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5章 祭祀の舞
木の実
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囃子の音もピタリと止み、コゲツとわたしは動きを止めて足元の実と枝を見つめる。
親戚の人達もお義母さんも、時が停止してしまったように驚きの表情で動かなかった。
「あの人が、御神木様……だよね?」
「私も、初めて目にしました」
コゲツが息を呑んだのが分かる。
舞台に居たわたし達だけが目にできたのだろう。
お義母さん達は舞台の上に置かれた実に目を奪われている。
ガタンッと後ろで音がして振り向くと、カズエさんが舞台で尻もちをついて御神木を指さしていた。
「ば、化け物―ッ!!」
化け物? わたしが首を傾げるとコゲツが小さくため息を漏らす。
「カズエさんは、人ならざる者を見る目はあるのですが、祓い屋として育っているわけではないので、ね」
コゲツが手でカズエさんを舞台から降ろすように指示を出し、囃子の人達が彼女を舞台袖へと連れて去っていく。その間中、カズエさんは喚き散らしていた。
「普通の人も、いるんだね……?」
「ええ。まぁ、嫁殿と同じように普通に育った方ですからね。周りの親族が祓い屋家系だと言っても、一年に一回の舞に対して子供を怖がらせたり、真面目に舞わせるための嘘だと信じて疑わない人です」
「よく今まで舞に参加出来てたね」
「私が中学生ぐらいまでは目が普通でしたからね。彼女が怖がりな性質だったので、私や周りもあえてカズエさんに言わなかったのもあります。何より、舞い手となる子供が彼女以外に居なかったのもありますしね」
わたしも一般家庭育ちなうえ、ホラーとか怖いものはお断りだからカズエさんの気持ちが分からない訳じゃない。
コゲツが木の実を拾い上げると、その実をお義母さんへ手渡した。
「あの実食べれるのかな?」
「どうでしょうね? 私も実が貰えたのは初めてです。母さん、その実はどういう物なんです?」
「さぁ? 私も実は初めてだわ。皆さんもですわよね?」
周りの親戚の人達も一様に困惑した顔をする。
「しかし練習で御神木から実を頂いたので、これは今年の祭祀は終わりですかね……?」
「ああー……そうよね。困ったわ。お父さんにも聞くしかないわね」
コゲツとお義母さんは同じように唇の下に指を置いて首を傾げる。
祭祀がこれで終わりなら、それはそれでいいのでは? と舞うのがそれほど得意ではないわたしとしては賛成だ。
「それなら、私は早々に帰らせてもらう」
「そうだな。祭祀が終わりならば家に帰らせてくれ。こんな何もないところにいる必要性が無い」
「今回は早く終わってくれて助かるわ。ああ、ちゃんと分け前は頂きますからね」
皆帰ることに一致はしているようだけど、自分がこの親族達と同じ意見なのは解せない。
「なぉーぅ」
「あ、火車。どこに行っていたの?」
「にぃー」
ふわふわと火車がどこからともなく現れて、わたしの肩に下りてきた。
「ヒッ」と小さく声が聞こえ、親族の人達は嫌な物を見る目で火車を見る。
「にゃーごぉー」
「わ、私は帰る!」
「あ、兄さん。私も帰ります!」
「皆さん、御神木の実は……」
「いつも通り持ってこい!」
火車が親戚の頭上を歩き回ると、蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまった。
何か後ろ暗いことでもあるのだろうか?
「困ったわね。でも、久々に都会に遊びに行くのもいいわよね」
「あの人達は、貰う物だけ貰うだけなのに、ああも偉そうなのは気に入りませんけどね」
「コゲツとミカサさんの日常生活も見てみたいし、お父さんと久々に都会のお高いスイーツパーラーも良いわね」
「母さん。スイーツパーラーって、また言い方が……」
「お義母さん! 是非!」
「あっ、嫁殿。困った人ですね。甘い物に目が無いのだから」
ハーイと手を挙げてアピールしたわたしの頬を、コゲツの指がムニムニと左右に回す。
美味しいスイーツならばわたしも一緒に食べたい。
「じゃあ今年の祭祀も今回はこれまでかもしれないから、早目に終わるようなら一緒に食べに行きましょうね」
「わぁー。お義母さん大好き~」
「嫁殿。私が今度連れて行ってあげますから」
「本当に⁉ わぁーい。コゲツ大好き~」
コゲツの腰に抱き着くと、「あらあら。コゲツは大人気ないわね」とお義母さんに揶揄われていたけど、コゲツと美味しい物を食べに行く約束をしたから満足です。
女の子には甘い物が定期的に必要なんだよ。
夕方にはそれぞれ親戚の人は帰ってしまっていて、今年の祭祀は実が貰えたことで終了。
お義父さんは苦笑いしていたけど、実が一家の歴史上貰えたことは無いらしく、効果は不明なのだそうだ。
枝の方はそれぞれの親族や傘下の人達へと持って行くらしい。
実はお義父さんとお義母さんが果実酒にして、試し飲みしてみるのだとか……さすがにお酒は未成年だから、わたしは辞退しなきゃいけなくて、代わりに実の種を貰った。
帰ったら庭に植えてみようかと、コゲツと話をしている。
美味しい実なら良いなぁと、食いしん坊気味に思っているのよ。
キョウさんとダイさんも楽しみにしているしね。
親戚の人達もお義母さんも、時が停止してしまったように驚きの表情で動かなかった。
「あの人が、御神木様……だよね?」
「私も、初めて目にしました」
コゲツが息を呑んだのが分かる。
舞台に居たわたし達だけが目にできたのだろう。
お義母さん達は舞台の上に置かれた実に目を奪われている。
ガタンッと後ろで音がして振り向くと、カズエさんが舞台で尻もちをついて御神木を指さしていた。
「ば、化け物―ッ!!」
化け物? わたしが首を傾げるとコゲツが小さくため息を漏らす。
「カズエさんは、人ならざる者を見る目はあるのですが、祓い屋として育っているわけではないので、ね」
コゲツが手でカズエさんを舞台から降ろすように指示を出し、囃子の人達が彼女を舞台袖へと連れて去っていく。その間中、カズエさんは喚き散らしていた。
「普通の人も、いるんだね……?」
「ええ。まぁ、嫁殿と同じように普通に育った方ですからね。周りの親族が祓い屋家系だと言っても、一年に一回の舞に対して子供を怖がらせたり、真面目に舞わせるための嘘だと信じて疑わない人です」
「よく今まで舞に参加出来てたね」
「私が中学生ぐらいまでは目が普通でしたからね。彼女が怖がりな性質だったので、私や周りもあえてカズエさんに言わなかったのもあります。何より、舞い手となる子供が彼女以外に居なかったのもありますしね」
わたしも一般家庭育ちなうえ、ホラーとか怖いものはお断りだからカズエさんの気持ちが分からない訳じゃない。
コゲツが木の実を拾い上げると、その実をお義母さんへ手渡した。
「あの実食べれるのかな?」
「どうでしょうね? 私も実が貰えたのは初めてです。母さん、その実はどういう物なんです?」
「さぁ? 私も実は初めてだわ。皆さんもですわよね?」
周りの親戚の人達も一様に困惑した顔をする。
「しかし練習で御神木から実を頂いたので、これは今年の祭祀は終わりですかね……?」
「ああー……そうよね。困ったわ。お父さんにも聞くしかないわね」
コゲツとお義母さんは同じように唇の下に指を置いて首を傾げる。
祭祀がこれで終わりなら、それはそれでいいのでは? と舞うのがそれほど得意ではないわたしとしては賛成だ。
「それなら、私は早々に帰らせてもらう」
「そうだな。祭祀が終わりならば家に帰らせてくれ。こんな何もないところにいる必要性が無い」
「今回は早く終わってくれて助かるわ。ああ、ちゃんと分け前は頂きますからね」
皆帰ることに一致はしているようだけど、自分がこの親族達と同じ意見なのは解せない。
「なぉーぅ」
「あ、火車。どこに行っていたの?」
「にぃー」
ふわふわと火車がどこからともなく現れて、わたしの肩に下りてきた。
「ヒッ」と小さく声が聞こえ、親族の人達は嫌な物を見る目で火車を見る。
「にゃーごぉー」
「わ、私は帰る!」
「あ、兄さん。私も帰ります!」
「皆さん、御神木の実は……」
「いつも通り持ってこい!」
火車が親戚の頭上を歩き回ると、蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまった。
何か後ろ暗いことでもあるのだろうか?
「困ったわね。でも、久々に都会に遊びに行くのもいいわよね」
「あの人達は、貰う物だけ貰うだけなのに、ああも偉そうなのは気に入りませんけどね」
「コゲツとミカサさんの日常生活も見てみたいし、お父さんと久々に都会のお高いスイーツパーラーも良いわね」
「母さん。スイーツパーラーって、また言い方が……」
「お義母さん! 是非!」
「あっ、嫁殿。困った人ですね。甘い物に目が無いのだから」
ハーイと手を挙げてアピールしたわたしの頬を、コゲツの指がムニムニと左右に回す。
美味しいスイーツならばわたしも一緒に食べたい。
「じゃあ今年の祭祀も今回はこれまでかもしれないから、早目に終わるようなら一緒に食べに行きましょうね」
「わぁー。お義母さん大好き~」
「嫁殿。私が今度連れて行ってあげますから」
「本当に⁉ わぁーい。コゲツ大好き~」
コゲツの腰に抱き着くと、「あらあら。コゲツは大人気ないわね」とお義母さんに揶揄われていたけど、コゲツと美味しい物を食べに行く約束をしたから満足です。
女の子には甘い物が定期的に必要なんだよ。
夕方にはそれぞれ親戚の人は帰ってしまっていて、今年の祭祀は実が貰えたことで終了。
お義父さんは苦笑いしていたけど、実が一家の歴史上貰えたことは無いらしく、効果は不明なのだそうだ。
枝の方はそれぞれの親族や傘下の人達へと持って行くらしい。
実はお義父さんとお義母さんが果実酒にして、試し飲みしてみるのだとか……さすがにお酒は未成年だから、わたしは辞退しなきゃいけなくて、代わりに実の種を貰った。
帰ったら庭に植えてみようかと、コゲツと話をしている。
美味しい実なら良いなぁと、食いしん坊気味に思っているのよ。
キョウさんとダイさんも楽しみにしているしね。
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