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10(ディラン視点3)
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俺がフェリシアに出会ったのは十年前、十四歳の時だった。王都にて四年に一度開かれる武闘大会。そこで俺はフェリシアにボロ負けしたのだ……。
この武闘大会は十六歳以下の子供の部と十七歳以上の大人の部には別れていて、貴族・平民、性別も関係なく実力がある者ならば誰でも参加できるのが特徴だ。ある者は優勝者へ贈られる賞金目当てに、またある者は由緒あるこの大会優勝という名声を目当てに参加していた。
俺の家――アッシュブレイドの当主になる者は昔から武闘には秀でている者が多く、父も祖父もその前の当主も参加した回では必ず優勝を飾っていた。
……だから当然のように俺も勝てる、否、勝たなければと思っていたんだ。
けれど決勝で負けた。沢山の人間が見ている前で、完膚なきまでに打ち負かされて……。初めてだった。女、それも同年どころか年下に負けたのなんて――。
けれど俺の場合は負けてそのまま、なんてことにはならない。俺の家系は昔から辺境伯として今まで何度もこの大会で優勝を収めてきたのだ。当然、親父にもこっぴどく叱りつけられた。
大会後。王都の別邸についた瞬間、人払いを命じ、親父は俺を睨みつける。
こんな大会程度で優勝できないなど愚鈍の極み、一族の名折れ、恥だのなんだのと一方的に罵られた。
母は言い過ぎでは?と親父を諌めようとしてくれていたが、そんなもの効果はなく、親父が満足するまでそれは終わらなかった。
怒られている時は涙を流したらこれ以上に怒られることは分かりきっていたので、泣きはしなかったが心の中は泣きたいほどに荒れていた。
本当は俺は戦うことなんて嫌いだ。戦うことは怖い……人を傷つける行為だから。でもこの家に生まれたからには武術とは離れることなんてできない。俺は昔からそれが辛くて仕方がなかった。ただでさえ嫌いな事なのに、それで失敗して親父にも怒られて……。
そうしてそのままいたたまれなくなり、家から飛び出し王都の街を駆けた。街には未だに大会の熱気が残り、所々から大会の誰と誰の試合がーーという話題が漏れ聞こえる。
大会という言葉を聞くだけで、俺の心は張り裂けそうに傷んだ。その度に泣きそうになりながらも走る。
そうして走っている内にフェリシアを見つけたんだ。
フェリシアは一人で王都の中心である噴水の前のベンチでボケっと座っていた。
「……お前」
立ち止まってそうポツリと呟いただけで、噴水に向けられていた視線がこちらを向く。
「……君は、さっきの準優勝の子?」
「準優勝ってわざわざ言うなっ!!」
「事実」
「っ~~~!!」
少し話しただけで確信する。こいつ、嫌いだ。
「それで、何か用?」
「ああ」
確かに最初は用などなく立ち止まったが、フェリシアの言動で用ができた。子供だった俺はフェリシアに怒りをぶつけようと思い立ったのだ。
「俺はお前が嫌いだ。大っ嫌いだ!」
「ふーん」
フェリシアは無表情で俺のその幼稚な否定の言葉を流した。今だから思うが、こんなクソガキの逆恨みで絡まれたフェリシアも災難だったと思う。
「なんだ!その態度はっ!?」
「だって私、君の事何も知らないし。なんか言ってほしかったの?……まさか、私に負けて優勝できなかったから怒ってる?あんなもの、はぁ……」
溜息を吐いて言われたその言葉に俺はカチンと来た。フェリシアが優勝の事を特に何とも思っていないような態度が癇に触ったのだ。そこからの俺は止まらなかった。
”何でお前みたいな女が勝つんだ”、”アッシュブレイド家の俺がお前みたいなやつに負けたなんてありえない”、”ムカつく。嫌いだ、大嫌いだ”、”お前さえいなければっ――――”。
親父に怒られた悲しみや大勢の前で負けた恥ずかしさや悔しさ、情けなさが溢れ出して、俺が半泣き状態で憤って激情をぶつけて詰る中、フェリシアはじーっと此方を見つめてただただ話を聞いていた。
そうして俺が粗方言いたいことをぶつけ終えた頃、口を開いたんだ。
「それで結局、君はなんで優勝したかったの?どうして負けて憤るの?」
「っそれは……俺の家系の人間は皆この大会で優勝していて、お前のせいで優勝出来なかった俺は親父にこっぴどく叱られたんだぞ?」
冷静な顔と声でフェリシアが聞いてくる。突然言われたその質問に、その時の俺はそれ以外の理由が思い浮かばなかった。
「一族が優勝してるから……父親に叱られたから、ね」
「なんだよ?文句でもあるのか!?理由が子供っぽいって笑うつもりか?」
「いいえ。やっぱりなって。……大会の時も思ったけど、君、”戦う”っていう行為が嫌いでしょう?」
「え……」
自分の”戦うこと ”への感情を一発で見抜かれて、一瞬呆ける。フェリシアはそんな俺の様子を気にすることなく続けた。
「さっきの大会でも君は戦うことを怖がっているように感じた。……何が怖いの?」
「……人を傷つけるのが怖いんだ。それに本当は誰とも戦いたくなんてないし、戦いの訓練すら受けたくない。……俺は、こんな家に生まれたくなかった」
先程フェリシアに対して、自分の中の汚い感情全てを吐き出したのもあって、俺はいつのまにか素直に自分の気持ちを吐露し始めていた。
「俺をこんな風に縛る家も、それに応えられない弱い自分も、全部、全部嫌いなんだ」
「うん」
フェリシアは終始俺の吐き出した気持ちに相槌を打つだけだったが、その時は笑いも嘲りも同情も慰めも何の感情も見せずに隣で聞いているだけのその存在が支えになった。
******
あとがき:
もうそろそろディラン視点は終わります!ちゃんと話進めますので!!m(__)m
この武闘大会は十六歳以下の子供の部と十七歳以上の大人の部には別れていて、貴族・平民、性別も関係なく実力がある者ならば誰でも参加できるのが特徴だ。ある者は優勝者へ贈られる賞金目当てに、またある者は由緒あるこの大会優勝という名声を目当てに参加していた。
俺の家――アッシュブレイドの当主になる者は昔から武闘には秀でている者が多く、父も祖父もその前の当主も参加した回では必ず優勝を飾っていた。
……だから当然のように俺も勝てる、否、勝たなければと思っていたんだ。
けれど決勝で負けた。沢山の人間が見ている前で、完膚なきまでに打ち負かされて……。初めてだった。女、それも同年どころか年下に負けたのなんて――。
けれど俺の場合は負けてそのまま、なんてことにはならない。俺の家系は昔から辺境伯として今まで何度もこの大会で優勝を収めてきたのだ。当然、親父にもこっぴどく叱りつけられた。
大会後。王都の別邸についた瞬間、人払いを命じ、親父は俺を睨みつける。
こんな大会程度で優勝できないなど愚鈍の極み、一族の名折れ、恥だのなんだのと一方的に罵られた。
母は言い過ぎでは?と親父を諌めようとしてくれていたが、そんなもの効果はなく、親父が満足するまでそれは終わらなかった。
怒られている時は涙を流したらこれ以上に怒られることは分かりきっていたので、泣きはしなかったが心の中は泣きたいほどに荒れていた。
本当は俺は戦うことなんて嫌いだ。戦うことは怖い……人を傷つける行為だから。でもこの家に生まれたからには武術とは離れることなんてできない。俺は昔からそれが辛くて仕方がなかった。ただでさえ嫌いな事なのに、それで失敗して親父にも怒られて……。
そうしてそのままいたたまれなくなり、家から飛び出し王都の街を駆けた。街には未だに大会の熱気が残り、所々から大会の誰と誰の試合がーーという話題が漏れ聞こえる。
大会という言葉を聞くだけで、俺の心は張り裂けそうに傷んだ。その度に泣きそうになりながらも走る。
そうして走っている内にフェリシアを見つけたんだ。
フェリシアは一人で王都の中心である噴水の前のベンチでボケっと座っていた。
「……お前」
立ち止まってそうポツリと呟いただけで、噴水に向けられていた視線がこちらを向く。
「……君は、さっきの準優勝の子?」
「準優勝ってわざわざ言うなっ!!」
「事実」
「っ~~~!!」
少し話しただけで確信する。こいつ、嫌いだ。
「それで、何か用?」
「ああ」
確かに最初は用などなく立ち止まったが、フェリシアの言動で用ができた。子供だった俺はフェリシアに怒りをぶつけようと思い立ったのだ。
「俺はお前が嫌いだ。大っ嫌いだ!」
「ふーん」
フェリシアは無表情で俺のその幼稚な否定の言葉を流した。今だから思うが、こんなクソガキの逆恨みで絡まれたフェリシアも災難だったと思う。
「なんだ!その態度はっ!?」
「だって私、君の事何も知らないし。なんか言ってほしかったの?……まさか、私に負けて優勝できなかったから怒ってる?あんなもの、はぁ……」
溜息を吐いて言われたその言葉に俺はカチンと来た。フェリシアが優勝の事を特に何とも思っていないような態度が癇に触ったのだ。そこからの俺は止まらなかった。
”何でお前みたいな女が勝つんだ”、”アッシュブレイド家の俺がお前みたいなやつに負けたなんてありえない”、”ムカつく。嫌いだ、大嫌いだ”、”お前さえいなければっ――――”。
親父に怒られた悲しみや大勢の前で負けた恥ずかしさや悔しさ、情けなさが溢れ出して、俺が半泣き状態で憤って激情をぶつけて詰る中、フェリシアはじーっと此方を見つめてただただ話を聞いていた。
そうして俺が粗方言いたいことをぶつけ終えた頃、口を開いたんだ。
「それで結局、君はなんで優勝したかったの?どうして負けて憤るの?」
「っそれは……俺の家系の人間は皆この大会で優勝していて、お前のせいで優勝出来なかった俺は親父にこっぴどく叱られたんだぞ?」
冷静な顔と声でフェリシアが聞いてくる。突然言われたその質問に、その時の俺はそれ以外の理由が思い浮かばなかった。
「一族が優勝してるから……父親に叱られたから、ね」
「なんだよ?文句でもあるのか!?理由が子供っぽいって笑うつもりか?」
「いいえ。やっぱりなって。……大会の時も思ったけど、君、”戦う”っていう行為が嫌いでしょう?」
「え……」
自分の”戦うこと ”への感情を一発で見抜かれて、一瞬呆ける。フェリシアはそんな俺の様子を気にすることなく続けた。
「さっきの大会でも君は戦うことを怖がっているように感じた。……何が怖いの?」
「……人を傷つけるのが怖いんだ。それに本当は誰とも戦いたくなんてないし、戦いの訓練すら受けたくない。……俺は、こんな家に生まれたくなかった」
先程フェリシアに対して、自分の中の汚い感情全てを吐き出したのもあって、俺はいつのまにか素直に自分の気持ちを吐露し始めていた。
「俺をこんな風に縛る家も、それに応えられない弱い自分も、全部、全部嫌いなんだ」
「うん」
フェリシアは終始俺の吐き出した気持ちに相槌を打つだけだったが、その時は笑いも嘲りも同情も慰めも何の感情も見せずに隣で聞いているだけのその存在が支えになった。
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あとがき:
もうそろそろディラン視点は終わります!ちゃんと話進めますので!!m(__)m
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