72 / 77
第3章
22話
しおりを挟む
「ええぇっ~~!? 魔王って氷土の大地から出てきちゃってるんですかぁぁ~~!?」
「・・・そんな。お父さまが・・・」
その話を聞いて、マルシルはショックを受けたように口元に手を当てる。
「マルシルさん~~! だいじょうぶですかぁ・・・??」
ルルムは彼女のまわりをぱたぱたと飛び回って心配そうに声をかけていた。
レモンもレモンで唇に指を当てながら、なにか考え込んでいる様子だ。
「あくまでも仮説です。ですが、もし本当にそうだとしたら・・・。急がないとマズいかもしれません」
ザンブレク城の城壁に今、いびつな二重結界が張られていることをゲントが付け加えると、マルシルはさらに大きく驚く。
ただ、彼女がここまで反応したのには理由があったようで。
どうやら心当たりがあるようなのだ。
たしかに最近、ザンブレクにいる父親――グレン王の様子がおかしいと。
「数ヶ月前からお父さまと交信ができていないのです」
「そうなんですか?」
「はい。こんなにも長い期間、お父さまと連絡が取れなかったことは、これまでに一度もありません」
それだけでなく。
ザンブレク国内の様子にも変化が見え、最近は不穏な空気を感じ取っていたのだという。
「わたくしは四つ子姉妹の三女として、ザンブレクの王家で生まれ育ちました。お父さまは早くにお母さまを亡くしていたこともあって、わたくしたち姉妹を溺愛しておりました。わたくしがロザリア国王代理の座に就いてからは、1日に1回はかならずお父さまから交信がありました。ちょっと過保護すぎるところもありましたが、それでもわたくしは嬉しかったのです」
それだけグレン王から大事にされて育ったのだろうと、話を聞きながらゲントは思った。
魔力総量610万1000。
クロノの血を引く直系の子孫として相応しい数値を持ち、マルシルは生まれる。
15歳まではザンブレクで姉妹たちと穏やかに暮らしていたようだ。
姉妹の仲も良く、なにをするにも一緒だったらしい。
やがて成人を迎え、五ノ国の第一継承権を獲得すると、『火の国ロザリア』の国王代理として就任する。
(マルシルさまは今16歳ってことだから、だいたい1年前の話だな)
3人の姉妹もそのタイミングで『水の国ウォールード』、『風の国カンベル』、『雷の国ダルメキア』の国王代理の座に就いたのだという。
王女に相応しい国王を決めるため、各国でも王選が催されているようで、進行状況としてはロザリアが一番早いとのこと。
すでに国王として内定しているのはゲントだけのようだ。
(でもそうか。ロザリアだけ王選が終わってるのか)
ほかの三国は正式な国王不在。
つまり五ノ国は今、かなり危うい状態にあると言えた。
そう思うと、自然と責任感のようなものがゲントの中に生まれる。
たとえ、かりそめの国王だとしても。
今、人々に模範となる姿を示すことができるのは五ノ国でゲントしかいなかった。
「そういうことでしたら、自分がザンブレクへ行って国王さまの様子を見てきます」
「ゲントさまが?」
「はい。それに当然、二重結界のことも気になりますし。国内の現状も確認したいですから」
「でしたら、ぜひわたくしも一緒にご同行させてください!」
前のめりになってマルシルが訴えてくる。
その瞳はあまりにもまっすぐで。
彼女の真摯さがひしひしと伝わってきた。
けれど。
「ごめんなさい。それは認められません」
ゲントは首を横に振って答える。
「ですが・・・! もしお父さまが乗っ取られているのでしたら、わたくしは・・・」
「心配するお気持ちもわかります。ですが、今マルシルさまがこの国を離れてしまったら、国民の皆さんは不安になると思うんです。これまでマルシルさまが精神的支柱となっていたからこそ、国王不在の中でもロザリアは大きな混乱なくやって来られたはずですから」
「っ・・・」
「せっかく王選が終わって一段落したのにすみません。ですが、俺はかならずロザリアへ戻って来ます。その時は、国王としての役目を全うしたいと思います。ですから、どうかその時まで。マルシルさま、この国をよろしくお願いします」
ゲントが深々と頭を下げると、広間はしーんと静まり返った。
ルルムもレモンも。
黙ってマルシルの返答を見守っている。
「大丈夫です。仮にもし、魔王に肉体を乗っ取られているのだとしても。グレン王はきっとご無事です。自分はその目で見ましたから」
「・・・」
ゲントが最後にそうつけ加えるのを聞いて、マルシルは小さく頷いた。
父親の無事を信じることができたようだ。
「・・・わかりました。婚礼の儀は延期すると国民の皆さんにはお伝えします」
「ありがとうございます」
「ただ本音を言わせていただければ・・・。ゲントさまとは離れたくないというのがわたくしの気持ちです。たとえ、ゲントさまがわたくしの遠いご先祖さまであったとしても・・・。結ばれたいという想いに変わりはありません」
「はい。わかってます」
「お戻りになるその日まで。キスはお待ちしておりますね」
こうして。
婚礼の儀のリハーサルは思いもよらぬ形で幕を閉じることとなった。
マルシルの瞳に微かな涙の粒が浮かんでいたことが、ゲントの印象にいつまでも残るのだった。
「・・・そんな。お父さまが・・・」
その話を聞いて、マルシルはショックを受けたように口元に手を当てる。
「マルシルさん~~! だいじょうぶですかぁ・・・??」
ルルムは彼女のまわりをぱたぱたと飛び回って心配そうに声をかけていた。
レモンもレモンで唇に指を当てながら、なにか考え込んでいる様子だ。
「あくまでも仮説です。ですが、もし本当にそうだとしたら・・・。急がないとマズいかもしれません」
ザンブレク城の城壁に今、いびつな二重結界が張られていることをゲントが付け加えると、マルシルはさらに大きく驚く。
ただ、彼女がここまで反応したのには理由があったようで。
どうやら心当たりがあるようなのだ。
たしかに最近、ザンブレクにいる父親――グレン王の様子がおかしいと。
「数ヶ月前からお父さまと交信ができていないのです」
「そうなんですか?」
「はい。こんなにも長い期間、お父さまと連絡が取れなかったことは、これまでに一度もありません」
それだけでなく。
ザンブレク国内の様子にも変化が見え、最近は不穏な空気を感じ取っていたのだという。
「わたくしは四つ子姉妹の三女として、ザンブレクの王家で生まれ育ちました。お父さまは早くにお母さまを亡くしていたこともあって、わたくしたち姉妹を溺愛しておりました。わたくしがロザリア国王代理の座に就いてからは、1日に1回はかならずお父さまから交信がありました。ちょっと過保護すぎるところもありましたが、それでもわたくしは嬉しかったのです」
それだけグレン王から大事にされて育ったのだろうと、話を聞きながらゲントは思った。
魔力総量610万1000。
クロノの血を引く直系の子孫として相応しい数値を持ち、マルシルは生まれる。
15歳まではザンブレクで姉妹たちと穏やかに暮らしていたようだ。
姉妹の仲も良く、なにをするにも一緒だったらしい。
やがて成人を迎え、五ノ国の第一継承権を獲得すると、『火の国ロザリア』の国王代理として就任する。
(マルシルさまは今16歳ってことだから、だいたい1年前の話だな)
3人の姉妹もそのタイミングで『水の国ウォールード』、『風の国カンベル』、『雷の国ダルメキア』の国王代理の座に就いたのだという。
王女に相応しい国王を決めるため、各国でも王選が催されているようで、進行状況としてはロザリアが一番早いとのこと。
すでに国王として内定しているのはゲントだけのようだ。
(でもそうか。ロザリアだけ王選が終わってるのか)
ほかの三国は正式な国王不在。
つまり五ノ国は今、かなり危うい状態にあると言えた。
そう思うと、自然と責任感のようなものがゲントの中に生まれる。
たとえ、かりそめの国王だとしても。
今、人々に模範となる姿を示すことができるのは五ノ国でゲントしかいなかった。
「そういうことでしたら、自分がザンブレクへ行って国王さまの様子を見てきます」
「ゲントさまが?」
「はい。それに当然、二重結界のことも気になりますし。国内の現状も確認したいですから」
「でしたら、ぜひわたくしも一緒にご同行させてください!」
前のめりになってマルシルが訴えてくる。
その瞳はあまりにもまっすぐで。
彼女の真摯さがひしひしと伝わってきた。
けれど。
「ごめんなさい。それは認められません」
ゲントは首を横に振って答える。
「ですが・・・! もしお父さまが乗っ取られているのでしたら、わたくしは・・・」
「心配するお気持ちもわかります。ですが、今マルシルさまがこの国を離れてしまったら、国民の皆さんは不安になると思うんです。これまでマルシルさまが精神的支柱となっていたからこそ、国王不在の中でもロザリアは大きな混乱なくやって来られたはずですから」
「っ・・・」
「せっかく王選が終わって一段落したのにすみません。ですが、俺はかならずロザリアへ戻って来ます。その時は、国王としての役目を全うしたいと思います。ですから、どうかその時まで。マルシルさま、この国をよろしくお願いします」
ゲントが深々と頭を下げると、広間はしーんと静まり返った。
ルルムもレモンも。
黙ってマルシルの返答を見守っている。
「大丈夫です。仮にもし、魔王に肉体を乗っ取られているのだとしても。グレン王はきっとご無事です。自分はその目で見ましたから」
「・・・」
ゲントが最後にそうつけ加えるのを聞いて、マルシルは小さく頷いた。
父親の無事を信じることができたようだ。
「・・・わかりました。婚礼の儀は延期すると国民の皆さんにはお伝えします」
「ありがとうございます」
「ただ本音を言わせていただければ・・・。ゲントさまとは離れたくないというのがわたくしの気持ちです。たとえ、ゲントさまがわたくしの遠いご先祖さまであったとしても・・・。結ばれたいという想いに変わりはありません」
「はい。わかってます」
「お戻りになるその日まで。キスはお待ちしておりますね」
こうして。
婚礼の儀のリハーサルは思いもよらぬ形で幕を閉じることとなった。
マルシルの瞳に微かな涙の粒が浮かんでいたことが、ゲントの印象にいつまでも残るのだった。
11
お気に入りに追加
1,323
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる