彼の愛は不透明◆◆若頭からの愛は深く、底が見えない…沼愛◆◆ 【完結】

欲は大罪なのか 1

玖未の言葉を聞き逃さないよう右耳の盗聴イヤホンは外し、左耳では引き続き右京の公開会話を聞きながらゆっくりと歩き始める。

俺が待つのは玖未だけでいい。買い物を始めようじゃないか。

‘本間さんはお付き合いされている彼女はいらっしゃいますか？’

いらっしゃいますか…これが玖未には使えない言葉だろう。

周りの大人が使うのを聞いて育つ、または必要なビジネスシーンに出くわすなどの機会がなければ使えない。

俺は玖未の‘使えない言葉’の存在さえ愛しく思うほどで、彼女の時折見せる子どもっぽさももっと見せろと思うほどだ。

だがインカム越しに聞こえた女の‘いらっしゃいますか？’からは、女が人生の半分ほどを恵まれた環境で過ごしたことを感じ取らずにはいられない。自然に玖未を下に見るか…もしも自分に親がいないことを玖未より不幸だと感じていた時期があったならば、養子縁組以降の優越感は想像できる。

‘仕事が彼女だね。どうして？’
‘少し本間さんとお話させてもらえたらな…って。とても素敵なので…’
‘ありがとう。それって気があるってことなの？’
‘はい…たぶん…とてもタイプなんですよ’
‘それはどうも。でも…うぅーん…俺もタイプで言うとちょっとね…’
‘どんな女性がタイプですか？’
‘タイプね、ぽっちゃり以上…デブ専よりなんだよ、俺。あれが肉感的だと思うんだよね’

無茶苦茶な嘘を軽快に吐く右京に、インカムを聞いている者同士が顔を見合せ苦笑している。肉感的というのは性欲をそそるさまだろ？

右京が吐く嘘はただの肉の厚みじゃねぇか。

‘私がもう少しぽっちゃりだったら、そういう対象に見てもらえるってことですか？’
‘見た目で言うとそういうことになるね’
‘私、実は結構太りやすくていくつか制限して平日はダイエットしてるんです。だからすぐに太っちゃうかも、です’
‘へぇ…見てみたい気もするけど、だからって付き合うとかってことは言ってないよ？’
‘それはそうですよね。見た目の好みの話で…性格も重要ですもんね’
‘そーゆーこと。だから今日会って今日は何もないから。中山さんは玖未ちゃんのお友達ってだけだよ。じゃあ、気をつけて帰ってね。あ、そうそう。付け加えるなら、俺ツインテールも好きだよ’

ダサッ…右京のお遊びが始まったか…どうすんだよ…顔パンパンのツインテールの女が現れたら、皆が吹き出すぞ？玖未のさらさらロングを顎あたりで緩くふたつに括り、胸の膨らみに沿って髪が落ちてるのは好きだが。