女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ

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第3章

23話

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 そのあと。
 ゲントはロザリア城で一泊することになった。

 これから出発すると、ザンブレクに着くのは真夜中になってしまうとのことだったので、明日の早朝に発つということで話がまとまる。

 ゲントとしてはアビリティの力ですぐにでも向かえたが、いろいろなことを思い出したため、少し考えを整理したいこともあって、その話を受け入れることに。

 すでにあたりは暗くなり、夜となっている。

 ダイニングルームで豪勢な晩餐を振舞われたあと、ゲントは最上階の大きな広間のある国王室へと招かれ、ルルムとともにそこでゆったりとした時を過ごしていた。

 レモンはすでに城をあとにし、ロゲスへと帰っている。

 また、家族の面倒を見なければならないため、ザンブレクへはついて行くことができないとも彼女は口にした。



 ***



「ウチもゲントと一緒に行きたいけど・・・。弟と妹のことがあるからさ」

「いえ。レモンさんにはここまで本当にお世話になりました。婚礼の儀のリハーサルまで手伝っていただき、感謝してます」

「感謝だなんて、ウチの方こそゲントにお礼を言わなくちゃだよ。いろいろとホントありがとね?」

 名残り惜しいのか、それからレモンはなかなかその場を離れようとしなかった。

 ゲントはしばらくの間、彼女と目を合わせ、お互いに黙ったまま心地の良い時間を過ごした。

 やがて。

「――さてと。そろそろ行かなくちゃ」

「いったんお別れですね」

「うん・・・。正直なこと言うとね? ゲントがあのクロノだってわかって、ウチにはぜんぜん届かない存在になっちゃったような気がしたんだよ。でも・・・今、目を合わせてみてわかった。ゲントはゲントだって。ウチがよく知るあなたなんだって」

 どこかすっきりとした表情を浮かべながら、レモンは明るくこう続ける。

「だから、この先なにが待ち受けてても。たとえ魔王があなたの前に立ちはだかったとしても。ゲントならばばば~って、いつものように簡単に倒しちゃうって。ウチはそう信じてるから」

「はい。ありがとうございます」

 また再会する約束を交わすと、レモンは笑顔で手を振りながら去っていく。
 ゲントは彼女の姿が見えなくなるまで頭を下げ続けた。



 ***



(レモンさん。かならずまた会えますよね?)

 彼女と過ごした日々を回想しつつ、ゲントは大きな窓の外に広がる夜空に目を向ける。

 すると、ルルムが隣りにすり寄ってきた。

「マスター。なにを考えてたんです~?」

「いや・・・。こんな広い部屋に泊まってもいいのかなってさ」

「それはもちろん問題ないですよっ~♪ だってマスターはこれからロザリアの国王さまになられるのですからっ~☆ それに賢者クロノさまでもありますしっ! この城まるごとマスターのものですよっ!!」

「さすがにそれはマルシルさまに申し訳ないよ。それに・・・たしかに俺はクロノだったけど。まだ断片的にしか思い出せてないから」

「それでも! ものすっご~く偉大なことですよっ!!」
 
 しっぽをふりふりとさせながら、ルルムは嬉しそうに宙で一回転する。
 その姿を見て、ゲントはふと思い出した。

「あ、そうだ。ルルムに伝えようと思ってたことがあって」

「? なんでしょう?」

「実は俺さ。魔族だったんだ」

「えええぇっ~~!? そーなんですかぁ!?」

「うん。だから、これまでルルムの姿が視えてたみたい」
 
 ゲントが伝えたかったことはそれだけではない。

 今の自分なら、ルルムをもとの姿に戻すことができるかもしれないと。
 ゲントは続けてそう伝える。

「言ったよね? 俺がかならずなんとかしてあげるって」

「はい。たしかに仰っていただきましたけどぉ・・・」

「だから、ちょっと試したいことがあるんだ。いいかな?」

「もちろんですっ!」

 ルルムの返答を確認すると、ゲントは魔晄に呼びかけて光のパネルを立ち上げる。
 そのままステータス画面に移り、スキルの項目をタップした。

 表示したのは先ほど獲得したエクストラスキルの内容だ。

==================================

[スキル名]
【血威による剣製の投影】

[性能]
己の血肉によって創造的連理を再現し、
材質の構成を実現する魔界全権能を統べる超絶最強のスキル。
ただし、材質の構成は一作一品に限る。

==================================

(大丈夫そうだな)

 実はすでに【血威による剣製の投影】の内容は確認済みだった。

 これからやろうとしていることが問題ないことを再認識すると、ゲントはまずルルムに魔剣の姿となってもらう。

 ぽんっ!

『これでいいんですかぁ?』

「そうそう。ちょっとそのまま待ってて」

 ゲントは魔剣を手に持ちながら、エクストラスキル【血威による剣製の投影】の力を解放する。

 剣身ブレイドに手をかざしながら、己の中でイメージを膨らませていくと――。

 ゲェーーン!!

『えぇっ!?』

 なんと1本だった魔剣が2本に複製されてしまう。

==================================

 葬冥の魔剣ケイオスヴァレスティを入手しました。

==================================

 宙に浮かぶ複製された魔剣をもう片方の手で取る。

 今ゲントの両手には、それぞれ葬冥の魔剣が握られていた。

「よし。予想どおり上手くいったな」

『な、な、な・・・これってどーゆうことですかぁぁっ!?』

「エクストラスキルで魔剣を複製したんだ。ルルム、そっちになんか変化あったりする?」

『ふぇ? いえ、これといって特に変化はないですけどぉ・・・』

「よかった。じゃあ、次はもとの姿に戻ってくれ」

『戻っていいんですかー?』

「戻ってもらわないとできないんだ」

『わ、わかりましたぁ~~!!』



 そのあと。
 ルルムがサキュバスの姿に戻るも、魔剣の1本はゲントの手に握られたままだった。

 どうやら間違いなく複製することに成功したようだ。

 そのままゲントは光のパネルを立ち上げると、魔剣のモードを轟斬猛怒ベルセルクモードへと変更する。

「それじゃルルム。こっちへ来てくれ」

「はいっ!」

 ルルムを正面に立たせると、ゲントは手にした魔剣の剣先を彼女へと向けた。

「えっ? ちょっとマスター・・・?」

「今からこれをルルムに突き刺そうと思う」

「えええぇぇっ~~~!?」

 羽をぱたぱたとさせて、その場で慌てふためくルルム。
 もちろん、なにも傷付けようとしているわけではない。

 ゲントは理由を説明する。

「『フルゥーヴ伝承洞』のガノンドロフ戦で、痛覚を引き抜いたことがあったよね? それと同じように、ルルムの記憶をブロックしてるものをこの魔剣で抜き取ろうと思うんだ」

「な、なるほど・・・! すごくいいアイデアだと思いますっ~! けど・・・可能なんでしょうか?」

「わからない。だから実際に試してみたいんだ」

「そーゆうことですねっ♪ わかりましたっ! マスター、よろしくお願いしますっ!!」

 ぺこりとその場でルルムはお辞儀する。
 覚悟はすでにできたようだ。

 ゲントはグリップに力を込めて葬冥の魔剣に全神経を集中させていく。

「大丈夫。痛くないから」

「は、はい・・・」

 深く息を吐き出すと、ゲントはルルムの大きな胸に目がけて剣先を突き刺した。

 ザシュッッ!!

 前回同様、貫通するような感覚がゲントの手を伝う。
 が、ルルムが痛がっている様子はない。

 それを確認すると、ゲントは記憶の障害となっているものを抜き取るイメージを膨らませる。

 そのまま思いっきり魔剣を引き抜いた。

「うううっ!?」

 魔剣を抜いてしまうと、ルルムは両手で胸を押さえながらその場で苦悶の表情を浮かべる。

「ルルム! 大丈夫か!?」

 ゲントはすぐさま彼女の豊満な体を抱き寄せた。
 が、どうやら身体的なダメージがあったというわけではないらしい。

「・・・マスター。ありがとうございます、ちょっと・・・頭の中が一瞬ぐちゃぐちゃになってしまって・・・」

「このままひとりで立てる?」

「はい。もう平気です」

 ゲントに体を支えてもらいながら、ルルムはその場に足をつけて立つ。
 
(え・・・?)

 その光景を見てゲントは目を疑った。

 ルルムが地面に足をつけているところをゲントは一度も見たことがない。
 これまでは座ったりしても、ずっと宙に浮かんでいたからだ。

 なにかサキュバスの少女の中で大きな変化があった。
 そのことをゲントはすぐ察知する。

 そして。

 その予想は的中していたようだ。

「マスター。ルルムもすべてを思い出しました」

「思い出した?」

「はい。どうやら記憶をブロックしてたものを抜き取ることに成功したみたいです」

 ルルムは唇を一度小さく噛むと、指を組みながらこう続ける。

「・・・ルルムはもともと魔界にいたんです」

 ここでゲントは彼女から驚くべき話を聞かされることになった。
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