51 / 81
2章
第18話
しおりを挟む
「ウチはさ。捨て子だったんだよね。獣族と人族の間に生まれたから多分育てるのが難しかったんじゃないかな」
どこか他人事のようにディーネは口にした。
「気付いた時にはルチアーノっていう盗賊一味のアジトにいて最初はそこで育ったんだよ」
「盗賊に拾われたのか?」
「うん。多分そうだと思う。混血だったからさ。身体能力は他の子に比べたら高かったと思うし、それで利用しようとしたんじゃないかな。そこで名前も勝手に付けられたんだよね」
ディーネいわく当時のことはよく覚えていないらしい。
ひょっとすると、いろいろと思い出したくないことがあって記憶に蓋をしてしまっているのかもしれなかった。
あれこれ聞くのは控えた方がいいな。
俺は何も言わずにディーネの話に耳を傾けた。
「それでそんな生活が嫌になって逃げ出したんだよね。もちろん、お金なんか無かったからさ。やることと言ったら商店で物を盗んだりすることで。そんな感じでなんとか生きてたんだよ」
「たくましいな」
「周りにいた手本となるべき大人たちがみんなそんな感じだったから、にゃはは……。でも今では本当に反省してるんだよ? 冒険者としてみんなの困りごとを解決しているのも当時の償いって意味があるんだ」
「そうだったのか」
だから、王国中を周ってさすらいの冒険者なんてものをやっているのか。
なんともディーネらしい考えのように俺には思えた。
「まぁ当時はそんな感じだったからね。悪さするのに躊躇いがなくてさ。けっこう大胆なこともやっちゃったんだ。そのうちの一つがチノの誘拐だったんだよ」
「誘拐?」
「チノはアレンディオ伯爵家の長女だったから。大切な令嬢を誘拐すれば大金が手に入るって思ったんだよね。今考えると本当に愚かなことしたなって思うけど、当時の自分としては生きていくのに精一杯だったからさ。そんなバカみたいなこともしちゃったんだよね」
ディーネはアレンディオ伯爵家の大邸宅に忍び込むと、庭に出て遊んでいた幼き日のギルマスにナイフを突きつけて脅したらしい。
「こっちに来るようにって脅したんだけどチノは全然動じなくて。普通同い年の子にこんなことやったら絶対に泣いちゃうはずなんだけどね。でもチノはまったくそんな素振りがなかったんだよ」
7歳そこらでそこまで達観していたのか。
「ウチはこの時はまだ知らなかったんだよね。チノが賢者の素質を持つ天才児だって。今じゃ〝王国最強の女魔術師〟なんて呼ばれてるくらいだから」
その後、ディーネは力づくで誘拐しようと試みたようだが、相手の魔法によってそれも簡単に阻まれてしまったようだ。
「こんな風に同い年の女の子に負けたのは初めてだったからさ。ウチ、恥ずかしくなっちゃって……。逃げ出そうとしたんだけどその時チノに声をかけられたんだよ。あなたとお友達になりたいって」
「友達になりたい? 本当にそんなこと言ったのか?」
「ねっ? 普通じゃないでしょ? 自分を誘拐しようとした相手にそんなこと言うなんてさ」
どうやらそれが2人の出会いだったみたいだ。
「あなたの才能は自分には無いものだって、チノは嬉しそうに手を掴んで言ってくれて。ウチ、びっくりしちゃったんだよ。まさか誘拐しようとしていた子に褒められるなんて思ってもなかったから」
この時にはすでにギルマスはディーネの剣の腕を見抜いていたようだな。
「それでどうなったんだ?」
「ちゃんと剣技について学べばあなたはもっと強くなるって言われてね。ウチに教師をつけたいからここで一緒に暮らさないかって提案されたんだよ」
「すごいな」
ディーネの話を聞いているだけで、ギルマスが幼い頃から人とは違う発想を持っていることが分かる。
(賢者の素質を持つ天才児か。これはとんでもないギルドマスターがいる冒険者ギルドを引き当てたかもしれないぞ)
俺はディーネをおんぶして歩きながらそんなことを思った。
「この時は食べる物にも困っていたくらいだったからさ。結局、ウチはチノの提案を受け入れたんだよ。まさか領主の邸宅で暮らすことになるなんて夢にも思ってなかったけどね」
「アレンディオ伯爵は認めてくれたのか?」
「それも不思議なんだけど、チノがお願いすることは絶対に聞いてくれるみたいなんだよね。だから、ウチも成り行きで居候させてもらうことができちゃったんだ」
それからディーネは成人を迎えるまでの間、アレンディオ伯爵家の大邸宅でギルマスと一緒に暮らしたようだ。
剣の教師もつけてもらってシグルード王国が主催する武闘大会で優勝するくらいまでに成長したらしい。
なんともすごい話だ。
俺はさらにディーネの言葉に耳を傾けた。
どこか他人事のようにディーネは口にした。
「気付いた時にはルチアーノっていう盗賊一味のアジトにいて最初はそこで育ったんだよ」
「盗賊に拾われたのか?」
「うん。多分そうだと思う。混血だったからさ。身体能力は他の子に比べたら高かったと思うし、それで利用しようとしたんじゃないかな。そこで名前も勝手に付けられたんだよね」
ディーネいわく当時のことはよく覚えていないらしい。
ひょっとすると、いろいろと思い出したくないことがあって記憶に蓋をしてしまっているのかもしれなかった。
あれこれ聞くのは控えた方がいいな。
俺は何も言わずにディーネの話に耳を傾けた。
「それでそんな生活が嫌になって逃げ出したんだよね。もちろん、お金なんか無かったからさ。やることと言ったら商店で物を盗んだりすることで。そんな感じでなんとか生きてたんだよ」
「たくましいな」
「周りにいた手本となるべき大人たちがみんなそんな感じだったから、にゃはは……。でも今では本当に反省してるんだよ? 冒険者としてみんなの困りごとを解決しているのも当時の償いって意味があるんだ」
「そうだったのか」
だから、王国中を周ってさすらいの冒険者なんてものをやっているのか。
なんともディーネらしい考えのように俺には思えた。
「まぁ当時はそんな感じだったからね。悪さするのに躊躇いがなくてさ。けっこう大胆なこともやっちゃったんだ。そのうちの一つがチノの誘拐だったんだよ」
「誘拐?」
「チノはアレンディオ伯爵家の長女だったから。大切な令嬢を誘拐すれば大金が手に入るって思ったんだよね。今考えると本当に愚かなことしたなって思うけど、当時の自分としては生きていくのに精一杯だったからさ。そんなバカみたいなこともしちゃったんだよね」
ディーネはアレンディオ伯爵家の大邸宅に忍び込むと、庭に出て遊んでいた幼き日のギルマスにナイフを突きつけて脅したらしい。
「こっちに来るようにって脅したんだけどチノは全然動じなくて。普通同い年の子にこんなことやったら絶対に泣いちゃうはずなんだけどね。でもチノはまったくそんな素振りがなかったんだよ」
7歳そこらでそこまで達観していたのか。
「ウチはこの時はまだ知らなかったんだよね。チノが賢者の素質を持つ天才児だって。今じゃ〝王国最強の女魔術師〟なんて呼ばれてるくらいだから」
その後、ディーネは力づくで誘拐しようと試みたようだが、相手の魔法によってそれも簡単に阻まれてしまったようだ。
「こんな風に同い年の女の子に負けたのは初めてだったからさ。ウチ、恥ずかしくなっちゃって……。逃げ出そうとしたんだけどその時チノに声をかけられたんだよ。あなたとお友達になりたいって」
「友達になりたい? 本当にそんなこと言ったのか?」
「ねっ? 普通じゃないでしょ? 自分を誘拐しようとした相手にそんなこと言うなんてさ」
どうやらそれが2人の出会いだったみたいだ。
「あなたの才能は自分には無いものだって、チノは嬉しそうに手を掴んで言ってくれて。ウチ、びっくりしちゃったんだよ。まさか誘拐しようとしていた子に褒められるなんて思ってもなかったから」
この時にはすでにギルマスはディーネの剣の腕を見抜いていたようだな。
「それでどうなったんだ?」
「ちゃんと剣技について学べばあなたはもっと強くなるって言われてね。ウチに教師をつけたいからここで一緒に暮らさないかって提案されたんだよ」
「すごいな」
ディーネの話を聞いているだけで、ギルマスが幼い頃から人とは違う発想を持っていることが分かる。
(賢者の素質を持つ天才児か。これはとんでもないギルドマスターがいる冒険者ギルドを引き当てたかもしれないぞ)
俺はディーネをおんぶして歩きながらそんなことを思った。
「この時は食べる物にも困っていたくらいだったからさ。結局、ウチはチノの提案を受け入れたんだよ。まさか領主の邸宅で暮らすことになるなんて夢にも思ってなかったけどね」
「アレンディオ伯爵は認めてくれたのか?」
「それも不思議なんだけど、チノがお願いすることは絶対に聞いてくれるみたいなんだよね。だから、ウチも成り行きで居候させてもらうことができちゃったんだ」
それからディーネは成人を迎えるまでの間、アレンディオ伯爵家の大邸宅でギルマスと一緒に暮らしたようだ。
剣の教師もつけてもらってシグルード王国が主催する武闘大会で優勝するくらいまでに成長したらしい。
なんともすごい話だ。
俺はさらにディーネの言葉に耳を傾けた。
1
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな
・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー!
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。
だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。
なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!
《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。
そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!
ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!
一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!
彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。
アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。
アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。
カクヨムにも掲載
なろう
日間2位
月間6位
なろうブクマ6500
カクヨム3000
★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる