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5章 祭祀の舞
扇ひらひら
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能楽堂の舞台の上で白く袖の長い着物でコゲツがゆっくりとした動きで舞い、その舞いの横で薄紫色の着物を着た先程の女性が舞う。
わたしが嫁入り前まで年に一回、この祭祀で踊っていた人。
そして今年も――
親戚の人達は家名を旦と言い、<縁>を継がない家系は一家の下の者ということで家名にされるらしい。
相変わらず一家のようにそうは読まないだろう? という読みをする。
不思議と言えば、この能楽堂の周りに咲く紫陽花も年中ずっと咲いているそうだ。
御神木の聖域だからということらしいけど、聖域自体がよくは分からないわたしとしては、清浄な雰囲気がそういうものなのかな? という曖昧さ。
「ミカサは踊らんのか?」
「あの程度なら、我らでも舞えようしミカサも舞えるのではないか?」
「うーん。どうかなぁ? わたしはそんなに踊りは上手くないんだよね。それにあれは練習らしいから、本番はもっと凄いんじゃないかな?」
キョウさんとダイさんに左右から挟まれて、わたしは人から離れた場所で二人の舞を見ていた。
人ならざる者を舞台の近くに連れて来るなと言われてしまって、でも来年の為にも見なければということで、なんだかコッソリと覗き見のような感じだ。
コゲツは気にしないでもいいと言っていたけど、新参者のわたしが逆らうのは勇気がいる。
それにね、おそらくわたしが一番年下なのよね。年下が上の人に逆らうって相当よ?
コゲツと一緒に舞っている人には恋敵のような睨みもきかされているから、わたしとしては平穏に過ごしていきたい。
だって、わたしが彼女に勝てるものなんてコゲツの妻という地位だけだもの。
「そうか? ミカサは運動神経はいい方だと思うが」
「足の運びがミカサは上手いからな」
「そんなに慰めてくれなくてもいいよ~。二人は優しいんだから」
「そういうつもりではないが」
「ミカサ。我らと真似して踊ってみようではないか」
キョウさんとダイさんが人の形になり、コゲツの舞を真似してみせる。
わたしも扇子を帯から抜いて、顔に日が当たらないように広げて動き始める。この動作は、女性が悲しみと不安を表現する際にする舞の仕草。
キョウさんがわたしと背中合わせに左右対称に舞い、背中合わせからすれ違う時にダイさんと入れ替わる。
「ほらな。ミカサは上手いではないか」
「これは基本的な動きだもの。あとは怒る人がいないから、リラックスしてできるのが一番かな」
「ああ、水島ではミカサも大変だったようだしな」
二人と交互に踊りながらひと通り踊り終わる頃、後ろに気配を感じて振り向くといつの間にかコゲツがいた。
キョウさんとダイさんは気付いていたと思うのに、教えてくれないとはとんだ裏切り者達だ。
「最初から最後まで覚えたんですか?」
「あー、その……うん。下手だから見て欲しくなかったのに……」
「上手でしたよ」
「そういうのを親の欲目と同じって言うんだよ?」
「今のを見て確信が持てましたし、嫁殿には今年から一緒に舞ってもらいましょう」
「へっ!?」
決定事項のようにキッパリ言わないで欲しい。
わたしが全力で頭を振ると裏切り者達まで「そうだぞ」と、コゲツに賛成の声をあげる。
本当に裏切り者だー!
「無理だから! もう本当に、無理ったら無理!」
「そう言わずに。私と一緒に舞うのが一年早くなっただけですよ」
「でもさっき一緒に踊ってた人がいるじゃない? その人に悪いし……」
「カズエさんですか? 彼女は嫁殿が嫁入りするまでの代役と言うだけですし、嫁殿がいるのにカズエさんが舞うのもおかしな話でしょう」
あっ、これは彼女の気持ちにコゲツが気付いてないやつだ。
妻の立場としては、コゲツの気持ちがあちらに向いてないのは素直に嬉しいけど、恋心を知ってしまったわたしとしては、カズエさんの気持ちを思うと少しだけ同情してしまう。
でもコゲツに気付いてもらえない悔しさを、わたしに向けてしまうのは間違いだからやめてほしい。
「コゲツ。それはカズエさんに申し訳ない気がする……って、カズエさんは?」
一緒に舞っていたはずのコゲツがここにいるということは、カズエさんはどうしたのだろ?
「お昼ご飯で休憩することになったのですよ。それで嫁殿達を呼びに来たら、楽しそうに踊っていたので一緒に見ていたのですが、いつの間にか居なくなっていましたから、先に食事に行ったのかもしれませんね」
「そうなんだ」
「ここへは子供の頃から来ている人ですから、道に迷うことなどもありませんよ」
「なら、大丈夫かな?」
「さて、私達もお昼に行きましょうか」
「はーい。キョウさんダイさん、お昼ご飯はなんだろうね?」
「主の母君が、鮎だと言っていたぞ」
「それと栗飯とカボチャの天ぷらもあるそうだぞ」
「わぁ! 美味しそう!」
コゲツに手を引かれてお昼ご飯に気分を上げて、わたし達は屋敷の方へ足を向けて歩き始めた。
秋の味覚は美味しい物がいっぱいなうえ、お義母さんもお料理上手でコゲツがお料理男子のルーツを見た気がするのよね。
お義父さんもお義母さんのお手伝いをしているから、コゲツがわたしに優しくしてくれるのも、こうして手を繋いで先導してくれるのもお義父さんを見て育ったからなのだろう。
わたしが嫁入り前まで年に一回、この祭祀で踊っていた人。
そして今年も――
親戚の人達は家名を旦と言い、<縁>を継がない家系は一家の下の者ということで家名にされるらしい。
相変わらず一家のようにそうは読まないだろう? という読みをする。
不思議と言えば、この能楽堂の周りに咲く紫陽花も年中ずっと咲いているそうだ。
御神木の聖域だからということらしいけど、聖域自体がよくは分からないわたしとしては、清浄な雰囲気がそういうものなのかな? という曖昧さ。
「ミカサは踊らんのか?」
「あの程度なら、我らでも舞えようしミカサも舞えるのではないか?」
「うーん。どうかなぁ? わたしはそんなに踊りは上手くないんだよね。それにあれは練習らしいから、本番はもっと凄いんじゃないかな?」
キョウさんとダイさんに左右から挟まれて、わたしは人から離れた場所で二人の舞を見ていた。
人ならざる者を舞台の近くに連れて来るなと言われてしまって、でも来年の為にも見なければということで、なんだかコッソリと覗き見のような感じだ。
コゲツは気にしないでもいいと言っていたけど、新参者のわたしが逆らうのは勇気がいる。
それにね、おそらくわたしが一番年下なのよね。年下が上の人に逆らうって相当よ?
コゲツと一緒に舞っている人には恋敵のような睨みもきかされているから、わたしとしては平穏に過ごしていきたい。
だって、わたしが彼女に勝てるものなんてコゲツの妻という地位だけだもの。
「そうか? ミカサは運動神経はいい方だと思うが」
「足の運びがミカサは上手いからな」
「そんなに慰めてくれなくてもいいよ~。二人は優しいんだから」
「そういうつもりではないが」
「ミカサ。我らと真似して踊ってみようではないか」
キョウさんとダイさんが人の形になり、コゲツの舞を真似してみせる。
わたしも扇子を帯から抜いて、顔に日が当たらないように広げて動き始める。この動作は、女性が悲しみと不安を表現する際にする舞の仕草。
キョウさんがわたしと背中合わせに左右対称に舞い、背中合わせからすれ違う時にダイさんと入れ替わる。
「ほらな。ミカサは上手いではないか」
「これは基本的な動きだもの。あとは怒る人がいないから、リラックスしてできるのが一番かな」
「ああ、水島ではミカサも大変だったようだしな」
二人と交互に踊りながらひと通り踊り終わる頃、後ろに気配を感じて振り向くといつの間にかコゲツがいた。
キョウさんとダイさんは気付いていたと思うのに、教えてくれないとはとんだ裏切り者達だ。
「最初から最後まで覚えたんですか?」
「あー、その……うん。下手だから見て欲しくなかったのに……」
「上手でしたよ」
「そういうのを親の欲目と同じって言うんだよ?」
「今のを見て確信が持てましたし、嫁殿には今年から一緒に舞ってもらいましょう」
「へっ!?」
決定事項のようにキッパリ言わないで欲しい。
わたしが全力で頭を振ると裏切り者達まで「そうだぞ」と、コゲツに賛成の声をあげる。
本当に裏切り者だー!
「無理だから! もう本当に、無理ったら無理!」
「そう言わずに。私と一緒に舞うのが一年早くなっただけですよ」
「でもさっき一緒に踊ってた人がいるじゃない? その人に悪いし……」
「カズエさんですか? 彼女は嫁殿が嫁入りするまでの代役と言うだけですし、嫁殿がいるのにカズエさんが舞うのもおかしな話でしょう」
あっ、これは彼女の気持ちにコゲツが気付いてないやつだ。
妻の立場としては、コゲツの気持ちがあちらに向いてないのは素直に嬉しいけど、恋心を知ってしまったわたしとしては、カズエさんの気持ちを思うと少しだけ同情してしまう。
でもコゲツに気付いてもらえない悔しさを、わたしに向けてしまうのは間違いだからやめてほしい。
「コゲツ。それはカズエさんに申し訳ない気がする……って、カズエさんは?」
一緒に舞っていたはずのコゲツがここにいるということは、カズエさんはどうしたのだろ?
「お昼ご飯で休憩することになったのですよ。それで嫁殿達を呼びに来たら、楽しそうに踊っていたので一緒に見ていたのですが、いつの間にか居なくなっていましたから、先に食事に行ったのかもしれませんね」
「そうなんだ」
「ここへは子供の頃から来ている人ですから、道に迷うことなどもありませんよ」
「なら、大丈夫かな?」
「さて、私達もお昼に行きましょうか」
「はーい。キョウさんダイさん、お昼ご飯はなんだろうね?」
「主の母君が、鮎だと言っていたぞ」
「それと栗飯とカボチャの天ぷらもあるそうだぞ」
「わぁ! 美味しそう!」
コゲツに手を引かれてお昼ご飯に気分を上げて、わたし達は屋敷の方へ足を向けて歩き始めた。
秋の味覚は美味しい物がいっぱいなうえ、お義母さんもお料理上手でコゲツがお料理男子のルーツを見た気がするのよね。
お義父さんもお義母さんのお手伝いをしているから、コゲツがわたしに優しくしてくれるのも、こうして手を繋いで先導してくれるのもお義父さんを見て育ったからなのだろう。
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