないっ! 都会こわい! こわすぎっ!」
 弱音をきつつも、「アヤカシ」なるものの対処法たいしょほうは心得ているようだ。

 とにかく上へ上へと向かう。最後、窓枠まどわくがベキッとひしゃげるほどみ、跳躍ちょうやくした先でようやく高層こうそうビルの屋上に到達とうたつする。

 体力、俊敏しゅんびんさ、脚力きゃくりょくすべてが常人のしている事から、かけはなれていた。

 ユウは、辺りをキョロキョロと見渡みわたす。
 右も左も、ビル、ビル、ビル、ビル……。皮肉にも、ビジネス環境かんきょうと自然の共存きょうぞんで区画整理されつくした街は、ユウを簡単かんたん迷子まいごにさせた。
「何だこの都会の迷路めいろ……ここどこ?」

 騒動そうどうの始まりは、ユウが通りすがりの少女に道をたずねた時だった。

 アヤカシに気配が見つからないように、あおかみが目立たぬように、かくれるようにしていたのだが、少女はユウのフード姿すがたを見ていぶかしんだのだろう。
 警察けいさつで道をたずねればいいと、少女はぐいっとユウのうでを引っ張って歩き出した。

 明らかに不審者ふしんしゃだと思われて、あわててげだそうとしたのがいけなかった。

 アヤカシには見つかり、少女はアヤカシの強い威圧いあつに気を失ってしまった。
 その場から、ユウだけがはなれればむ話なのに、たおれた少女をっておけないという気持ちが、現在の状況じょうきょうへとつながってしまった。

 都会の迷子まいごと化したユウは、ポケットに入れていたスマホを取り出す。マップは方角も地名もしっかりと表示されている。ナビゲーションでも「どこへ行きたいですか?」と親切にも行き先をたずねてくれている。

「そっか! にいちゃんからもらったメモを……」
 ユウはメモアプリを起動する。こまったときに開くように、と兄から言われ、初めてその内容を見る。

 アプリのデータには、手書きで目的地が書かれている。
 縦棒たてぼうが二本、横棒よこぼうが三本ほど引いてあり、目的の場所であろうところに赤い矢印が書かれている。

『この場所だ。ユウ、グッドラック!』

 綺麗きれいな字が応援おうえんしていた。

「……兄ちゃんの……バカヤロー!」
 応援おうえんされたユウの、なみだぐんださけびが、むなしく空へとまれる。

 直後、ユウの後方で、禍々まがまがしい咆哮ほうこうとどろいた。

 人々には見えず聞こえず。
 しかしいたユウの目には確かに存在そんざいしており、ねらいを定める声が追いかけてきていた。

「げっ……! もう来た!」

 姿すがたは、ニワトリに長いがついたもの、といえば想像できようか。
 さらに、ヘリコプターほどの大きさにした、といえば、その異常いじょうさは伝わるだろうか。

 真っ黒な巨鳥きょちょうのバケモノを、ユウは『アヤカシ』とんだ。
 図体ずうたいおおきければ羽も大きい。
 こちらに向かって飛んでくる。広げたつばさが、ビルの木々を横一文字にたおすように破壊はかいしていく。

 地上では、突然とつぜんの事にまどう人々が悲鳴をあげている。

「ちょっ、やめろ!」
 アヤカシに理性があれば、ユウの声にも反応したかもしれない。だが残念ながら、さけむなしくアヤカシはさらに破壊はかいかえした。

 うごく長いでビルをたたき、鉄骨てっこつまじりのコンクリートへん爆散ばくさんする。
 ユウのいる方向へも、背丈せたけほどある破片はへんが飛んできた。

 どぉん

 空気が重くひびわたる。
 ビルの一部だったかたまりは、空気のふるえと同時に粉と散っていった。

 その向こう側には、片足かたあしを上げた体勢のユウ。
 表情は、明らかにいかりでいっぱいになっていた。

 きかかえていた少女は、アヤカシがこわした破片はへんかべにして、かくすように避難ひなんさせている。

「いい加減にしろよ……! 何もしてないのにお前らアヤカシはおうとするし! げりゃ街をぶっこわすし! 弁償べんしょうできんのかっ!」

 馬の耳に念仏、アヤカシに説教。

 効果がないのはわかりきっているのだが、そんな事はお構いなしに、ユウはチョーカーにつけた十字架じゅうじかをぶちっと取り外す。
 うでり下ろしたとき、それは一瞬いっしゅん錫杖しゃくじょうへと変化した。
 ユウの殺気を感じて、アヤカシは羽をはげしく動かし、鋼鉄こうてつごとかたい羽根を飛ばしてきた。

 無数の羽根の矢にも、ユウは動かなかった。
 一枚いちまいは、ユウのほおをわずかにかする。
 幾枚いくまいかは、うであし、そして腹部ふくぶさる。
 残りは、周囲のコンクリートにヒビを入れた。
 ほおの赤くびるきずから、血がにじあふれてツゥと一筋ひとすじ、流れていく。

 それでも動かず、標的と定めたアヤカシを睥睨へいげいする。



――人外は、ちりにて外へくあるべし



 子供こどもらしからぬ言葉が、ユウの口からつむがれる。
 力をふうじるのろいか。
 ユウの言葉に、白い花びらが一枚いちまい、どこからともなく、ヒラリと中空に生まれて消えた。

 この言葉をユウが発すると現れる花びら――魔法まほうが成功したあかしだ。

 再びアヤカシへと視線しせんをやると、屋上のかたい地面に落下するところだった。力が入らないのか、羽根や足をうごめかすも身動きが取れないでいるようだ。

 ユウは、アヤカシの胴体どうたいねらいを定め、錫杖しゃくじょうを力いっぱいめて投てきする。

 ギシャァァアアアア

 アヤカシの断末魔だんまつまが、ユウの耳にだけとどく。
「くぅっ……」
 鼓膜こまくけ頭にまでつんざく高音に、顔をしかめ、思わず両手をふさいだ。

 やがて、はいばかして空気にけて消えゆくアヤカシの姿すがた。残されたのは、ユウの錫杖しゃくじょうと、その先にさっている赤い物体。

 丸く荒削あらけずりした宝石ほうせきにも見える。
 ユウが片手かたてでつかむが、余るほどの大きい。にかざすと、中がらめいているのが見て取れた。

「こんなのが、アヤカシだなん……て…………」

 緊張きんちょうが解けたのか、力がひざをつく。が、そのひざすらもユウを支えきれず、手が出る前に、地面へと顔をんでしまう。

 ぶへっ、と間抜まぬけな声とともに、ユウの意識は遠のいていった。


 ◆ ◆ ◆


 ユウが見渡みわたす限り、そこは暗闇くらやみだった。

 純粋じゅんすいな黒ではなかった。すべてをんだような、黒。これがやみなのだろう。

 遠く、波の音が聞こえる。
 見上げると、夜とはちがった黒い空が広がり、また視線しせんぐにすると、やみであったところに海がらめいていた。
 写すものも反射はんしゃする光もない海は、ただ黒く揺蕩たゆたっている。

 ふと、彼方かなたからかねの音が小さく聞こえる。

 周りには、空と海。ユウもいつのまにか、海の上に立っていた。

 そして、ほかには何もない。

だれかいないの!?」

 心細くなり、ユウは辺りを見回してさけんだ。
 返事はない。
 この声をいているのは、自分唯一ゆいいつ人なのだと思わされる。

だれか――」

 声が、やみまれるように聞こえなくなった。
 いつの間にか、自身のうでも足も暗く見えなくなり、ただ、やみだけとなった。

 そこは、だれもいなかった――


「……なんか、白いのが見える」

 気付いて、視界しかいんできたのは白いかべ、いや、天井てんじょうであった。

 両手を上げてみる。

「うん……ちゃんとある」
 おぼろげな記憶きおく一瞬いっしゅん、身をふるわせる。

 のっそりと起き上がってみると、かなり立派りっぱ部屋へやていたようだ。

「どこだ、ここ?」

 さっきまで横になっていたベッドわきには小さなテーブル。ベッドとは反対側のかべ沿いには、大きな本棚ほんだなと勉強づくえ電飾でんしょくはシャンデリア……とまではいかないが、おしゃれにもシーリングファンのついた明りがともっている。

 デザインは白で統一されシンプルだが、洗練せんれんされたものだと子供こどものユウでも分かった。

「えっと、確か――」

 思い出そうとすると、巨鳥きょちょうのアヤカシをたおし、あか宝石ほうせきのようなものを手にして転んだところで、視界しかい記憶きおく途切とぎれていた。

「そうだ、ボク……」

「気がついたかい?」
「え?」

 かえると、いつの間に入ってきたのか。サングラスをかけた黒ずくめの大男が立っていた。

「で、でかっ……!」

 ユウの遠近法がくるったか、天井てんじょうとどきそうな長身だ。
 別段べつだん、どっしりとした体格でもないのに、重量感と威圧感いあつかんを全身に浴びているようだ。

 男は、ゆっくりと横へ移動し、なぜか後ろに向かってお辞儀じぎをした。

「?」

「やあ、どこかいたむところはある?」

 大男の背後はいごから現れたのは、小柄こがらな女性だった。
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