どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ

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1章-2

第23話

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 その後もしばらくの間。
 ガンフーはティムに対して〈斧技〉を繰り出し続けていた。

「《衝撃のファーストアタック》!」


 ドゴゴゴゴーーン! ドゴゴゴゴーーン!
 ドゴゴゴゴーーン! ドゴゴゴゴーーン!


(そろそろ効果が切れてもおかしくない。どうしてダメージが通らないのだ?)

 金獅子のハンマーを力の限り振り回し続けそれがティムの肉体をえぐっていく。
 それでもティムは顔色ひとつ変えない。

 そんな光景を見てルーク軍曹と仲間の間に歓声が上がる。

「すごいですティムさま! ガンフーさんにまったく臆する様子がない!」
「これだけの攻撃を受けて平然としていらっしゃるなんて……」
「一気に反撃しちゃってくださいー!」
「さすがは支配者さまだ! 我が一族の誇りです~!」

 そんな声援を聞いてガンフーは徐々に焦りはじめる。

(なぜだ? 無効化の効果がこれほど長い時間続くわけがない。いったいこれはどういうことだ?)

 斧を振り回し続けるガンフーに対してティムがぽろりとひと言呟く。

「言い忘れてたけど。もうとっくに〈補助魔法〉の効果切れてるから」

「!」

(なにを言っているのだこの男は。まさか生身の状態で我の攻撃を受けているとでも言うのか!?)

 これだけの攻撃を受けているにもかかわらずティムの顔には恐怖というものがなかった。

「オーガ族の力を舐めるな人族の男よ!」

 連続最強技の一段技だけで仕留めるつもりのガンフーであったがそうは言っていられない状況だと悟る。
 
(この技は使いたくなかったのだが……致し方あるまい。さらに強力な攻撃を撃ち込む)

 いちど金獅子のハンマーを後ろに振りかざすとガンフーは集中力を高めていく。
 
「ハアアァ……!」

 鋭い刃に禍々しい妖気が集結し、やがてそれは地面を大きく振動させるほどのオーラへと膨れ上がっていく。
 先ほどの〈斧技〉とまるで異なる技を繰り出そうとしているということは誰の目から見ても明らかだった。

「おぉ~地面が揺れてる」

「軽口を叩いている余裕がどこにある? これを今からそなたに撃ち込むのだぞ!」

「そいつは怖いな」

「フッ、我も見くびられたものだ。いいだろう。この技ですべてを終わりにさせてもらう!」

 金獅子のハンマーを握るガンフーの目が静かに据わる。
 その姿を目にしてクリエは思わず口元に手を当てた。

「あれは……〈斧技〉最強技二段目の構えっ!?」

 しかもガンフーは武器を大きく後ろに振りかざしていた。
 それはこれから全力で〈斧技〉を撃ち込もうとしている合図でもあった。

「あんなものを撃ち込まれたら相手はひとたまりもないですよ!」

 クリエの隣りで焦ったようにズーポが声を上げる。
 オーガ族の彼女たちには本気となったガンフーがいかに手に負えないかそれがよく分かっていた。
 

 ティムは腰をかがめると盾を前にして衝撃に備える構えをとる。
 それを見てガンフーはにやりと口元を釣り上げた。

(そんなものでは我の攻撃は止められん!)

 刃先にため込んだ妖気をすべて解き放つようにガンフーは全力でハンマーを振り抜く。

「己の未熟さを後悔するがいいティム・ベルリ! これが《撃滅のセカンドスラッシュ》だ!」


 ドゥルルゴゴゴゴッーーン!!


 その刹那。

 円状に炸裂した衝撃波がティムに向かって一直線にのびていく。
 それは容赦なくティムの全身にぶち当たり、大爆発がその場で巻き起こった。


 大地は深くえぐれ巨大な黒煙が立ち昇る。

 そんな光景を目の当たりにしてふたりの決闘を見守る群衆は、誰も彼も唖然とした表情を浮かべていた。
 
(間違いなく仕留めた手応えがあったぞ)
 
 ガンフーは金獅子のハンマーをその場に下ろすと勝利を確信する。

 そのまま洞窟の方へ引き返そうとするが。

「……まさかこんな攻撃で終わりにしようって思ってたわけじゃないよな?」

「!!」

 土煙が上がり視界がクリアになるとその奥ではティムが平然とした顔を浮かべていた。

 槍も盾もその場に投げ捨てられている。
 本当に丸腰の状態だ。

「バ……バカなっ! 《撃滅のセカンドスラッシュ》を直に受けて無事でいられるはずがない……!」

 しかも相手は種族の中では非力とされている人族。
 オーガ族最強の自分が全力で攻撃を放ったにもかかわらず、相手が無傷でいることにガンフーは生まれてはじめて恐怖という感情を抱く。

(……ぜったいにあり得ん……! なんなんだこの男は……!?)

 故郷を襲われた際、魔王のひとりを見かけたときもガンフーは恐怖心を抱くことはなかった。
 
 あのときは仲間を全員退避させることを優先したためその場から逃げる形となったが、もし自分ひとりしかいなかったら迷わず魔王に戦いを挑んでいたはずだとガンフーは考えていた。

 なぜならガンフーにとって死は恐怖ではないからだ。

 しかし。
 
(これが恐れという感情?)

 今ガンフーははじめて恐怖を感じていた。

 そしてすぐにハッとする。
 どうして自分が恐怖を感じているのかその理由が分かったのだ。
 
 そう。

 目の前の男に勝てないかもしれないと思ってしまったからこそ、ガンフーは恐れの感情を抱いたのである。

(いや我が負けることなどあり得ぬ。オーガ族最強の我が人族の男相手に負けるなど……断じて認めるわけにはいかないぞ!)

 地面に金獅子のハンマーを突き刺すとガンフーは低い声を震わせる。

「リミッター解除」

 するとその瞬間。
 煌めきをまとっていた金獅子のハンマーは突如どす黒い妖気に包まれていく。


 バキバキバキバキッーーー!


 そして形状を大きく変えると、禍々しい大斧がその場に爆誕するのだった。

「これがこの斧の真の姿――デストロイカイザーアクスだ」

 漆黒の大斧を両手で高く持ち上げるとガンフーはハッと息を吐く。
 その姿を見てクリエとズーポはふたたび驚きの声を上げた。

「首領さまが禁器となるデストロイカイザーアクスを覚醒させてしまった!」

「まさか生きているうちにこの大斧を目にする日が来るなんて……」

 それは一振りしただけであたり一面の草木が腐ると言われるほどのパワーを持つ大斧。
 まさに禁器と呼ぶにふさわしい代物だった。

「そなたに恨みはない。だがこれ以上我の誇りを汚されるわけにはいかぬ」

「まぁそうだろうな」

「フッ……どこまでも食えない男よ。だがその余裕もこれで潰えることになる」

 デストロイカイザーアクスを両手に高くかかげたままガンフーは重心を低くして集中していく。
 それは〈斧技〉連続最強技の三段目の構えだった。

「あ、あれはっ……! 《抹殺のラストインパクト》!?」
「いくら支配者さまでもあんな攻撃受けたらひとたまりもないですよ……!」
「ティムさま! その大技は非常に危険です!」
「どうかお逃げください! このままだと本当に死んでしまいますっ!」

 ルーク軍曹たちが背後で騒ぐもティムはその場から一歩も動こうとしない。
 それどころか丸腰のまま腕を組んでにやりと笑みを浮かべていた。

「ティム・ベルリ! それは勇敢とは言わぬ、愚行そのものだ! その浅はかさが命取りとなることを思い知れ!」

 大きく叫ぶと、ガンフーは全身全霊の力でデストロイカイザーアクスを振り下ろす。

「これで終わりだあぁぁ! 《抹殺のラストインパクト》!!」


 バッゴォオオオオオーーーン!!!


 その一瞬。

 爆裂した衝撃波が弾け飛び、轟々とした巨大な竜巻が巻き起こる。

 離れた地点で見守る者たちも物影に姿を隠さなければならないほどの大きな衝撃が一帯に広がった。
 
(さすがにこれで仕留めたはずだ!)

 漆黒の大斧をその場に下ろしつつもガンフーはどこか焦りを感じる。
 拭い去ったつもりだったが、心の奥底では依然として彼女は恐怖を感じていた。

 荒れ狂った竜巻がおさまり視界が次第に晴れていく。
 そこに浮かび上がった人影を目にしてガンフーはその場でがくんと膝をつけた。

「禁器を使った最強技ってのはこの程度なのか?」

「あぁ……」

 ガンフーは悟った。
 この男にはぜったいに敵わないと。

 一生かかっても勝つことのできない圧倒的な力の差があると思い知った。
 それは彼女にとって死よりも恐ろしい事実だった。


「これで攻撃は終わり? なら今度はこっちからいかせてもらうぞ」

 軽くそんな言葉を残すとティムは槍を拾って構える。

「さーてと。どんな〈槍技〉で反撃しようかな」

「……その必要はない……」

「ん? どういう意味?」

 ガンフーはデストロイカイザーアクスをその場に投げ捨てると力なく答えた。

「そなたには敵わないと分かった」

「それは……負けを認めたってことでいいのか?」

「ああ。そなたの勝ちだ、ティム・ベルリ」

 ガンフーの言葉に両種族の間で大きな驚きの声が上がる。
 この瞬間、両者の決闘はティムの勝ちという形で幕を下ろすのだった。
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