女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ

文字の大きさ
上 下
61 / 77
第3章

11話

しおりを挟む










 弦人は過去にいじめを受けて引きこもっていた時期がある。

 きっかけは中学1年の頃。
 ゴールデンウィークも間近に迫った初夏の放課後だった。

 クラスメイトの女の子が教室で女子グループに取り囲まれている場面を目撃した弦人は、たまたま助けに入った。
 これといって面識のない女の子だったが、放っておけなかったのだ。
 
 その場はそれで問題なくおさまったのだったが、そのあとでいろいろと巻き込まれることになる。
 今度は弦人が女子グループからいじめの標的にされてしまったのである。
 
 当時の弦人はほかの男子に比べてかなり太っていたので、すれ違いざまに「きもい!」「デブ!」「臭い!」などの悪口を言われたり、物を隠されて笑われたりした。

 次第にそれはエスカレートしていき・・・。

 リーダー格の女子の呼びかけによって、弦人はクラスメイトの女子全員から挨拶をしても無視されたり、悪口を言われたりするようになった。

 助けた女の子もいじめっ子側にまわってしまい、男子も男子で腫れ物のように扱ったため、弦人は瞬く間にクラスの中で孤立してしまう。

 今にして思えば、そんなものは気にせずに無視して生活を送ればよかったとわかるのだが、学生時代は学校が居場所のすべてだ。

 だから、当時の弦人にとってはかなりつらいことだった。

 クラスメイトの女子全員からいじめを受けているとは恥ずかしくて、両親にも担任にも相談することができず。

 次第に学校へ行くのが苦痛になり、やがて出席が減って不登校となり・・・。
 自宅に引きこもるようになってしまう。

 この期間の記憶が弦人は曖昧だ。

 自分がどのようにして過ごしていたのか、今でもよく思い出せない。

 ただ半年が過ぎる頃になると、弦人は自然と筋トレをはじめることになった。
 なぜか内側から〝自分を変えたい〟という強い思いが猛烈に湧き起こってきたのだ。

 それから1ヶ月ほど筋トレに励むと大幅に減量することに成功する。
 不思議と自信もついた。

 それからしばらくすると、学校にも通えるようになって。
 見違えるようになった弦人を見て、それからは女子たちもなにも言わなくなった。

 あんな風に自分を変えようと頑張ったのはあとにも先にもあれだけだ、と弦人は思う。

 そのあとは・・・。
 これといって特徴のない平凡な人生を歩むことになる。

 ただ、中学校のその出来事がきっかけで、弦人は異性と接するのが苦手となってしまった。

 そのせいでこれまでに付き合った彼女はひとりもいない。

 弦人が40歳を迎えるまで童貞だったのも、もとを辿ればこのことが原因だった。



 ***



 宿屋のベッドから体を起こすと、ゲントはこめかみに指を当てる。

(久しぶりに中学時代の夢を見たな)

 当時のことは正直あまりいい思い出ではなかったので、ゲントは極力思い出さないようにしていた。

 ひょっとすると、異世界での生活にも慣れて、ふと気が緩んだことがきっかけでこんな夢を見たのかもしれない、とゲントは思った。

「おはよ~ございますっ! マスター♡」

 ルルムが顔を覗き込むようにしてベッドまでやって来る。
 
「・・・」

「? どーされましたぁ?」

「いや・・・おはよう」

(いつの間にかふつうに異性と話せてるよな、俺)

 しかもこんな若い少女と。
 これまでだったら考えられないような状況だ。

 ルルム、フェルン、レモン・・・と。

 異世界で多くの女の子たちと交流を持つうちに、異性に対する苦手意識が自然となくなっていることに今更ながらゲントは気づいた。

(職場でも仕事のこと以外、ほとんど女性とは話さないのに・・・。なんか不思議だな)

 もしかすると、異世界のこの環境が自分を童心に戻しているのかもしれない、とゲントは思う。
 子供の頃はただ好奇心の赴くまま自由に生きていたからだ。

「今日もがんばりましょ~♪」

「うん。そうだね」

 ルルムと自然に会話できているだけでなんだか嬉しくなってしまう。
 フィフネルにやって来てから、少しずつ自分も変わってきているようだ。

 それからゲントは大きく伸びをすると、ベッドから起き上がった。



 ***



 あれから数日が経過していた。

 ゲントは活動の拠点をコンロイに戻し、そこでしばらく余暇を過ごしていた。

「ゲントさん。おはようございますー!」
「今日もいい天気ですね。ゲントのおじさまっ♪」
「魔境を消してくださり、本当にありがとう。我が英雄!」
「いや~。ゲントさまと遭えるなんて今日はついてるぞ~へっへっ」

 これまでの光景が嘘のように。

 コンロイの町を歩くたびにゲントは人々から笑顔で声をかけられていた。

 向けられる視線も軽蔑的なものではなく、すべて憧れの眼差しに変わっている。
 こんな風にまわりからちやほやされて、いわゆる人気者となるのはゲントとしては生まれてはじめての経験だった。

(なんかちょっと気恥ずかしいな・・・)

 例の生配信は最終的に同接数が300万を突破したようで、これはロザリア国民の3分の1が視聴していた計算だった。

 すでにゲントの噂は、町から町へ至るところまで伝わっており、今ではほとんど顔が知れ渡った状態となっている。

 無名のおっさんが特S級ドラゴンを倒したことは、ゲントが思っている以上にフィフネルの人々にとって衝撃的だったようだ。
 
 しかも黒の一帯を消し去ったという超偉業のおまけ付きだ。
 騒がれない方が難しい。

「ゲントのおじちゃ~ん。握手してぇ~」

「はいよ」

「わぁ~い♪ ママぁー。ゲントのおじちゃんに握手してもらったぁー」

「あらら。すみません、ゲントさま。どうもありがとうございます」

「いえいえ」

 幼女とその母親に笑顔でゲントは手を振る。
 これまでとのギャップがものすごくて、なんとも不思議な気分だった。

「うふふ~♪ あの子とーっても嬉しそうでしたー☆」

「なんか変な感じだよ」

「ルルムはとても嬉しいですよぉ~? ようやくマスターの素晴らしさが皆さんに伝わったんですからねっ! むしろこれまでがおかしかったんです!!」

 えっへんと大きな胸を張るルルム。
 まるで自分のことのように幸せそうだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。 果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...