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2章

第19話

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「あの時、チノに誘ってもらってなかったら多分ウチは今も悪さしてたと思うからさ。だからアレンディオ伯爵家には恩義があるんだよ。チノがギルマスに就任してからはウチはチノの役に立てるようにたくさんクエストをこなせるように頑張って、気付いたら他領のギルドからも声をかけられるようになったんだ」

「そんな関係だったんだな」

 想像していた以上に2人の繋がりは濃密だった。
 もうここまでくると家族だな。

 そんな相手から直々にベルセルクオーディン討伐の依頼をされたっていうのに達成できなかったのはかなりショックだったに違いない。

(……待てよ。達成できたことにすればいいんじゃないか?)

 あの魔物を討伐したことは間違いないんだ。
 あとは誰が倒したかの違いだけで。
 
 俺はべつにベルセルクオーディン討伐の称号がほしいわけじゃない。
 それをディーネに譲ったとしても何も問題はないな。

「エルハルト君にもとっても恩義を感じてるよ? ウチの命を救ってくれて、こうしてわざわざ背負って運んでくれているわけだし。エルハルト君が言うことはなんでも聞いてあげたいってお姉さん思っちゃうな~」

「それは本当か?」

「も、もちろん……エッチなお願いはNGだけどさ!」

「そうか。なら大丈夫そうだな」

「?」

 そこで俺は一度立ち止まるとこう頼むことにした。

「ディーネ。ベルセルクオーディンはあんたが討伐したってことにしてくれないか?」

「えっ」

「俺の方はもう試験内容は達成しているから。それで全然問題ないんだ」

「いや、さすがにそれはマズいって!」

「けど今回はギルマスの要望でわざわざバルハラまで戻って来たんだろ? あんたにとっても今回のクエストはそれだけ重要だったはずだ。それに、俺としても自分の手柄にするよりもディーネの手柄にしてくれた方が断然嬉しい」

「そんな……。エルハルト君、どこまでお人好しなのっ!?」

「俺のことなら気にしないでくれ。あんたには借りがあるからな」

「そんなこと言ったらウチなんて何百倍も借りがあるって! 命を救ってもらったわけだから。やっぱり……こういうのはダメだと思うよ」

 ディーネは本当に困惑しているようだった。

 剣士としてのプライドもあるんだろう。
 俺が何度かそう言ってもディーネはなかなか首を縦に振らない。

 だがそれが100%本心じゃないってことに俺は気付いていた。
 
(ディーネはギルマスの期待に応えたかったはずだ)

 普通、あんな極限の状態に追い込まれてまで戦いを挑んだりはしない。
 
 クエストは失敗が絶対に許されないわけじゃない。
 命の危険を感じたらどんな上級の冒険者だって逃げることを選択する。

 でもディーネはそれをしなかった。
 自分が死ぬかもしれないって覚悟した上で最後までベルセルクオーディンに戦いを挑んだんだ。

(つまりそれだけ今回のクエストに賭けていたってことだよな)

 それが達成できなかったってことは、自分の存在意義を失うほどのことだったに違いない。

 こんな風に平静を装っているけどディーネが内心動揺していることを俺は見抜いていた。
 ここで俺が折れるのは違う。

「どうしてもダメか?」

「そんなの当たり前じゃん!? ウチはベルセルクオーディンを倒していないんだしっ……嘘の報告はできないって」

「俺が言うことはなんでも聞いてくれるんじゃなかったのか?」

「ぅぐっ……。たしかにそう言ったけど……」

「分かった。この頼みを聞いてくれるなら貸し借りの話はもう無しだ。俺に何百倍の借りがあるってそう感じてくれているんならこれでチャラにしよう。それならディーネも後ろめたさを感じることもないだろ?」

「ちょっとそれはズルくないかなぁ」

「ディーネがギルマスの役に立ちたいように、俺もあんたの役に立ちたいんだ」

「ハぁ……。エルハルト君がこんなに強引だったなんてお姉さん知らなかったよ……」

「悪いな。押しが強くて」

 ため息をつきつつも最終的にはディーネは笑顔を見せてくれる。
 そして、自身の中で何か区切りをつけるようにこう呟いた。

「ううん。ウチのためにごめんね」

 少し力技な部分もあったが結果オーライだ。
 これでディーネが余計な不安を抱えなくて済むって思えば安いもんだ。



 それからしばらく経つとディーネは1人で歩けるようになるまで回復した。
 前方で魔物の監視を続けていたナズナとも合流し、俺たちは3人揃って帰りの道を急ぐ。

 バルハラはもうすぐそこまで近付いていた。
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