ある古書店販売員の日常。

その三 毎月の事らしい。

　毎月第三金曜日は新作ゲームの発売日らしい。

　しかも成人向けゲーム、つまりエッチなパソコンゲームの発売日、しかも一社ではなく、たくさんの、本当にたくさんの複数メーカーが同じ日に発売する！

　なので、この週の金～日曜日のシフトは普段より厚くされていた。

　
　もっとも、その為に雇われた様なモンだし。

　ちなみに、普通のTVゲームソフトや、アニメのDVDソフトも新作発売日なので、そっちも期待しているそうだ。

　「ソレにしても買ったその日に、売りに来るなんてそんなに面白く無い内容のゲームなんですかね？」

　ん？

　でも、買い取ったゲームはほとんど未開封品だったような？

　そんな疑問にバイトの先輩「アキバさん」が答えてくれた。
　
　ちなみに「アキバさん」とはニックネームだ。

　「ソレはね、一人のヒトが別々のお店で同じゲームを複数買っているからなんだよ。」

　「何故ですか？」

　「店舗毎の「特典」が違うんだよ。
　「予約購入特典」とか「初回限定特典」とか、つまりは「特典のコンプリート」や「転売」が目的かな？」

　「ソレじゃ、お金が幾ら有っても、足りないのでは？」

　あ、だから余分なソフトをお金に変えるのか！

　「まぁその辺は、それぞれの「錬金術」が有るんですよ。
　
　例えばお店によっては「株主優待券」とか、「ポイントUPデー」とか利用する事でお得に買い物出来たりするからね。」

　「へ、へぇそうなんですね？」
　
　…とにかく、当日は各専門店では長蛇の列が出来て、
　沢山のゲームを購入した人が、必要分残して買取店に持ち込んだり、自分で転売したりしている様だ。

　「でも特典って、そんなに価値が有るんですかね？」

　特にゲームをやらない自分にはわからない事なのだけど、

　「皆んな、それぞれ自分の「推し」がいるし、ソレがこの時でないと手に入れられないモノなら尚更なんじゃいかな？」

　まるで当たり前の様に説明してくれるアキバさん、ソレを聞いても仕組みは分かった様な、気持ちが追いつかない。

　
　例えば、美少女が三人登場するゲームがあるとする。

　特典はその美少女のトレカだとして、
　A店ではA子さん、
　B、Cでも同じ様にお店ごとに別の子のトレカなら各店で購入すれば三種コンプリート出来る訳だけど、


　「そのコンプリートしたトレカだけをネットのオークションサイトで転売したりするんだ。」

　「そ、そんな事してるんですか、みんな？」

　「みんなでは無いだろうけど、そう言う人もいるって事かな、
　お店やメーカーによっては、通販でも手に入れられない場合もあるからね？」

　成る程、通信販売でソフトは買えても「特典」は必ずしもとは限らないのか？


　「下手すると、ゲーム三本買うよりコンプリートされたトレカの落札金額の方が高かったりしてね？」


　「特典」には色々有るらしい？

　「抱き枕カバー」とか「神絵師のオリジナル色紙」、「オリジナルドラマCD」等、本当に色々有るな？

　ん、神絵師って何だ？


　「実は「特典」も買い取りしようって話しが有ったんだけど、僕が反対したんだ。」


　「え、でも「特典」だけでも高く売れたりするんですよね？」

　
　「元は「タダ」のオマケだからね、買取査定が難しいのと、必ず売れると保証は無いからね、売れ残ると『ゴミ』なんだ。

　それだけならまだしも…」

　
　特典も買い取っているところも有る様だけど、査定金額に納得出来ない人から恨まれたりするのは避けたいとか？

　ゲームソフトと言うより「キャラクターグッズ」として買い取る場合、
　それぞれキャラクターに対する思い入れは人によって違うので、「もっと高い査定額な筈だ！」とゴネる人がいるとか、思わぬトラブルを起こす可能性が有るそうだ。


　「僕が学生時代にバイトしてたリサイクルショップでは閉店後に、査定額に納得出来なかった人から放火された事が有ったよ。」


　怖いんですけど、先輩のエピソード。


　あと、高く売れるのは一時、時間の経過で暴落するケースが多いらしい。

　

　今回も、前回同様に買い取った側から即店頭で販売する。

　特典をフルコンプリートする為に大量に購入する人もいれば、新品で無くとも安く購入出来れば良いって人もいるわけだ。

　もっとも、そう言うお客様が居るからこそ、成り立っているお店ですしね。
　

　薄利多売では有るけど、お店に来てもらえる事で他の商品を購入してもらえたり、他に取り扱っている買取対象品を持ち込んでくれるかもしれない。


　エロい品物はとにかく売れる！

　それだけでは無いと言う事か？



　もちろん買取を行なっているのはココだけではないのだけど、
　秋葉原や新宿、池袋などの専門店では既に混み合っているので、混雑をさけてウチのお店にも持ち込んでくれる利用者もいるのだ。



　そんな中、


　「『○○』ってソフトは絶対未開封品のみの買取になったから、販売価格修正してくれってさ！」
　

　「店頭の回収してきます！」





　休憩時間に突発な指示の理由をアキバさんに聞いた。

　
　「さっきのはメーカーがサプライズで「シリアルコード」を封入していたんだ。

　ソフトによっては、ネットに繋げて初回限定アイテムをゲットするなんて今じゃ珍しく無いんだけどさぁ、「シリアルコード」の使用の確認なんて一度しか使えないのに出来ないからね。

　確認する為には実際に入力しないといけないし、その時点で使用しちゃった事になるから試せないし？」とアキバさん。


　俺、ゲームってやらないから、わからないけど、もう一人のバイト「オオタ君」もうんうん共感してる。

　「アレもそうですよね？
　ゲームと連動して動くって話題だった「電動オ●ホール」付のエロゲーも、使用済みは初めから買取不可でした！」

　
　「話題にはなったね、結局ウチには持ち込まれなかっけど？」


　「でしたね～！
　そうそう、同じ意味で、女優さんの女性器を再現した「パーティーグッズ」付きアダルトDVD」は「ソフトのみ」なら買い取りしてましたよね？」

　「ソレ、実際に人体に優しいシリコンを女の子のアレに流し込んで、型取りしたそうですよ。

　マネージャーさんから聞いたから、間違いないっス。」

　毒されたか、俺も話しに参加してしまった。


　「店長のところにあるメーカーから「シリコンドール」を置いてみないかって打診が有ったらしいよ。

　但し、置くのはカタログと紹介映像のDVDだけどね。」

　「さすがに見本でも実物は置けないかぁ～、見たいな～本物？」

　残念そうなオオタ君？

　「しりこんどぅる？」

　「超高級ダッチワイフだよ、質感は人間そのものって話しだよ？知らんけどね？」

　「安いモノなら十万ぐらいから有るらしいけど、「量産品」だから、自分の好みの「天使」にするには天井知らずだって聞いたよ。」


　一応、成人向けコーナーには、そういった「大人のおもちゃ」的なモノも販売はしているが、金額が桁違いだし、等身大の人形って怖くて妙に生々しい！


　「シリコンドールの写真集なら持ってるけど、なんなら貸そうか？」

　さすがアキバさん？


　「是非！」

　即答のオオタ君、なら次俺も貸してもらおうかな？



　その日、閉店時間ギリギリまで買い取りしてましたよ。
　


　

　※あくまで当時の内容です、金額や曜日、商品など現在とは異なる場合が有りますのでご注意下さい。