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1章-2
第24話
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(ふぅ。なんとかなったな)
俺はガンフーの言葉を聞いてひと安心してた。
(攻撃を相手に与えられない以上精神力で勝つしかないって思ったわけだけど……上手くいったな)
今の俺ならどんなにダメージを受けても平気なわけだし。
利点を最大限利用した甲斐があったってもんだ。
戦いに大きなプライドを持つガンフーの場合、いくら攻撃を与えても無傷なら精神的に来るに違いないっていうのが俺の読みだった。
《鎧皇VV》を使ったのもあえてなんだよね。
(実はそんな〈補助魔法〉使わなくてもだいじょうぶっていう落差を上手く表現できたし)
まぁぶっちゃけいろいろと賭けだったけど。
あのあともし「どんな攻撃でも受けて立つ!」なんて言われてたら終わってただろうから。
俺がまったく攻撃を当てられないってことがバレたらガンフーの心を撃ち砕くことはできなかったはずだ。
まさに紙一重の決着だったぜ。
そんなことを考えているとルーク軍曹たちが駆け寄ってくる。
「さすがですティムさま! まさかあのガンフーさん相手にいちども攻撃せずに勝ってしまうなんて!」
「たまたまだよ」
「ご謙遜なさらないでください! 吾輩には分かります! すべてティムさまの計算であったと!」
具体的にそう言われるとちょっと恥ずかしいな。
けど仲間たちは特に気にしていないようで。
「やはりティムさまはとんでもなく強い御方でした!」
「我が一族の支配者となってくださり本当にありがとうございます~!」
「これからもティムさまについて行きますよー!」
と、べた褒め状態だ。
オーガ族の首領に負けを認めさせたんだからこれは当然の反応なんだろうけど。
一方でガンフーはというと、オーガ族の仲間たちがそばに駆け寄ってもその場からなかなか動こうとしなかった。
そんなガンフーのもとへ一歩足を進めると俺は手を差し出す。
「立てるか?」
「すまない……」
手をしっかり握り締めるとガンフーは巨大な体をゆっくりと立ち上がらせた。
そして。
暫しの間を置いたあと小さく言葉を口にする。
「そなたが勝ったのだ。約束どおり話を聞こう」
「その前にひとつ確認させてくれ。あんたらは食糧難に陥っているって認識でいいんだよな?」
「……そのとおりだ。食糧は全員食いつなぐことができてあと一週間といったところだ」
「やっぱり」
どうやら霧丸の読みは当たっていたみたいだな。
「しかし情けは無用。こうなってしまった原因は我にあるのだからな」
「あんたもだいぶ強情だなぁ。違うぞガンフー。こういうのは情けっていうんじゃない」
「なに?」
「こいつは助け合いっていうんだよ」
「……っ、助け合い……?」
ガンフーは巨大な図体に似合わずきょとんとした顔を浮かべる。
これまでいちどもそんな風に考えたことがないって表情を浮かべていた。
「もとを辿れば食糧難に陥った原因は魔族による襲撃だ。グシオン大陸で平和に暮らしていればあんたたちはこんな窮屈な生活をしなくて済んだわけだろ?」
「それは……たしかにそうだが」
「魔族に襲われて困ってるのはオーガ族だけじゃない。どの種族でも同じだ。こういうときこそ助け合いが必要だと思うんだ」
「だが……」
この場に及んでもガンフーは助けを受けることに迷っていた。
すごいな。
どこまで誇り高いんだオーガ族ってのは。
埒が明かないので切り札のひと言を俺は口にすることに。
「じゃあさ。こう考えてみるのはどうだ? このまま生きのびれば魔族に反撃するチャンスが生まれるかもしれないって」
「魔族に反撃するチャンス?」
「だってそうだろ? このまま魔族にやられっぱなしでいいのか? 俺はイヤだ。生まれ育ったこの世界を魔族のものになんてさせたくない。ガンフー。あんたも本当はそう思ってるんじゃないのか?」
その言葉に両種族の間でも驚きの声が上がる。
俺だって自分で言ってて驚いた。
魔族に反撃なんてそんなこと本当に可能なのか?
だけど。
実際に口に出してみるとそれはやけにリアルに響いた。
まるでそいつが俺たちの新たな希望だって啓示されたみたいに。
「……」
腕を組みながらガンフーは暫しの間考える素振りを見せる。
やがて、なにか確信するように静かに頷いた。
「たしかにこのままやられっぱなしでは終わりたくないな」
「でしょ? だったらここは生きのびて魔族に反撃するチャンスを待った方が賢明だと思わない?」
俺の言葉に続くようにルーク軍曹が前に出て声をかける。
「ガンフーさん。我々もモンスターに傷を負わされて困っていたところをティムさまに助けていただいたのです。助けを受けることは恥じることではありません」
「そうそう。ルーク軍曹の言うとおり。こんなのは恥でもなんでもないよ。それにもしこのままオーガ族が滅んでしまったら、俺たちは大切な仲間を失うことになる。それだけはぜったいにイヤなんだ」
「仲間?」
「そうさ。俺たちはこのめちゃくちゃな世界で苦境をともにしてる仲間だ。そんでいつか魔族に一泡吹かせてやろうぜ」
拳を作ってみせるとガンフーは力なく笑みをこぼした。
「……フッ。やはりそなたには敵わないな」
「え、それじゃ……」
「ああ。すまないが我が一族を助けてほしい。そなたたちの力が我々には必要だ」
深々と頭を下げるガンフー。
それを見て俺とルーク軍曹は笑顔で顔を見合わせた。
「もちろんだ! この状況から全員救ってやるぞ!」
これによってオーガ族の危機は去るのだった。
俺はガンフーの言葉を聞いてひと安心してた。
(攻撃を相手に与えられない以上精神力で勝つしかないって思ったわけだけど……上手くいったな)
今の俺ならどんなにダメージを受けても平気なわけだし。
利点を最大限利用した甲斐があったってもんだ。
戦いに大きなプライドを持つガンフーの場合、いくら攻撃を与えても無傷なら精神的に来るに違いないっていうのが俺の読みだった。
《鎧皇VV》を使ったのもあえてなんだよね。
(実はそんな〈補助魔法〉使わなくてもだいじょうぶっていう落差を上手く表現できたし)
まぁぶっちゃけいろいろと賭けだったけど。
あのあともし「どんな攻撃でも受けて立つ!」なんて言われてたら終わってただろうから。
俺がまったく攻撃を当てられないってことがバレたらガンフーの心を撃ち砕くことはできなかったはずだ。
まさに紙一重の決着だったぜ。
そんなことを考えているとルーク軍曹たちが駆け寄ってくる。
「さすがですティムさま! まさかあのガンフーさん相手にいちども攻撃せずに勝ってしまうなんて!」
「たまたまだよ」
「ご謙遜なさらないでください! 吾輩には分かります! すべてティムさまの計算であったと!」
具体的にそう言われるとちょっと恥ずかしいな。
けど仲間たちは特に気にしていないようで。
「やはりティムさまはとんでもなく強い御方でした!」
「我が一族の支配者となってくださり本当にありがとうございます~!」
「これからもティムさまについて行きますよー!」
と、べた褒め状態だ。
オーガ族の首領に負けを認めさせたんだからこれは当然の反応なんだろうけど。
一方でガンフーはというと、オーガ族の仲間たちがそばに駆け寄ってもその場からなかなか動こうとしなかった。
そんなガンフーのもとへ一歩足を進めると俺は手を差し出す。
「立てるか?」
「すまない……」
手をしっかり握り締めるとガンフーは巨大な体をゆっくりと立ち上がらせた。
そして。
暫しの間を置いたあと小さく言葉を口にする。
「そなたが勝ったのだ。約束どおり話を聞こう」
「その前にひとつ確認させてくれ。あんたらは食糧難に陥っているって認識でいいんだよな?」
「……そのとおりだ。食糧は全員食いつなぐことができてあと一週間といったところだ」
「やっぱり」
どうやら霧丸の読みは当たっていたみたいだな。
「しかし情けは無用。こうなってしまった原因は我にあるのだからな」
「あんたもだいぶ強情だなぁ。違うぞガンフー。こういうのは情けっていうんじゃない」
「なに?」
「こいつは助け合いっていうんだよ」
「……っ、助け合い……?」
ガンフーは巨大な図体に似合わずきょとんとした顔を浮かべる。
これまでいちどもそんな風に考えたことがないって表情を浮かべていた。
「もとを辿れば食糧難に陥った原因は魔族による襲撃だ。グシオン大陸で平和に暮らしていればあんたたちはこんな窮屈な生活をしなくて済んだわけだろ?」
「それは……たしかにそうだが」
「魔族に襲われて困ってるのはオーガ族だけじゃない。どの種族でも同じだ。こういうときこそ助け合いが必要だと思うんだ」
「だが……」
この場に及んでもガンフーは助けを受けることに迷っていた。
すごいな。
どこまで誇り高いんだオーガ族ってのは。
埒が明かないので切り札のひと言を俺は口にすることに。
「じゃあさ。こう考えてみるのはどうだ? このまま生きのびれば魔族に反撃するチャンスが生まれるかもしれないって」
「魔族に反撃するチャンス?」
「だってそうだろ? このまま魔族にやられっぱなしでいいのか? 俺はイヤだ。生まれ育ったこの世界を魔族のものになんてさせたくない。ガンフー。あんたも本当はそう思ってるんじゃないのか?」
その言葉に両種族の間でも驚きの声が上がる。
俺だって自分で言ってて驚いた。
魔族に反撃なんてそんなこと本当に可能なのか?
だけど。
実際に口に出してみるとそれはやけにリアルに響いた。
まるでそいつが俺たちの新たな希望だって啓示されたみたいに。
「……」
腕を組みながらガンフーは暫しの間考える素振りを見せる。
やがて、なにか確信するように静かに頷いた。
「たしかにこのままやられっぱなしでは終わりたくないな」
「でしょ? だったらここは生きのびて魔族に反撃するチャンスを待った方が賢明だと思わない?」
俺の言葉に続くようにルーク軍曹が前に出て声をかける。
「ガンフーさん。我々もモンスターに傷を負わされて困っていたところをティムさまに助けていただいたのです。助けを受けることは恥じることではありません」
「そうそう。ルーク軍曹の言うとおり。こんなのは恥でもなんでもないよ。それにもしこのままオーガ族が滅んでしまったら、俺たちは大切な仲間を失うことになる。それだけはぜったいにイヤなんだ」
「仲間?」
「そうさ。俺たちはこのめちゃくちゃな世界で苦境をともにしてる仲間だ。そんでいつか魔族に一泡吹かせてやろうぜ」
拳を作ってみせるとガンフーは力なく笑みをこぼした。
「……フッ。やはりそなたには敵わないな」
「え、それじゃ……」
「ああ。すまないが我が一族を助けてほしい。そなたたちの力が我々には必要だ」
深々と頭を下げるガンフー。
それを見て俺とルーク軍曹は笑顔で顔を見合わせた。
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これによってオーガ族の危機は去るのだった。
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