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エーリッヒ視点
しおりを挟むアリアの誤解を解くべく、馬車の中でどのよう説明しようかをひたすら考えていた。
だが、考えが纏まらない内にアリアの家へと着いてしまった。
けれど、きっと大丈夫だ。
花も用意したし、私が誤解を解く姿を見て感動するはずだ。そして、婚約解消の手続きを始めたことに後悔するだろう。
そうなれば、私が優しく抱きしめて「もう一度婚約をすれば問題ない」と安心させてやろう。
私は寛大な人間なのだ、人の過ちを許せるくらいの度量はある。
誰だって間違いはある。
だから、今すぐ私の胸の中へ戻って来るんだアリア!
アリアが感動して私に抱き着いてくる所を想像しながら、アリアの屋敷のベルを鳴らす。
そうすれば、見慣れた執事がすぐに屋敷から出てくる。
「エーリッヒ様ではございませんか、どうされたのですか?」
「アリアに会いに来たんだ。今すぐ彼女に合わせてくれて」
今考えると、私からアリアに会いに来たのは今日が初めてかもしれない。
私が初めて訪れた日に花と愛の言葉を捧げられれば、アリアは感激して泣いてしまうかもしれないな。
ふふ、泣くアリアの顔を見るのも悪くないだろう。涙流せば、私が優しくその涙を拭ってやるさ。
「申し訳ありませんが、お嬢様は今家族旅行に行かれ不在のため、お呼びすることは出来ません」
「なんだと?旅行に行くなんて聞いていないが?」
「本日急遽決まりましたので」
「だとしても、何故私に報告がないんだ?」
「申し上げにくいのですが、エーリッヒ様とお嬢様は既に婚約解消された仲です。ですので、報告する義務はないかと」
確かにそうだが。
婚約解消したとはいえ、出会ってからずっと一緒に過ごしてきたんだ、一言くらいあってもいいものだろう。
それに、婚約解消を書類にサインした日に旅行に行くとはどういう事だ。
「もしかして…傷心旅行か…?」
「はい?」
なるほど、そういう事なら納得ができる。
昨日あんなに私に婚約解消の書類にサインしろと言ったのも、きっとヤケを起こしたからに違いない。嬉しそうな顔をしていたが、あれはきっと演技に違いない。
「お嬢様なら、嬉しそうに旅立たれましたが?」
彼女は何年も王妃教育を施されているんだ。自分の本心を出さずに振る舞うのはお手の物だろう。
私としたことが、君の演技気まんまと騙されたよ。
好きな相手から婚約解消を告げられたのだ、普通なはずがない。
「やっと解放されたと喜んでおられましたよ?」
すまない、アリア。
君の気持ちに気付いてやれなくて。
今すぐ君の誤解を解きに行ってあげるよ。
「アリアはどこへ旅立っていったんだ」
「それはプライベートのことですので、お答えしかねます」
「なんだと?」
「先程も申し上げましたが、エーリッヒ様とお嬢様はもう何の関係もない王族と貴族です。ですので、プライベートなことはお答えしかねます」
確かに婚約者ではなくなったが、それでも私達は浅い仲ではない。
なのにこの言い方はなんだ。
全く、ここの執事は臨機応変の対応というのが出来ないのか。
「なら、いつ帰って来るんだ」
「それも、お答えしかねます」
「もういい。お前では話にならない。執事長を呼べ」
下の位の者は融通が効かない。
雇い主の気持ちを考えて行動するということが出来ないのか。まったく。婚約解消したとはいえ、アリアが私に隠し事などするはずがないだろう。
「恐れながら、私が執事長を務めております。そして、旦那様、奥様より直々にエーリッヒ様にはアリアお嬢様の居場所を伝えないようにと仰せつかっておりますので、お伝えすることは出来ません」
「なんだと…!」
何故そんな対応をされなければいけないんだ!
いや、アリアの両親は元々この婚約に否定的だったんだ。なら、この対応も頷ける。
だがーー。
「アリアはなんと言っていたんだ!いくら御両親がそう言っていたとしても、私はアリアの意見しか聞かないぞ!」
「アリアお嬢様は…」
「なんだ?」
言い淀むということは、やはりアリアは私に迎えに来て欲しいと言っていたのではないのか?
きっとそうに違いない。アリアはいつだって私のことを1番に考えているのだ。
「アリアお嬢様は、お伝えしないようにとは仰っていませんでしたが…」
「でしたが?」
執事長の次に出てくる言葉を想像して笑みがこぼれる。
「もう金輪際、エーリッヒ様と関わりたくないと仰っていました」
「そうだろ。アリアはやはり私の迎えを……は?」
「ですから、もう金輪際関わりたくないと仰っていましたので、お嬢様の居場所をお伝えするわけにはいきません」
……なるほど、そういう事か。
私の顔を見れば、婚約解消をしたことへの悲しさを思い出すからか。だから私に会いたくないという事だな。
「そういうことなら、アリアの居場所を今すぐに教えてくれ」
「・・・申し訳ありません。私が先程申し上げたことが伝わっておりませんか?」
「これ程にもなく伝わっている」
アリアの裏の気持ちまでしっかりとな!
しかし、この執事長はアリアの裏の気持ちまで汲み取れなかったのだろう。
まぁ、それも仕方のないこと。
アリアと私の関係は海よりも深い、たかが執事ごときに測りきれるものではないのだ。
「アリアは私に追いかけてきて欲しいんだ。だから、私に彼女の居場所を教えろ」
「なんと申し上げればいいのでしょうか…。私からは、お伝えすることはできませんと申し上げることしか出来ません」
本当に融通の利かないやつだ。私がアリアと結婚した暁には、この執事長を辞めさせるべきだと御両親に伝えてやるしかないな。
よくこんな忖度も出来ない奴が執事長なんかやっているな。
「もういい、お前とでは話にならない」
それどころか、時間の無駄だ。
時間は掛かるが、こっちで探した方が早い。
何故好き合ってる者同士が会うだけなのにこんな遠回りをしなければいけないだ…。
そういえば、いつか一緒にいた令嬢が言っていた。恋に障害は付き物だと。
あの時は何を言っているのかと思っていたが、こういうことだったのか。
障害を乗り越えてこそ、私達は幸せに結ばれるんだな。なら、私はこの障害を乗り越えよう。
今すぐ宮殿へ帰って、情報ギルドに人を送らなければ。
応援ありがとうございます!
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