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2章

第29話

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「ごめんなさいなのです、エルハルト。チノはこの滾るような感覚を思い出してしまいました。追試のことはもういいです」

「なに?」

「それよりもチノはエルハルトともっと遊びたいです。エルハルトを倒さないと気が済まなくなりましたのですよ♪」

 嬉しそうに口にしながら、チノは俺にゆっくりと近付いてくる。
 何か人格が切り替わってしまったようなそんな印象だ。

(なるほど。これがギルマスの本性か)

 天才の孤独ってやつだ。

 生まれながらにして他者よりも卓越した力を持ってしまった場合、自分と同等かそれ以上の相手が現れると己の力を試してみたくなるものだったりする。

 光栄なことにチノはそれを俺に感じてくれたようだ。

 すると。

「ダメだって、チノっ!」

 これまで近くで戦いを見守っていたディーネが大声を張り上げる。

「エルハルト君の実力は確認できたんだよね? だったらこれ以上戦う必要なんてないでしょ? このままじゃエルハルト君が……」

「ディーネは下がっていてください。チノがこんなにも倒してしまいたいと思った相手は久しぶり……いえ、初めてかもしれません。絶対にエルハルトに勝たないと気が済まないのです。悪いですがディーネはそこで見守っていてくださいな」

 チノは片手を高く掲げて誰もこちらへ近付くことができないように守護結界を強化する。

「どうされたのでしょうか。チノさん」

「マズいよ……。チノ、完全にスイッチが入っちゃった」

「スイッチですか?」

「昔からそうなんだよ。ちょっとでも強い人を見つけると本気で倒しちゃうんだよね。今回は追試ってことだったから大丈夫だって思ってたのに……」

 ナズナとディーネのそんな会話が結界越しに聞えてくる。
 どうやら俺の読みは間違っていなかったようだな。

 俺は【韋駄天エッジ】を取り出すと向かってくるチノに刃先を構えた。

「今さら遅いのですよ、エルハルト。チノが魔法陣を解いているうちに一撃当てればよかったものを」

 チノは再び手元に黄金色の魔法陣を完成させる。

「その甘さが命取りとなるのです」

 次の刹那。
 素早く両手を前にかざしながら立て続けに魔法を放ってきた。

「〈ビッグバンボルケーノ〉!〈ライトニングノヴァ〉!〈エターナルラファーガ〉!〈クリスタルファウンテン〉!〈デスクエイクペトラ〉!」

 先程とは比べものにならないエネルギーとパワーに満ちた強力な攻撃魔法が一斉に向かってくる。

(今度は上位魔法か)

 【韋駄天エッジ】を握り締めながら紙一重のところで相手の攻撃を回避していくが……。

「っ」

 さすがにきついな。
 これ以上連続で同じ魔法を放たれたら間違いなく詰む。

(なら俺がすべきことは限られている)

 相手の攻撃を寸前のところでかわしつつ、俺は魔法袋の中に手を入れる。
 取り出したのは【神速の音爆弾】っていうユリウス大森林で拾ったアイテムだった。

 【神速の音爆弾】を【韋駄天エッジ】の前にかざすと、素材に宿ったマナを付与するようにすぐさまイメージを固める。

 すると《金字塔の鍛造》によって強化された武器が即座に完成した。

------------------------------
【アサシンレイピア】
〔レアリティ〕C+
〔再現度〕99%
〔攻撃力〕4200
〔必殺技/上限回数〕焼けつく刃痕 / 15回
〔アビリティ〕素早さ上昇Lv.4、回避率上昇Lv.4
------------------------------

 武器を手に取って素早く頭の中でステータスを確認する。
 
(アビリティのレベルが上がってるな。これでひとまず凌げればいいんだが)

 俺は【アサシンレイピア】を構えると再び反撃のチャンスを窺った。

 しかし。

「〈ビッグバンボルケーノ〉!〈ライトニングノヴァ〉!〈エターナルラファーガ〉!〈クリスタルファウンテン〉!〈デスクエイクペトラ〉!」

 怒涛の勢いで波状攻撃される上位魔法の嵐を前にやはり付け入る隙を見つけることができない。
 
 アビリティが上がったにもかかわらず、一つの魔法を回避するだけも手一杯。
 それだけチノがやってることは常軌を逸しているんだ。

 結界越しに観戦している野次馬の冒険者たちもざわざわと騒ぎ始める。

「あれが本気になったギルマスかよ、怖ぇ……」
「つか、こんなに魔法を撃ち込まれたら死ぬだろ普通!?」
「これが見たかったんだ。すげぇぜ、もっとやれ~!」
「私たちは神の御業を目撃してるのかもしれないわっ」

 いろんな意見はあれど皆チノの本気に興奮しているようだな。
 俺だってこんな相手と手を合わせるのは久しぶりだ。

(本当にすごいな、チノは。全然底が見えないぞ)

 チノは恍惚とした表情を浮かべながら次々と上位魔法を放ち続ける。
 追試のことは完全に忘れて俺を殺しにかかってきていた。
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