あやかし祓い屋の旦那様に嫁入りします

ろいず

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6章 武者首

チャイとアップル

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 千佳を家まで送り届けて、わたし達も家路に着いた。
 コゲツが車を停めている間にわたしは一足先にお風呂に入るように言われて、着替えを持ってお風呂に行ったものの……明るいうちに入るから良いけど、夜にお風呂は無理かもしれない。
 さっき聞いたり見たりした武者の首が脳裏に焼き付いて離れないから、怖くてどうしようかと思っていたら火車がお風呂の蓋の上で丸まっていた。

「火車~。たまにはお風呂に入ろうねぇ」
「にゃぁ?」

 寝ぼけて欠伸をしている火車を手に持ち、お風呂場を締め切る。
 そこで火車も察したのかわたしをジトリと睨みつけた。

「火車~怖いから一緒にお風呂入ろ?」
「ぶにゃー……」

 仕方がないなぁと言うように、お風呂場の換気窓の上に座りじっとしていてくれる。
 少し面倒くさがりだけど人間臭い火車のこういうところが好ましい。
 それでも火車から早くしろという圧のようなものが発せられているので、わたしは素早く頭と体を洗う。
 湯船に少し浸かって程よく今日は動いたなぁと、手足が疲労を訴えているのを感じた。

「はぁー……明日は筋肉痛じゃないと良いなぁ」
「なうー」
「はーい。火車も付き合ってくれてありがとう。もう出るよー」

 お風呂から上がり火車も回収して居間へ行くと、スパイシーな香りが台所からしていた。
 甘いようなそれでいて懐かしい……なんだろうと台所を覗くと、コゲツが小さな白い小鍋で茶色い何かを煮だしていて、後ろの調理台ではキョウさんが泡だて器でホイップを作り、ダイさんが大きめのタンブラーを用意していた。

「皆、何を作ってるの?」
「ミカサ、ちょっとしたカフェ気分のやつだ」
「主が店に行かずとも家でくおりてぃーの高い飲み物を作るそうだ!」

 人型なのに犬の尻尾でも見えてしまいそうな二人の嬉々とした顔に、こちらも嬉しくなってしまう。
 しかし、カフェのような飲み物とはなんなのだろう?

「コゲツ、何作ってるの?」
「今日は体を中から温めた方が良いかと思って、チャイティーラテです」
「チャイティーって、よく耳にするけど、体を温めるの?」

 テレビやSNSでは耳や目にはするけど、実際飲んでみたことは無い。
 なんだか外国の紅茶なのかな? というあやふやな感じで、よく分からないところだ。

「チャイの本場はインドです。インドと言えばスパイスですからね。チャイはシナモンロールを使うのですが、これはビタミン群が多く含まれていて、血液の循環を良くし発汗や抗菌作用などもあると言われています。他にも年上の女性には嬉しいシミやしわ、たるみなどにも効果があるとされています。まぁ、過剰摂取は禁物ですが」
「へぇーシナモンってアップルパイとか揚げパンの上にかけてあるやつだよね?」
「ええ。ただ、揚げパンのシナモンはニッキかもしれないですけどね」
「シナモンとニッキって違うの?」

 同じ物じゃないのだろうか? 味も似た感じがするし……でもニッキというと京都のお土産とかに使われている和風のイメージがする。
 コゲツは小鍋を網で越しながら、ダイさんが持ってきたタンブラーに注ぐ。
 一見すると普通のミルクティーに見える。

「シナモンはセイロン産地の物で、ニッキは日本産地の物という風に覚えておくと良いかもしれません。まぁ、今はどこの産地というのはわりと曖昧になってきてはいますけどね」
「そっかぁ。なんだか食欲をそそられる感じがする」
「嫁殿は食いしん坊ですね。まぁお昼ご飯もまだですから仕方もありませんか」

 そう。今日は体を一杯動かして、お腹はペコペコなのだからこれは普通に仕方がない。
 お腹が鳴くのも、このシナモンの香りが誘惑しているからだ。

「主、生クリームが出来たぞ」
「では、チャイティーの上に載せてしまいましょうか」

 キョウさんの泡立てたホイップをチャイティーの上に載せ、上から黒蜜を掛け、さらにその上にシナモンパウダーを振りかけて、わたしとキョウさんにダイさんへとタンブラーを持たせてくれる。
 本当にお家カフェのようだ。

「おおっ! テレビで見たヤツだ!」
「これはバズれるのではないか!?」
「また二人共、妙な言葉を覚えましたね……」
「ふふっ。わたしもスマホで写真を撮って、千佳に送っちゃお」
「嫁殿まで。それなら、アップルパイも焼きあがりましたから一緒にどうぞ」
「アップルパイも⁉」

 わたしがコゲツに飛びつかんばかりに詰め寄ると、流石のコゲツも驚いたのか目を丸くしていた。
 だって、アップルパイの焼き立てはサクサクで美味しいのだから、これは仕方がない。
 一度味わってしまえば、冷めたアップルパイじゃ満足できないのだから、焼き立てに勝るもの無しなのだ。

「アイスクリームも上に載せましょうか?」
「コゲツ、それって最高!」
「主! 我にも!」
「アイスクリームを所望する!」

 詰め寄るわたし達にコゲツはオーブンからアップルパイを取り出し、台所に一気に香ばしくて甘い香りが広がった。
 包丁でアップルパイをサクッと切る音がたまらない。
 ワクワクと子供のように待つわたし達をコゲツはお母さんのように、微笑ましそうに見て笑う。
 熱々のアップルパイの上にバニラアイスが載った。
 
「はぁぁ~。コゲツは最高のお嫁さんッ!!」
「お嫁さんは嫁殿ですけどね」

 コゲツに頬に軽いキスをされて台所から出され、居間でアップルパイの美味しさもチャイティーの味もよく分からなくなってしまったのは、ワザとなのかなんなのか!
 ああっ、でもやっぱり好きなものは好き。
 それは何を? と聞かれたら困ってしまうけれど。
 球技大会の終わったわたしのちょっぴり怖くてちょっぴり甘い、そんなひと時の秋の終わり。
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