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蒼の魔法士-本編-
Seg 02 魔の途を知る者 -01-
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腰までなびく銀の髪に、すらりとした細身の体、透き通るほどきれいな肌の女性だった。
白のスーツから覗く赤い立て襟のブラウスが印象に残る。背丈はユウよりも頭二つほど高いようだが、大男のせいで小柄に見えてしまう。
そして、ユウが最も惹かれたのは彼女の瞳であった。
漆黒を閉じ込めたような黒い瞳を見ただけで、力が抜けるような、脳が溶けてしまいそうになる。
それがまたなんとも心地よい感覚であった。
「……え? だ、誰?」
ユウの問いに、彼女はクス……と笑みを見せる。
しかし、その口から出てきたのは、
「うっわ礼儀知らず。三日三晩昏睡状態になってた人の、恩人への第一声がそれ?
まずは状況確認でしょ? 『助けてくれたのはあなたですか?』って。
それが、『誰?』だって? じゃあまず君が名乗りなよ、君、誰?」
「え? は?」
「うわ~、自分の名前も言えないの? 最っ悪!」
驚くほどの悪口でまくし立てられた。
先程までの笑顔はどこへやら。
美しい顔は口の端を引き下げ、不機嫌な表情になってユウを見下ろす。
「なるほどなるほど。それが君がしつけられた礼儀というわけ。なんとも世間知らずな礼儀だ。君なんて助けなければよかったよ。ああ、僕はなんて愚かなことをしてしまったんだろう。ねぇ、木戸?」
女性は、後ろに控えた大男を木戸と呼んで見上げた。彼は、頷くこともなくただ立っている。
口に針ありとはこのことである。
初対面にもかかわらず悪意のある物言いと刺々しい言葉。見た目の美しさと違い、かなり性悪だった。
「ボ、ボクはちゃんと兄ちゃんから礼儀を教わっている……と思う、ます! あいさつはちゃんとするよう言われてるです!」
「言うだけならオウムでもできる。その挨拶を、今まさに、ここでしていないじゃないか」
「うぐ……!」
正論のはずなのに、言い方のせいで納得できずユウの顔がゆがむ。半ばヤケクソで自己紹介をする。
「あいそれはすみません! 助けてくれてありがとうございます!
ボクは春日ユウと申します! 差し支えなければあなたのお名前を教えていただ……痛ぁっ!」
ビキリッ、と軋む音がユウの体から響く。
「ああ、そういえば君、肋が折れているらしいよ。大声だすと響くから気を付けなきゃ」
――早く言ってほしかった。
体に激痛が走る。
彼女の言っていることは本当らしく、ユウは胸元を押さえてうずくまる。
包帯を巻かれている感触から、骨折以外にも負傷を、しかも結構な深手を負っているようだ。
女性はチョン、とユウの額を小突く。
軽く押されただけなのに、強い力で押されたようにベッドに戻された。
「でも、ちゃんと言えたじゃないか、えらいえらい」
彼女はにっこり微笑んだ。
手のひらを返したような笑顔で、ぽんぽんと頭を撫でる。
正しいことができた子供を褒めるような仕草だ。
ユウは最初こそキョトンとしていたが、彼女の笑顔と頭頂に感じる優しい感触で一気に顔が真っ赤になった。
彼女はユウの寝ているベッド脇で、足を揃えて姿勢を正す。
右手を後ろに回し、左手を優雅に腹部の前に当ててゆっくりと頭を下げる。
「それじゃ、はじめまして」
やわらかい微笑みは、彼女の持つ美貌をさらに強調させた。
「僕の名は東条ミサギ。君のことは、君の兄上から聞いて知っているよ。春日ユウ君」
白のスーツから覗く赤い立て襟のブラウスが印象に残る。背丈はユウよりも頭二つほど高いようだが、大男のせいで小柄に見えてしまう。
そして、ユウが最も惹かれたのは彼女の瞳であった。
漆黒を閉じ込めたような黒い瞳を見ただけで、力が抜けるような、脳が溶けてしまいそうになる。
それがまたなんとも心地よい感覚であった。
「……え? だ、誰?」
ユウの問いに、彼女はクス……と笑みを見せる。
しかし、その口から出てきたのは、
「うっわ礼儀知らず。三日三晩昏睡状態になってた人の、恩人への第一声がそれ?
まずは状況確認でしょ? 『助けてくれたのはあなたですか?』って。
それが、『誰?』だって? じゃあまず君が名乗りなよ、君、誰?」
「え? は?」
「うわ~、自分の名前も言えないの? 最っ悪!」
驚くほどの悪口でまくし立てられた。
先程までの笑顔はどこへやら。
美しい顔は口の端を引き下げ、不機嫌な表情になってユウを見下ろす。
「なるほどなるほど。それが君がしつけられた礼儀というわけ。なんとも世間知らずな礼儀だ。君なんて助けなければよかったよ。ああ、僕はなんて愚かなことをしてしまったんだろう。ねぇ、木戸?」
女性は、後ろに控えた大男を木戸と呼んで見上げた。彼は、頷くこともなくただ立っている。
口に針ありとはこのことである。
初対面にもかかわらず悪意のある物言いと刺々しい言葉。見た目の美しさと違い、かなり性悪だった。
「ボ、ボクはちゃんと兄ちゃんから礼儀を教わっている……と思う、ます! あいさつはちゃんとするよう言われてるです!」
「言うだけならオウムでもできる。その挨拶を、今まさに、ここでしていないじゃないか」
「うぐ……!」
正論のはずなのに、言い方のせいで納得できずユウの顔がゆがむ。半ばヤケクソで自己紹介をする。
「あいそれはすみません! 助けてくれてありがとうございます!
ボクは春日ユウと申します! 差し支えなければあなたのお名前を教えていただ……痛ぁっ!」
ビキリッ、と軋む音がユウの体から響く。
「ああ、そういえば君、肋が折れているらしいよ。大声だすと響くから気を付けなきゃ」
――早く言ってほしかった。
体に激痛が走る。
彼女の言っていることは本当らしく、ユウは胸元を押さえてうずくまる。
包帯を巻かれている感触から、骨折以外にも負傷を、しかも結構な深手を負っているようだ。
女性はチョン、とユウの額を小突く。
軽く押されただけなのに、強い力で押されたようにベッドに戻された。
「でも、ちゃんと言えたじゃないか、えらいえらい」
彼女はにっこり微笑んだ。
手のひらを返したような笑顔で、ぽんぽんと頭を撫でる。
正しいことができた子供を褒めるような仕草だ。
ユウは最初こそキョトンとしていたが、彼女の笑顔と頭頂に感じる優しい感触で一気に顔が真っ赤になった。
彼女はユウの寝ているベッド脇で、足を揃えて姿勢を正す。
右手を後ろに回し、左手を優雅に腹部の前に当ててゆっくりと頭を下げる。
「それじゃ、はじめまして」
やわらかい微笑みは、彼女の持つ美貌をさらに強調させた。
「僕の名は東条ミサギ。君のことは、君の兄上から聞いて知っているよ。春日ユウ君」
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