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6章 武者首
武者首
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駐車場で深み色のワゴンタイプの車でコゲツが運転席に座っていて、キョウさんとダイさんは後部座席に乗り込む。
そこへ千佳も乗り込み、わたしは助手席へ乗り込んだ。
「お疲れ様です。汗で冷えませんでしたか?」
「うん。着替えを持ってきてくれてありがとう。それにしても、この車どうしたの?」
「嫁殿を驚かせたくて、内緒で購入してみました。驚きましたか?」
そう聞いてきたコゲツがなんだか可愛い人だなと思ってしまって、わたしは目を細めて頷く。
「凄く驚いたよ」
「いつか嫁殿が十八歳になったら免許を取得して、この車は自由に乗り回してくださいね」
「免許かぁ、少し先の話だけど頑張らなきゃ」
車の免許は大人になったら取ろうと思っていたし、漠然とそう思っていたことも実際はあと少しの月日しかないのだなと、改めて感じた。
「すみませーん。後ろにあたし達がいることを忘れないでくださーい」
「千佳……」
わたしが半目で千佳を見れば、千佳もニヤけ混じりの半目で見返してきた。
揶揄う気満々の千佳のペースに乗せられてはいけないと、前に向き直す。
後ろから千佳の騒ぐ声がするけれど、キョウさんとダイさんに「大人しくしておれ」と小突かれる。
二人が大人しくしろと言った理由としては、後ろの後部座席にもモニターが付いていてテレビが見れるため、二人は好きなテレビの音を拾うのに必死だからだ。
車が駅前のロータリーを差し掛かった時、千佳が後部座席から前の座席へと乗り出す。
「師匠、師匠。駅前の木って何かあるんですか?」
「……何かありましたか?」
「いえ、何があったって訳じゃないんですけど、ミカサの腕輪が黒くなったから」
わたしは自分の腕輪の勾玉をコゲツに見せ、今は薄く黒いかな? 程度に曇っていた。
別に気にするほどのことではない。
「まぁ貴方がたは先に言っておかないと余計なことに首を突っ込みそうですから、くれぐれも言いますが、余計なことに首を突っ込まない。いいですね?」
「そんな二度押ししなくても、分かってるよ」
「そうですよ師匠。弟子と奥さんを信じなさいって」
「貴方がたの、そういうところが信用ならないのですよ」
確かにわたし達の今までの悪行……いや、悪行と言えるかは微妙だけど、わざわざ怖い思いをしに行くつもりは無いんだよ? 本当にね。
「あの木については何か知っている噂などは?」
「えーと、恋人心中の木で落ち武者の晒し首にー……あ、そうそう。あの木を切り倒そうとした人や業者の人が不幸に見舞われたとか聞きましたよ!」
また物騒な話の追加にわたしは眉間にしわを寄せる。
出来ることなら聞きたくない話でもあるけど、ここにいる以上は逃げ出せないから仕方がない。
コゲツが小さく溜め息をつき、千佳に「人の不幸を嬉々として言うんじゃありません」と窘める。
「最初の話は平安時代から始まります。あの木はうちの御神木様が関わっている木のうちの一本です」
「うちのサクラが?」
「ええ。御神木様に力を借りに来た僧侶がいたと話したでしょう? その時に封印された人ならざる者があの木には封じられています」
「じゃあ、わたしが御神木様を帰しちゃったから、封印が解けちゃったってこと⁉」
「半分正解です。全て解けたわけでは無いのですが、ご覧の通り邪気を発していて人が寄り付かない」
木の周りをタクシーですら車を停めていない理由は、これだったようだ。しかし今回もまたわたしがやらかしたことが引き金とは、胃が痛くなりそう。
半分正解……御神木様は完全に消えた訳では無く、サクラとして新しく力を残してくれているから、封印は解かれていなかったということだね。
「元が強い人ならざる者ですから、引き寄せられてしまう人が多く、魂を吸い取られてしまう事件が平安の時代より多々報告されています。祓い屋はその度に浄化作業をしているのですが……完全に払いきることが出来ないのが現状です」
「なんでですか? ミカサとか手で触ったらイケるんじゃない?」
わたしは首を横にブンブン振る。
千佳は余計なことを言わないで欲しい。
わたしは平和を愛しているので、物騒な魂を吸い込むような木に近付きたくもない。
「それは却下です」
「師匠だって、ミカサの能力は凄いって知っているのに?」
「嫁殿の力は私も分かっていますが、そういうことではないのですよ」
駅の時計が十二時を指した時、オルゴールと共に自動からくり人形が駅の壁から出て来て踊り出す。
これはこの駅の一番力を入れたところで、普段なら写真を撮っている人もいるはずなのに人が居ない。
「答えはこれです」
コゲツの言葉と共に、晒し首の木から落ち武者のようなざんばら髪の生首が出てきてオルゴールの人形達が、ガクガクと揺れていた。
『っ、ひゃ、ひゃ、ひゃああああ!』
大声で叫んだつもりが、声にならずに口をパクパクしただけになった。
千佳は「嘘ぉ」と小さく声を出していたけど。
コゲツが車を発進させ、わたしはシートベルトを強く握りしめて口を開けたり閉じたり忙しい。
「見た通り、首だけですからね。首だけでは対処できないのですよ」
「だって、首切りの首なら体は無いんだし、良いんじゃないですか?」
「あの武者首は、胴体、手足の三つに分けて封印されているんですよ。だから、頭だけ祓ったところでどうしようもない訳です」
「なるほどー」
ああ、この二人が冷静過ぎて誰かわたしの恐怖を受け止めて欲しい!
怖い話は嫌いだって知ってるくせにー! と、心の中で大絶叫した私である。
そこへ千佳も乗り込み、わたしは助手席へ乗り込んだ。
「お疲れ様です。汗で冷えませんでしたか?」
「うん。着替えを持ってきてくれてありがとう。それにしても、この車どうしたの?」
「嫁殿を驚かせたくて、内緒で購入してみました。驚きましたか?」
そう聞いてきたコゲツがなんだか可愛い人だなと思ってしまって、わたしは目を細めて頷く。
「凄く驚いたよ」
「いつか嫁殿が十八歳になったら免許を取得して、この車は自由に乗り回してくださいね」
「免許かぁ、少し先の話だけど頑張らなきゃ」
車の免許は大人になったら取ろうと思っていたし、漠然とそう思っていたことも実際はあと少しの月日しかないのだなと、改めて感じた。
「すみませーん。後ろにあたし達がいることを忘れないでくださーい」
「千佳……」
わたしが半目で千佳を見れば、千佳もニヤけ混じりの半目で見返してきた。
揶揄う気満々の千佳のペースに乗せられてはいけないと、前に向き直す。
後ろから千佳の騒ぐ声がするけれど、キョウさんとダイさんに「大人しくしておれ」と小突かれる。
二人が大人しくしろと言った理由としては、後ろの後部座席にもモニターが付いていてテレビが見れるため、二人は好きなテレビの音を拾うのに必死だからだ。
車が駅前のロータリーを差し掛かった時、千佳が後部座席から前の座席へと乗り出す。
「師匠、師匠。駅前の木って何かあるんですか?」
「……何かありましたか?」
「いえ、何があったって訳じゃないんですけど、ミカサの腕輪が黒くなったから」
わたしは自分の腕輪の勾玉をコゲツに見せ、今は薄く黒いかな? 程度に曇っていた。
別に気にするほどのことではない。
「まぁ貴方がたは先に言っておかないと余計なことに首を突っ込みそうですから、くれぐれも言いますが、余計なことに首を突っ込まない。いいですね?」
「そんな二度押ししなくても、分かってるよ」
「そうですよ師匠。弟子と奥さんを信じなさいって」
「貴方がたの、そういうところが信用ならないのですよ」
確かにわたし達の今までの悪行……いや、悪行と言えるかは微妙だけど、わざわざ怖い思いをしに行くつもりは無いんだよ? 本当にね。
「あの木については何か知っている噂などは?」
「えーと、恋人心中の木で落ち武者の晒し首にー……あ、そうそう。あの木を切り倒そうとした人や業者の人が不幸に見舞われたとか聞きましたよ!」
また物騒な話の追加にわたしは眉間にしわを寄せる。
出来ることなら聞きたくない話でもあるけど、ここにいる以上は逃げ出せないから仕方がない。
コゲツが小さく溜め息をつき、千佳に「人の不幸を嬉々として言うんじゃありません」と窘める。
「最初の話は平安時代から始まります。あの木はうちの御神木様が関わっている木のうちの一本です」
「うちのサクラが?」
「ええ。御神木様に力を借りに来た僧侶がいたと話したでしょう? その時に封印された人ならざる者があの木には封じられています」
「じゃあ、わたしが御神木様を帰しちゃったから、封印が解けちゃったってこと⁉」
「半分正解です。全て解けたわけでは無いのですが、ご覧の通り邪気を発していて人が寄り付かない」
木の周りをタクシーですら車を停めていない理由は、これだったようだ。しかし今回もまたわたしがやらかしたことが引き金とは、胃が痛くなりそう。
半分正解……御神木様は完全に消えた訳では無く、サクラとして新しく力を残してくれているから、封印は解かれていなかったということだね。
「元が強い人ならざる者ですから、引き寄せられてしまう人が多く、魂を吸い取られてしまう事件が平安の時代より多々報告されています。祓い屋はその度に浄化作業をしているのですが……完全に払いきることが出来ないのが現状です」
「なんでですか? ミカサとか手で触ったらイケるんじゃない?」
わたしは首を横にブンブン振る。
千佳は余計なことを言わないで欲しい。
わたしは平和を愛しているので、物騒な魂を吸い込むような木に近付きたくもない。
「それは却下です」
「師匠だって、ミカサの能力は凄いって知っているのに?」
「嫁殿の力は私も分かっていますが、そういうことではないのですよ」
駅の時計が十二時を指した時、オルゴールと共に自動からくり人形が駅の壁から出て来て踊り出す。
これはこの駅の一番力を入れたところで、普段なら写真を撮っている人もいるはずなのに人が居ない。
「答えはこれです」
コゲツの言葉と共に、晒し首の木から落ち武者のようなざんばら髪の生首が出てきてオルゴールの人形達が、ガクガクと揺れていた。
『っ、ひゃ、ひゃ、ひゃああああ!』
大声で叫んだつもりが、声にならずに口をパクパクしただけになった。
千佳は「嘘ぉ」と小さく声を出していたけど。
コゲツが車を発進させ、わたしはシートベルトを強く握りしめて口を開けたり閉じたり忙しい。
「見た通り、首だけですからね。首だけでは対処できないのですよ」
「だって、首切りの首なら体は無いんだし、良いんじゃないですか?」
「あの武者首は、胴体、手足の三つに分けて封印されているんですよ。だから、頭だけ祓ったところでどうしようもない訳です」
「なるほどー」
ああ、この二人が冷静過ぎて誰かわたしの恐怖を受け止めて欲しい!
怖い話は嫌いだって知ってるくせにー! と、心の中で大絶叫した私である。
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