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9(ディラン視点2)

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城塞に入る際に最初に目に入るのは、立派な門。造られてからかなりの年数がたっていながらも威厳が失われていないその門は、そこに佇むだけで長い歴史を感じさせる。
昔は何度もこっそりとこの門を潜り、街まで出かけていたことを思い出す。そんな懐かしい思い出が今はただ辛かった。

けれど、城塞内に足を踏み入れると違和感を覚えずにはいられない。城塞の中はもぬけの殻なのだ。ここまで走らせた馬を預けに行った厩舎も人どころか馬すらもいない。丁度厩舎から見える教会の辺りも静まり返っている。きっと城内で働いていた人間達も城外や街の修繕作業に回されてるのだろう。

そうして暫くフェリシアに城塞内の案内をしながら、歩く。よほど余裕がなかったのだろう。城塞内は俺が旅に出た時よりも薄汚れて、一部の場所は魔物の爪痕が深く刻み込まれ、壊れているというのにそのまま放置されていた。
昔は絶え間なく流れ出ていた噴水も今では手入れ不足で生えた藻すらも干からびて、昔の美しさは見る影もない。本邸前でそんなものをボーっと眺めていると、屋敷の扉が急に開き、俺に声が掛かった。

「ディラン様……!?」
「マーカス?」

声を掛けてきたのは家令ハウス・スチュワードのマーカスだった。俺が子供の頃からずっと世話をしていてくれた執事だ。どちらかというと怒られることの方が多かったが、それ以外の時は味方でいてくれた……昔から頼りになる男だった。その姿を見て、心の底から安心する。

「ああ。今帰った」
「よくご無事で……!」

マーカスは駆け寄ってきて、俺を抱きしめる。普段なら男からの抱擁など絶対に受けない俺だが、この時ばかりはその温かさが嬉しかった。けれどそんな念を吹き飛ばすかのように、はたとマーカスが冷静な声で発した。

「して、そちらの女性は?……こんな大変な時期に王都から遊ぶ女性を連れ帰ったなどだったら、ご主人様に――――」
「違うっ!!こいつはっ……そんな軽い相手じゃなくて俺の――――」

こいつは俺のーーーー定義しようとすると難しい。言葉を紡げなくてしりすぼみになってしまう。フェリシアは俺の昔からの親友であり、戦友であり、幼馴染で腐れ縁のライバル……なにより俺の長年の想い人だ。
我ながら情けないと思う。長年ずっと想いを告げる勇気も出ず、ズルズルとこの感情を引きずっているのだ。……俺はこいつの事が人生を狂わされるほどに好きなのに――――。

「ディラン様?」

マーカスに声をかけられて、正気に戻る。俺はマーカスが心配するほどに数秒の内に考え込んでいたようだった。

「あ~、俺が昔から文通していたやつがいただろう……」
「はい?えっと、まさか子供の頃、ディラン様が毎日のように”フェルからの手紙は!?”と聞きに来てい――」
「っ~~、余計なことを言うな!!」

マーカスが思いだすついでに余計なことを口走ったので、思わず焦って遮る。確かに子供の頃、フェリシアからの手紙が来ていないかの確認は毎日の楽しみで日課のようなものだった。手紙が来てたら喜んで、手紙が来てないとその日のテンションが下がるのだ。……中々に恥ずかしい思い出だ。
とは言っても、俺が5・6通出して1通帰ってくるくらいの頻度だった故に、手紙が来てる日の方が少なかったわけだが。

「っこれは、大変なご無礼を――――」

マーカスはフェリシアの立場が分かり、哀れだとさえ思う程に一瞬で顔が青褪める。マーカスのこんな顔初めて見たな~などと呑気なことを考えながら、俺は成り行きを見守る。フェリシアはそういう事を全く気にしないタイプなのに、久しぶりに会った家令が無礼を働いたとオドオドする姿は見てて少し面白かった。口を挟まないのは俺を一瞬でも焦らせた仕返しだ……不謹慎だとは思うが。

「いえ、私も馬に乗るためにこんな汚い格好をしていましたから、分からなくて当然ですよ。気にしないでください」
「申し訳ありませんでした。……ディラン様?」

マーカスの張り付いたような笑顔が怖い。きっとフェリシアを連れて来ることを連絡しなかった俺に怒っているのだろう。今度は俺が顔を青褪めさせる番だった。

「後で、お話しましょうね?」
「……はい」

マーカスの説教の呼び出しに俺は頷くことしか出来なかった。

*********
あとがき:

まず最初に。もしも続きを待っていてくださった方がいらっしゃたら、更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
ユリウス視点はもう少~~し後になります。m(__)m
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